第9話 こんな私がメールなんていいの?

結局エロゲーをしていたら、朝になってしまったと言うか、いつも通りの生活をしてしまった。

 昨日は、久しぶりに一人でお風呂に入って、部屋に戻ると部屋の前に凛ちゃんがいた。

 凛ちゃんから、明日は彩香と三人で女子トークするから、今日は早く寝なさいと言われたのに、エロゲーと彩香ちゃんの事が、エロゲーよりも、彩香ちゃんからの手紙が気になって寝れなかった。


いつもなら、下着姿だから、そのままベッドに直行して安眠タイムなのだが、今日はそう言う訳にもいかないんだよねと、大きな溜息を吐きながら、今日だけだから仕方ないよねと思ったのも束の間で、座椅子に座りながら、そのまま眠ってしまった。

 

それにしても、彩香ってこんな可愛い寝顔なのねと、隣で眠る彩香の顔を堪能していたら、何故か響さんの顔を思い出してしまった。

 最近毎日の様に彩香の家に行っていたせいだと、行く度に響の部屋に連行されては、誘惑されていた。何とか貞操は守り切ったのだが、このままではいつか貞操を奪われかねない。

「何で、自分の娘の友達を誘惑するんだろう? あんなに美人なんだから、いくらでもお誘いあるのに」

 ついそんな事をぼやいてから、彩香を起こさない様に、部屋を出ると取り敢えず灯の部屋を覗く事にする。

 

扉を開けると、灯は座椅子ですやすやと寝息を立てている。

 どうせ朝までゲームしてたなと、ベッドで寝てないと言う事は、頑張って起きていたけど我慢の限界にきたんだなと、凛は朝食までは寝かしてあげますかと、そのまま静かに扉を閉めると、キッチンに向かって、朝食を作り始めた。


朝食を持って、部屋に戻ると彩香が寝惚け眼でおはようと挨拶するので、おはようと返事をすると、次は灯の部屋に向かう。

 扉の開く音で目を覚ました灯が、朝食は一人で食べるからと、やっぱりまだ無理だからと言うので、彩香が寂しがるけど、このままでは変わらないと判断して、言ったのだが、灯は俯いて何も言わないままなので、一旦部屋に戻って彩香を連れて来た。

「お姉さん、おはよう御座います。一緒に食べませんか? 」

 彩香が、満面の笑みで挨拶するが、灯はおはよう御座いますと小声で返事はしたが、ご飯は一人で後で食べますと、普段はこの時間寝てるから、食べれないのでど、灯なりに丁重に断った。

 その姿に、凛は少し悲しくなるが、すぐには無理よねと、彩香にごめんねと言うと、彩香を連れて部屋から出て行った。


結局彩香が泊まってる間中、灯が一緒にご飯を食べる事も、彩香とまともに話す事もなかった。

「ごめんね彩香。折角泊まって貰ったのに」

 彩香を送りながら、凛は申し訳なさそうに彩香に謝る。

「いいよいいよ。いきなりは無理だし、私のアドレス教えたし、お姉さんのアドレス聞けたから、メールから仲良くなるし」

 彩香が、こんな性格で本当に相手を思いやれる優しい女の子で良かったと、凛は彩香の頭をわしゃわしゃしながら、彩香と二人で夕暮れの街を歩いていた。


押しに弱いのかな私?

 結局彩香にアドレスを教えてしまった。アドレスを教えた=メールが来ると言う事であって、何を話せばいいのか、私の話せる話しなんて、百合エロゲーと百合アニメと、百合漫画しかない。

 全部百合だし、もし彩香ちゃんが、そういうのに興味なかったり、嫌いな女の子だったら、会話すら成立しない。

 もし、引き籠りにならずに普通の女の子の様に生活していたら、彩香ちゃんと話せる話題が沢山あったのかな?

 いや、例え引き籠りになっていなかったとしても、私には話題なんて何一つなかったと思う。

 元々友達なんて一人もいなかったし、コミュニケーション能力も乏しかったし、結局は凛ちゃん以外とはまともに話せない女の子だった。

 こんな私がメールをしていいものかと、灯はガタガタと震え出す。

 メール位、誰でもしていますからと、ツッコミを入れたいのだが、灯はこんな女の子なのだ。

 常に考え方が暗い女の子。

 こんな自分が、こんな私なんか、私みたいな女の子がと、常に自分を貶める女の子なのだ。幼い頃から、明るい女の子ではなかったが、ここまで酷くなったのは、ある事があって部屋に引き籠り始めてからである。


スマホの連絡帳に新しく追加された名前に、三倉彩香ちゃんと言う名前に、どうしても釘付けになってしまう。

 凛ちゃん以外の名前のなかったスマホの連絡帳に、新しい名前が追加された事は嬉しい。元々スマホなんて必要ないと思っていたのだが、凛ちゃんが連絡するのに必要だと、自分だって毎日同じ時間には帰れないんだからと、半ば無理矢理持たされたのである。

 結局は、凛ちゃん以外からは連絡が来ないのだが、それで良かった。凛ちゃんさえ居てくれたら良かったのに、どうして私は三倉彩香と言う名前にこんなにもドキドキしているのだろうか?


胸のドキドキの意味がわからずに、ベッドで悶えながら一人悩む。悩み過ぎてゲームにも漫画にも集中する事が出来ずに、早く凛ちゃん帰って来ないかなと、凛からの帰るよメールがこないかなと何度も何度もスマホの画面を見詰めていた。


お姉さんに何てメールしたらいいかな? と凛に相談してみたが、別に好きな事送ればいいんじゃないと、返事が来るかは保証しないけどねと、なんせあの駄目ニートの引き籠りだからねと、さすがにそれは酷いんじゃないと思われる発言を、悪気もなくするので、彩香はりんりん酷いよと嗜めるが、凛は気にした風もなく、それじゃ私は駄目姉の夕食作るから帰るねとあっさりと帰ろうとするので、お母さんが寂しがってるから、後でアドレス送るからメールしてあげてねと、凛が響に誘惑されてるのを知っていて、反撃の一手を繰り出した。

「き、気が向いたらメールするって、私だって忙しいからって伝えて」

 それだけ言うと逃げる様に、凛はダッシュで帰って行った。

「りんりんも、お母さんの毒牙に掛かってしまったのかな? あの人には敵わないよ」

 娘の彩香から見ても、響は年齢不詳なうえに女の子を駄目にするフェロモンと言うか、オーラを放っているからなと、取り敢えず帰ってから灯へのメールを考えますかと、彩香も自宅へと帰宅して行った。


凛を見る振りをして、スマホをチラチラと見ていると、「そんなに気になるなら、メールすればいいじゃん」と、凛から言われてしまったが、そう言う凛もスマホばかり気にしている様に見える。

「そう言う凛ちゃんこそ、スマホばかり見てるじゃない」

 そ、そんな事ないよと慌てて否定するが、凛は凛で響さんからメールが来るのではないかと、気が気じゃないのだ。

 響さんの事は嫌いじゃない。むしろとても優しい人なので、好きの部類に入るのだが、大人なので大人の魅力をフルに使って、誘惑して来るのだ。

 恋愛経験ゼロの凛にとって、どう回避していいのか、どう対応していいのか分からずに、いつも頭が混乱して、まともに響を見れないのだ。

 このままでは、近い内に初めてを奪われるのではないかと、もう高校生なんだから、そろそろ経験してもいいのかもとは思うが、初めては好きになった人が良い。

 今まで、灯の面倒を見る事に全てを費やしてきたから、恋愛なんて考えた事も、そんな時間なんて全くなかったから、どうしていいのかわからない。

「お姉ちゃんも、彩香からメール来たら、ちゃんと返事するんだよ。あの娘ああ見えて、そう言うの気にするから、必ず返事してね」

 返事しないで、彩香を泣かしたりガッカリさせたら許さないからねと、それだけ言うと凛は自室へと戻って行った。


凛が居なくなって、一人になると灯はそんな事言われても〜と泣き顔になりながら、こんな私が彩香ちゃんみたいな良い娘とメールなんてしてもいいのかな?

 こんな引き籠りの駄目ニートのエロ女がと、相変わらず自分を貶めて悩み出してしまった。

 でも、メールなら何とか話せるかな?

 そんな事を考えながら、ずっとスマホの画面を眺めていた。

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