第12話 彩香と過ごす夜は緊張で寝れそうにありません。
彩香は料理を作れないと言うか、人間の食べられる物を作れない。
灯は、普通に料理は出来るのだが、キッチンに行く事が出来ない。
仕方ないので、二人はネットでお昼を頼むと、その事を彩香が一葉に伝えに行く。一葉はごめんなさいねと、あの娘私の作ったご飯食べないからと、夕食も出前取ってねと、とても悲しそうな顔で、とても辛そうな声で伝えると、そのまま部屋に戻って行った。
そんな一葉の寂しそうな後ろ姿を見つめながら、彩香は一言も声を掛けられなかった。
簡単に元気を出して下さいねなんて、私がきっと灯さんを変えてみせますからなんて、そんな言葉を口に出せる程彩香は、大人ではなかった。
自分の娘が、自分とは話してはくれない。自分の作った食事を食べてくれない。
それは母親として、どんなにか辛い事なのかと、まだ子供を産んだ事のない彩香にも、多少なりとも理解は出来る。
もし自分が灯と同じだったのなら、お母さんはきっと凄く悲しむ。
それがわかるから、一葉の辛さは自分の想像の何倍も辛いのだと、そして自分の母親にあんな辛そうな顔をさせている灯に対して、多少なりとも怒りを覚えている自分がいる事もわかっていた。
怒りを覚えはしたが、自分が何か出来る訳でもない事も理解している。
母娘の問題に、妹の親友と言う立場でしかないうえに、まだ高校生である自分が下手に口を挟んで灯の引き籠り問題がややこしくなってしまっても、責任なんて取れない。
せめて食事位はお母さんが作ってくれたのを食べればいいのにと、その位はいいのではと思いながら、悶々としていたら、出前が届いたので、届いた昼食を待って階段を昇る。どうすればいいのかと考えるが、結局は短い階段の間にいい方法が思いつく訳もなく、あっさりと灯の部屋の前に着いてしまった。
コンコンと扉をノックしてから、一言入りますねと声を掛けてから扉を開ける。
灯から、部屋に入る時はノックして声を掛けてねも言われているのだ。りんりんもそうしてるからと言われては、彩香もそうしない訳にはいかない。
「温かい内に食べましょう」
彩香は、取り敢えず出前で頼んだ昼食をテーブルに並べると、笑顔で美味しそうですねと言って、一口口に運びながら、どうしておばさんのご飯食べないんですか? と聞きそうになって慌てて口を手で押さえる。
「彩香ちゃん、どうかした? 」
急に口を手で押さえたので、喉でも詰まらせたのかと灯が、心配そうに声を掛けてくれた。何でもないですと答えながら「今日お泊まりしますから、あとりんりん帰って来ないので、今日は二人ですね」と、そう言えば泊まると言ってなかったのを思い出して、宜しくお願いしますねと、とびきりの笑顔をお見舞いする。
凛ちゃんが帰って来ない?
彩香ちゃんと二人きり?
彩香ちゃんが、お泊まりする?
一緒のお布団で寝る?
一緒にお風呂も入るの?
色々な事が頭をよぎってしまって、灯は箸を持ったまま固まってしまう。
「りんりんから、お姉さんを宜しくって、お姉さん一人でお風呂入りたがらないから、一緒に入ってねと言われてるので、一緒に入りましょうね」
私、一人っ子だからお姉ちゃんとお風呂入るの夢だったんですと言われては、灯もそれはまずいですとは言えない。
凛の裸ですら、ドキドキするのに彩香の裸なんて見たら、浴室が殺人事件でもあったのではと言う程に、鼻血で真っ赤に染まってしまう。
それで済めばいいが、妄想が爆発して彩香ちゃんを襲いかねない。
「よ、宜しくお願いします」
そう言うのが精一杯だった。
彩香とのお風呂が楽しみ過ぎて、昼食後からの記憶が殆どない。
彩香が自分の事を色々と話してくれたり、私の事を色々と聞いてきたのだが、うわの空で正直殆ど覚えていないし、空返事ばかりしていたので、彩香からは熱でもあるんですか? とおでこを何度も触られる始末である。
そんな灯を見て、彩香はまだ二回目だから緊張しているんだよねと、いくらお友達になったとは言え、メールすらまともに出来ていないのだ。
メールを送るのは、いつも彩香からでりんりんからきっと必ず返事しなさいと言われているのだろう。返事は返してくれるが、返事が来るまでにかなりの時間があるので、他の友達と比べるとメールの回数に雲泥の差がある。
それでも構わない。灯が、一歩とは言わないが、半歩でもいいから、前に進んでくれたら嬉しい。
そんな彩香の気持ちには、当然の如く灯は気付いてなどいないのだ。
「お姉さんに聞きたい事あるんですけど、私からのメールって迷惑ですか? 」
気になって聞いてしまった。聞いてから、しまったと思っても遅いのだが、聞かずにはいられなかったのだ。
「め、迷惑だなんて、ただ凛ちゃん以外とメールなんてしないから、どう返事していいのかわからなくて」
彩香からのメールは嬉しいし、メールだけど彩香と話せるのは嬉しい。嬉しいのだが、どう応えていいのかわからない。
凛以外に、自分を見てくれると言うか、見ようとしてくれる人間がいるなんて思ってなかったから、緊張と喜びとで、素直になれない部分がある。
どう接していいのか、どう返事を返していいのかわからなくて、いつも当たり障りのない返事しか返せない。
聞きたい事は沢山ある。
彩香と言う女の子に興味がある。
でも、自分はこんなんだから、外にすら出られない駄目人間だから、きっと興味があるで止めておかないと、彩香と言う少女に踏み込んでしまえば、お互いに悲しい思いしかしない。
私が傷つくのは問題ない。
あの時に沢山悲しんだから、あれ以上の悲しみなんて、そうそうないから、でも彩香が悲しむのは見たくない。
彩香が悲しむと言う事は、大切な妹の凛も悲しむ事になる。
凛と彩香は恋人ではないが、親友と言っていたが、それ以上の繋がりを感じる。そんな二人の悲しむ顔を見るのが怖い。
だから一歩どころか、半歩すら前に進めない。
「迷惑じゃないなら良かったです。夕食まで時間ありますから、お姉さんの好きなゲームしませんか? 」
私、実は興味があるんですと、彩香はエロゲーが所狭しと並んでいる本棚に目をやる。
「えっ? いいの? 」
まさかエロゲーをしていいなんて、今日と明日は出来ないから、愛する美少女達よ、暫しのお別れと今朝挨拶したばかりだった。
たかだか二日なのに、灯にとっては断腸の思いでエロゲーしたい気持ちを封印していたのだ。
「あっ、お姉様、そ、そこは……恥ずかしい」
予想以上にエロいです。
女の子同士のエッチだし、大したことないよね。なんて、考えが甘かった。
やり慣れてる、見慣れてる灯は涎を垂らしながら、エヘエヘ可愛いよ〜と目がかなりエロいお姉さんになっている。
「お、お姉さん。こんなに激しいんですか? 」
敢えてエッチなシーンが激しいのを選んだんだよねと、彩香は灯にもう少しソフトなのはないんですか? と聞いてみたのだが「これが一番ソフトだよ。彩香ちゃん初めてだから、ソフトなの選んだんだよ」と笑顔で言われてしまう。
これで、ソフトならハードなのは、どんだけ凄いんですか? と彩香はエロゲー凄いと、灯さんってやっぱり大人なんだと、変な所で感心しながら、自分から誘ったんだからと、再びモニターに目を移す。
エロゲーをやり始めてから、既に二時間経過。
これは、彩香ちゃん好きだと思うなと、灯は水を得た魚の如く生き生きしながら、次々と違うエロゲーを紹介しては、プレイするので、もうお腹一杯ですとは、とても言えない状況に、今頃母親に処女を奪われているかもしれない凛に、りんりん助けてくださいと心で、何度も叫んでいた。
エロゲーを始めてから五時間経過。
彩香は、もう解放してくださいと、もう可愛い女の子の喘ぎ声は暫くいいですと、半泣き状態。
一方の灯は、元気ハツラツで目は爛々と輝いている。
「お姉さん、そろそろ夕食頼みませんか? 私お腹空いたな〜なんて」
駄目元で聞いてみる。こんなに楽しそうにしているのに、その邪魔をするなんて大変申し訳ないのだが、本気でお腹空いたし、取り敢えずこれ以上女の子の艶めかしい姿を見ていたら、いくらゲームとは言え、頭が変になりそうだ。
灯に対して変な気を起こしたり、ましてやそんな関係になるとは思えないが、雰囲気に飲まれて一線を超えてしまう可能性はゼロではない。
ましてや、灯はいくら引き籠りの自宅警備員とは言え、年齢は五歳年上の立派な大人。そう言う事を望んでいないとは言い切れない。
(もし、そうなったら私はどうするんだろう? )
キスにもエッチな事にも、年相応に興味はあるのだが、お姉さんとはお友達であって恋人ではない。恋人でもない人と、そんな事出来る筈ない。
「そうだね。もうそんな時間なんだね。ごめんね。何時間も付き合わせてって、どうしたの? ボーっとして」
「お姉さんから迫られたら、私は……」
「あの〜彩香ちゃん? 」
「はひ! ご、ごめんなさい! 夕食頼まないとですよね」
我にかえるとかなり恥ずかしい。思い切り恥ずかしい事を考えていたなんて、灯には悟られたくはないと、彩香はスマホを取り出すと、オーバーリアクションで、これなんて美味しそうですよねと、灯にスマホを見せる。
「美味しそうだけど、私達には手が出ないと思うんだけど」
そう言われてスマホを見ると、フランス料理のフルコースと書かれていた。お値段は、高校生と自宅警備員が手を出せる値段では当然ないので、二人はお昼は洋食だったから和食にしましょうと、自分達の身の丈にあった料理を選ぶと、注文ボタンを押して注文を完了する。
夕食を食べ終えると、やってまいりました! お楽しみのお風呂ターイム!
と素直に喜べない。
あれだけ妄想していたのに、鼻血どころか、緊張してきて、立っているのがやっとの状態。
脱衣所で、まるで自分の家かの様に淡々と洋服を脱いでいく彩香を見ながら、灯は自分の情けないお腹に目をやりながら、流石にこのぷにぷにのお腹を見られるのは恥ずかしい。
「どうしたんですか? 早く入りましょうよ」
そうだねって! もう脱ぎ終わってるんですけど!
既に脱ぎ終えている彩香の裸体に、一瞬戸惑いを覚えたが、その戸惑いはすぐになくなってしまった。
彩香には申し訳ないが、ぺったんこの胸を見て、正直あまり興奮しないのだ。
別に巨乳が好きな訳ではないが、さすがに申し訳程度に、成長を始めたばかりかな? と思える程の可愛らしい胸に、性的な欲求よりも何故か妹の成長を見守るお姉ちゃん的な気持ちが強くて、つい微笑ましい気持ちになってしまった。
「そうだね。すぐ脱ぐから」
彩香に対して、欲情したらどうしようと、自分を抑え切れるかな? なんて不安になっていたのに、そんな気持ちは、今はない。
「お姉さんって、それなりにありますね。りんりん程じゃないけど、でもお腹は残念」
ハグァ! や、やっぱりこのお腹の強敵は残念ですよねと、自分のお腹を見つめながら、もう少しお菓子減らそうと誓いながら「こんなだらしない身体は嫌かな? 」と聞いてしまった。
シャワーで汗を流していた彩香は、そんな事ありませんよと、触り心地も抱き心地もいいと思いますし、でも折角綺麗な身体だから、出来るならもう少しだけ減らした方が、私的には好きですねと言いながら、今度は灯の身体にシャワーを掛けながら、灯のお腹をぷにぷにする。
「アヒャ! あ、彩香ちゃん、いきなり過ぎるから! 」
「でも、この感触は捨てがたいので、あまりダイエットしないで欲しいかも」
「あ、彩香ちゃんが好きなら、適度に残してもいいよ」
ならそうして下さいと言いながら、お腹から胸に手を伸ばすと、女の子同士のコミュニケーションとばかりに胸を揉み出す。
「しょ、しょこは駄目ーーー! 」
へなへなと座り込んでしまった灯に、彩香はやり過ぎた? りんりんみたいに怒りながらも受け入れて、反撃してくるかと思ったのに、灯はハァハァと荒い息を吐きながら、妙に色っぽい顔でこちらを見ているではないか、灯の胸に手を添えたままで彩香は、その顔に見惚れてしまった。
しまった! と灯はつい変な声を出してしまったと恥ずかしくなる。自宅警備員になってからの六年間で、自分で開発してしまった。
特に胸は弱いのだ。
彩香ちゃんに、エロいお姉さんと思われると、エロゲーを何時間もしている時点でと言うか、本棚に大量のエロゲーがある時点で、既にエロいお姉さんとバレバレなのに、今更ながらにどうしようと悩みながら、でも女の子に触られるのは想像以上に気持ちいいと、もう少し揉んでくれないかな? とか考えるのが、やっぱり灯である。
「どうだったかな? 私のおっぱい」
「や、柔らかくて気持ち良かったです」
素直に答えていた。自分とは違って膨らみがあって、柔らかくて、そして触れていると安心出来て、りんりんやクラスメートのおっぱいを揉んでいる時にも感じた。
自分にはないから、やっと膨らみ始めた自分のおっぱいでは感じる事の出来ない不思議な感情。きっと自分に、他の女の子と同じ位のサイズがあったとしても感じる事が出来ない感情。
「なら、もう少しだけ触るのを許可します。でもあまり激しくは駄目ですからね」
そう言って、ハニカミながらも笑顔を見せる灯は、照明に照らされているのもあってか、とても美しく見えて、そしてとても優しかった。
灯の胸を揉み終えると、何故か髪から身体から洗われている。
凛ちゃんのもよく洗ってあげていたんだよと言いながら、嬉しそうに洗っているので大丈夫ですとは言えずに、されるがままに洗われている。
「痛くない? 痒い所ない? 」
大丈夫ですと気持ちいいですよと答えながら、こういう所はお姉ちゃんなんだなと、自分にお姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかな? とちょっと嬉しい気持ちになりながら、素直に洗われていた。
もう少し遊んでいたいし、彩香とお話ししたいけれど、彩香はもうウトウトしているので、そろそろ寝よっかと、灯は彩香と一緒に布団に入ると、彩香はすぐに眠りについてしまった。
彩香の寝顔を見ながら、スヤスヤと寝息を立てている彩香を見ていると、何故かお風呂での事を思い出してしまった。
彩香の未成熟な身体を思い出すと、彩香に胸を触られた時のあの感触を思い出すと、目が冴えてしまって、身体は疲れているのに、いつもの何倍も行動したから、すぐに寝れると思っていたのに、胸がドキドキして全く寝れません。
「彩香ちゃんって、緊張とかしないのかな? それとも慣れてる? 」
自分がこんなにもドキドキして寝れないのに、隣りで彩香はぐっすりと眠っている。
そんな彩香が少し憎らしくて、つい彩香のない胸に手を添えてしまった。
やっと膨らみ始めた胸の感触を味わいながら、凛ちゃん、お姉ちゃんは緊張し過ぎて寝れませんと、決してやましい気持ちで、彩香ちゃんの胸を触っている訳ではありませんと、言い訳しながら眠れぬ夜を悶々と過ごしていた。
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