LV-17:新制イロエス

「サーシャ、パーティーを抜けるなら、ヴァントスさんに揃えて貰った装備置いていけよ。それだって、かなり金掛かってるんだ」


 ロクサスが言った。ヴァントスさんは、「どうでもいい」とでも言いたげな表情をしている。


「ええ、もちろんそのつもり。後でまとめてお返しするわ」


 サーシャはそう言うと、「一度部屋に戻ってきます」と言って、席を立った。


「ロクサス、カタルリーア往きの件どうするんだ? 船をキャンセルするなら、アタシたちが代わりに乗るが」


 ロクサスとグラウは、揃ってヴァントスさんの方を見た。


「どうぞどうぞ。俺たちは一度ガッテラーレに戻って、パーティーを組み直す。まあ、エクラウスを入れるって手もあるけどな。今度はすぐに抜けないメンバー見つけないとな」


 そう言って、ヴァントスさんも席を立ち、レストランを出て行った。


「急に忙しくなりましたね、私は武器屋等を見て来ます。ティシリィ、集合は10時でいいですか?」


「ああ、そうしよう。サーシャにはアタシから言っておく。じゃ、後でなインディ」


 俺たち、新制イロエスは急遽カタルリーアへ向かうことになった。



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◆インディ(魔法使い)LV-61

右手・キラーソード

左手・なし

防具・ガッテラーレの鎧

アクセ・守りの指輪

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◆ティシリィ(戦士)LV-65

右手・なし

左手・光りの剣

防具・ガッテラーレの鎧

アクセ・守りのブレスレット

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◆ナイリ(賢者)LV-56

右手・炎の剣

左手・魔法の盾

防具・魔法の鎧

アクセ・守りのバングル/雨の恵

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◆サーシャ(僧侶)LV-37

右手・キラーソード

左手・ガッテラーレの盾

防具・ガッテラーレの鎧

アクセ・守りのブレスレット/雨の恵

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 ここでは、ナイリだけが装備を新調した。そして、ナイリが付けていた装備はそのままサーシャに渡した。


「私が入ったために、こんな事になってしまってごめんなさい……ナイリさんには装備を譲って貰って、ティシリィさんには雨の恵まで借りちゃって……レベルも私だけ低いし、足手まといにならないかしら……」


「パーティーを組んだ以上、そんな事は気にするな。あと、アタシたちに『さん付け』は不要だ。魔法はどうなんだ? 強いのは持っているのか?」


「一応、断ったのだけど、『魔法の書だけは持っておきな』って、ヴァントスさんが……覚えた魔法も合わせると、そこそこ使えるかと思うわ」


「ヴァントスさんも、そんな悪い方じゃなさそうですね。それより、エクラウスさんに『雨の恵』を返すのを忘れていました……このまま持っていて、いいのでしょうか」


「またどこかで会うことが出来たら、返せばいいと思うよ。エクラウスさんだって、きっとそう言ってくれると思う」


 エクラウスさんの姿は、既にリーヴォルには無かった。一人でガッテラーレに向かっているのだろうか。一人になったエクラウスさんも心配だったが、俺たちの新制イロエスも心配だった。ティシリィが頑張って皆を引っ張ってくれているが、エクラウスさんが居てくれるという安心感は、とても大きかったからだ。




「イロエスの皆さん! 船が出ますよ! 準備が出来たら私に付いてきてください」


 リーヴォルの船員に誘導され、俺たちは船着き場へと向かった。海岸の崖沿いに作られた長い階段を降りていくと、俺たちが乗るであろう船が見えた。外輪船という奴だろう。船の両脇に大きな車輪のようなものが付いている。


「おおー! いいなあの船! あれでカタルリーアまで移動するのか。ちなみに、カタルリーアって、船着き場からすぐ近くにあるのか?」


「はい、リーヴォルと同じように、船着き場から階段を上がっていくと、すぐの所にあります。ちなみに、どちらの船着き場も特殊な結界のおかげで、モンスターが現れる事はありません」


 その船員は、大真面目な顔で説明してくれた。




 短い時間だったが、船上のひとときは最高だった。


 俺は一人、デッキ後方で潮風を受け、海鳥が近づいては目で追った。少し離れた場所では、ティシリィたちが談笑している。赤い髪、黒い髪、そして金髪が海風になびいていた。サーシャはもう、二人と打ち解けたのだろうか。エクラウスさんが抜けたのは残念だが、このパーティーはこのパーティーで上手くいくかもしれない。


 そう言えば、若い女性の参加者は多くなかったにも関わらず、こんなパーティーにいる俺は、モンスター以外からも敵視されそうだった。



 俺たちは船を下り、崖沿いの長い階段を上がってカタルリーアの村に入る。こちらもリーヴォルの村同様、今までの村に比べると小さな村だった。


「ちょっと! 来て来て! 外を見て!」


 一人で村の外まで足を延ばしていたサーシャが、慌てて戻ってきた。俺たちはサーシャの後を追った。


 カタルリーアの位置からすると、俺たちは今、西を向いている事になる。左手に連なる山々は、俺たちがいたルッカなどがある方角だ。


「あっち! 真っ直ぐ!」


 サーシャが指さしたのは、ちょうど真西だった。地図に載っていた、もう一つの城の方向だ。


「あっ……」


 俺たちは絶句した。


 遠目ながらも、その城は形をとどめておらず、朽ち果てているのが分かる。


「あ、あそこにベテルデウスが住んでいるのかしら……」


「そうかもしれないな。誰かに聞いてみるか」



 

 俺たちは、カタルリーアの村人に朽ち果てた城のことを聞いてみた。


「ああ……それなら村の端にある、教会で聞くといい。そこの神父さんなら、詳しい事を知っているはずだ」


 俺たちは促されるまま、教会へと足を向けた。教会がある村はカタルリーアが初めてだ。


「よく来られました、旅の者。ご用はなんでしょうか?」


 教会では、黒い装束を身にまとまった、品の良さそうな老人が出迎えてくれた。胸には、金色の十字架が輝いている。


「おおお……ここは死者を甦らせる事も出来るのか?」


「寄付は必要となりますが、もちろん出来ます……そのような不幸が起きたら、こちらにお寄りください」


 端末で蘇生させる場合に比べ、約半額で済むという。これからも金は掛かるだろう、俺たちにとっては嬉しい情報だった。


「私たちは、ここから見える朽ちたお城の事を聞きに来たのです。神父さまならご存じだと、村の方が……」


「ああ……あの城の事ですか。……もちろん、私は知っています。元々は誰が住んでいて、今は誰が住んでいるのかを。だが、今は全てを話せないのです。限られた情報になりますが、構いませんか?」


「そ、それなら仕方ない。限られた情報っていうのは?」


「今、あの城に住んでいるのは、アスドレクという魔物です。ベテルデウスの手下で、ベテルデウス以外では、唯一言葉を話す魔物と聞いています」


「元々住んでいたのは誰だ?」


「それに関しては、今は教えられません……ただ、あなたたちがアスドレクを退治することが出来たら、話してみてもいいかもしれません」


「今話せない理由っていうのは何でしょう? それさえも話せませんか?」


「……ルッカやガッテラーレなど、以前は全ての村に教会がございました。でも今は、あなたたちもご存じの通り、教会は一つも残っておりません。私が全てを話してしまうと、ここも同じような事になりかねないのです。……ですが、もしアスドレクを倒すことが出来たなら、私もあなたたちに賭けてみようと思います。神父が、賭けるなんて言葉を使うのもどうかとは思いますが……」


 これ以上、神父から話を聞き出せないと思った俺たちは、礼を言って教会を出ようとした。


「お待ちなさい。少しだけですが、私もあなたたちの力になりましょう。後で地図を見てください。それでは、ご武運をお祈りいたします」


 教会を出て端末を確認すると、地図は新しいものに上書きされていた。

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