第13話 彩香ちゃんって可愛い!

彩香の胸に手を当てながら、この悶々とした気持ちをどうしよう? と灯は仕方ないので、お得意の妄想に耽る事にした。


彩香ちゃんは、私の可愛い後輩で、高校は行った事がないけど、取り敢えず女子高で私は面倒見の良い先輩で、彩香ちゃんは新入生で初めての校内に戸惑っているところを助けた事で、二人は仲良しになってと言う設定にしよう。


妄想(エロい)を始めてから、一時間経過。

 二人は、晴れて恋人関係にまで物語は進んでいる。

「ここが、先輩のお部屋なんですね」

「今、お茶持ってくるから適当に座って」

 初めての先輩のお部屋。勇気を出して告白して良かったと、彩香は思いながら部屋の中を見回してみる。

 女の子らしく、ぬいぐるみが置かれている。現実とは違うが、これは妄想なのでヨシとして、本当の灯の部屋には、ぬいぐるみなんてほぼない。あるのは、エロゲーとエロ本ばかりである。

 お茶を飲みながら、他愛もない会話をしていると、ふいに二人の肩がぶつかる。

 灯は、彩香を見つめるといいよねと、顔を近づける。

「先輩、私初めてなんです」

「優しくするから」

 そっと触れる二人の唇。その柔らかい(多分、何分経験がないので、全て想像である)感触に、否応なく二人の頬が朱に染まる。

「いいわよね? 」

 彩香が、恥ずかしそうに頷くのを確認すると、ゆっくりと制服に手を掛けて脱がしていく。

 恥ずかしいと言う彩香に再びキスをすると、灯は自分の制服を脱ぐと下着姿になる。

「これなら恥ずかしくないでしょ」

 と再び彩香の制服を脱がせると、可愛らしい下着に目を奪われながら、ゆっくりとその幼い胸に手を添える。

 そんな妄想をしていると、鼻血が垂れてきたので、一度ティッシュで鼻血を拭うと再び妄想の世界にダイブする。


「先輩、私怖い」

「大丈夫よ。彩香の初めてを私に頂戴」

 彩香が、恥ずかしそうに頷くと灯は彩香の下腹部へと手を伸ばす。

 ここからが、最高にいい場面と言う所で、熱い眼差しを感じて、一度現実に戻ると彩香が心配そうに見つめている。

「起こしちゃった? 」

「いえ、あの鼻血出てますけど、やっぱり同じ布団は暑かったですか? 」

 梅雨時期の蒸し蒸しした時期に、さすがに同じ布団は暑かっただろうかと、彩香は鼻血を垂らしている灯を心配そうに見つめている。

 ここからが最高にいい場面だったのにーーー!

 彩香ちゃんの初めてを、私が貰う筈がと妄想なのに、本気で悔しがる灯。

「だ、大丈夫だよ。ちょっと妄想してまして」

 妄想? どんな妄想ですか? と聞きたいが、今はそれどころじゃない。

 トイレに行きたいのだ。

 行きたいのだが、彩香は幼少時のある出来事から、夜に一人でトイレに行けないのだ。

 それは、高校生になった今でも治っておらず、そわそわもじもじしながら、灯を見つめる。

「トイレなら、出て階段の手前にあるよ」

 もじもじしている彩香に、灯はトイレの場所を教えたのだが、そう言えば何度も行ってるんだから、今更教える必要ないよねと、彩香を見ると何故か涙目になっている。

「ど、どうしたの? もしかして女の子の日が来たの? 」

 急に女の子の日が始まって、シーツを汚した事を気にしてるのだろうか? と灯はシーツなら換えがあるからと、笑顔で言ったのだが、彩香は泣きそうな顔をしている。

 ど、どうしたらいいの? 凛ちゃん助けてと心で叫んでいると「と、トイレ一緒について来てください」と言われて、どうして? と不思議そうに彩香を見つめる。

「じ、事情は後で説明しますから、もう漏れそう」

 彩香は、泣きそうになりながら、灯の手を握って、早くトイレともう片方の手を股に挟んでいるので、取り敢えず連れて行かないと、さすがにここで漏らされてはご褒美じゃなくて、彩香ちゃんの心に傷が残るよねと、灯は、早く行こうねと極力優しく言うと、彩香を連れ立ってトイレへと向かった。

 彩香から、トイレの前で待っていて下さいねと、絶対に一人で部屋に戻らないで下さいねと、懇願されたので、どうして私はトイレの前で待っているのだろうか? と思いつつも律儀に彩香を待っていた。


部屋への帰りも、彩香は灯の手を握りながら、周りをキョロキョロと見ながら、灯に抱きつきそうな程に近づいて、部屋へと戻ると事情を説明してくれた。

 あれは、まだ純粋な幼少時の事である。

 夜中にトイレに行きたくなった彩香は、トイレへと向かったのだが、廊下を歩いていると前方に何やら人影らしきものが、その瞬間に彩香はへたり込んで、そのまま漏らしてしまったのだ。

 普通に考えれば、月明かりに照らされた何かの影なのだが、当時の彩香は純粋に幽霊だと信じ込んでしまった。

 廊下で漏らして、恥ずかしい思いをした事よりも、何やってるの、だから寝る前にジュース飲んだら駄目って言ったでしょ! とお母さんに説教された事よりも、幽霊を見たと言う事実の方が記憶に鮮明に残っていて、それ以来夜のトイレがと言うか、トイレに向かう道中が怖い。

 高校生になった今も怖い。

 夜に一人でトイレに行けないのだ。

「と言う訳でして、未だに夜中に一人でトイレに行けないんです」

 恥ずかしそうに言うので、彩香ちゃん可愛いなと灯は、ならこれからはお泊まりに来たら、私と一緒に行こうねと、彩香の手を握ると彩香は嬉しそうにしながら、りんりんには内緒にしてくださいねと、馬鹿にされるのでと言うので、二人だけの秘密だねと灯は嬉しくて、そのまま彩香を抱きしめそうになって、やめた。


勇気が出なかったのもあるが、抱きしめてしまったら、この時間は、この素敵な楽しい時間は二度と訪れない気がして、灯は彩香の手を握り直すだけに留めた。

 やめた理由は、もう一つある。もし勢いで彩香を抱きしめていたら、理性が飛んで妄想と同じ事をしてしまいそうだったから、よく我慢したな私と灯は自分を褒めたい。

「私の事は話したので、次はお姉さんの番ですよね」

 はい? 私の番って? と灯が不思議そうな顔をしていたら、彩香は真剣な表情でお姉さんは一体どんな妄想をしていたんですか? 鼻血を出すなんて尋常じゃありませんと、灯の妄想の内容を追求してきた。

 まさか、妄想の内容を聞かれるなんて予想だにしていなかった灯は、あたふたと狼狽しながらも、エヘヘとか、そ、それはねとか、苦笑いをしながら彩香から視線を逸らして、彩香の追求から逃げようとあの手この手を尽くす。

「お姉さん、こっちを見て下さい! 」

 がっしりと顔を掴まれて、ぐいっと彩香と見つめ合う形にもっていかれてしまう。

「あ、彩香ちゃん! ち、近いから! 」

「私は、自分の恥ずかしい秘密を晒したんですから、お姉さんも恥ずかしい妄想を晒して下さい! 」

 恥ずかしい妄想なのはバレているのねと、灯は諦めて話す事にした。

「えっと、怒らない? 」

「怒りませんよ。だから話して下さい」

 これ以上は逃げられないし、確かに彩香は自分の秘密を教えてくれたんだからと、灯は覚悟を決めて妄想の内容を話し始めた。

「そ、それでお姉さんは、妄想の私とはどこまでいったんですか? キスまでですか? それともエッチまでですか? 」

 軽く顔を引き攣らせながら、それでも優しい声色で聞いてきた彩香に、エッチの寸前ですと、彩香ちゃんの下腹部を触りましたと、でも処女を奪う手前で終わりましたと、素直に妄想の全てを話してから、恐る恐る彩香を見ると、彩香は笑顔を崩さずに少し頬を朱く染めていた。


沈黙が続いている。

 正直この沈黙が怖い。いくら笑顔を見せてくれたとは言え、自分をオカズにされたのだから、きっと気分は最悪で、内心怒りに震えていると灯はビクビクしながら彩香を見る。

 目を逸らしてはいけないと、何故かそう感じて彩香をずっと見つめていると、彩香が口を開いた。

「妄想するのは構いませんけど、あまりエッチな妄想は無しの方向で、とっても恥ずかしいので」

 ごめんねと、なるべくエッチな妄想はしない様にしますと、でも偶にはしますと正直に言う灯がとても可愛らしくて、彩香はつい凛にする様に抱きしめてしまった。

「あ、彩香ちゃん……あの、その……」

 突然の事に、心臓がバクバクと煩い。

 このままでは、本当に彩香を襲ってしまいそうだ。臆病な性格なくせして、こういう時には、変な勇気が出てしまうのが、変な行動力を発揮するのが灯さんである。

「お姉さん、とってもいい匂い」

「同じシャンプーですけど」

「それでも、とってもいい香りがして、りんりんとは、また違ういい匂いがします」

 りんりんとはシャンプーもボディーソープも違うのかな?

 りんりんもとってもいい香りがして、つい抱きつきたくなるのだが、灯もりんりんと同じで何故か抱きつきたくなってしまった。


いつまで抱きついているのだろうか?

 彩香は灯の胸に顔を埋めたまま幸せそうにしているので、無理に離す訳にもいかないのだが、このままでは本当に押し倒してしまいそうで、灯はこのまま押し倒してしまいたい気持ちと、そんな事はいけません! と言う気持ちの板挟みに苦しみながらも彩香ちゃん可愛いなと、ついニヤけてしまう。

 お姉さんのおっぱい気持ちいいと、灯の胸で顔をぐりぐりと動かしている彩香に、灯はそこは弱いとお風呂で言いましたよね? 忘れたんですか? とこれでも大人の女性なんですから、あまり刺激されるとさすがにまずいんですがと、灯は彩香にぐりぐりだけはやめてくださいと、顔を埋めるのは好きなだけしてもいいのでと、顔を真っ赤にしながらお願いする。

 チラッと上目遣いで灯を見ると、真っ赤な顔をしながら、少し困った顔をしている。

 そう言えば、胸が弱いって言ってたなと思い出して、少しイタズラしてやろうと、彩香は更に強めに顔を埋めると、胸をぐりぐりする。

「ほ、本当にこれ以上はまずいから、胸弱いって教えたよ」

 これ以上されたら、恥ずかしい声が出てしまう。こんな事なら、自分で開発なんてしなければとは思わずに、必死に耐えている。

「お姉さんのおっぱい気持ちいいから、ずっとこうしてたいなぁ〜」

 思いきり甘えん坊さんの様な声で、朝までこうしてる〜と彩香は灯を抱きしめる手に力を入れる。

「あ、朝までって」

 現在深夜の一時。

 可愛い彩香にずっと抱きしめられているのは、とっても嬉しいのだが、朝まで胸に顔を埋められていたら、きっとと言うか間違いなく、私は昇天してしまう。

 そんな姿は、恋人になってからじゃなくて、恋人になってからも、とっても恥ずかしい。


答えに窮する灯が、とっても可愛くて何故か愛おしい。りんりんが一生懸命に面倒を見る気持ちが少しわかった気がした。

 灯の胸に顔を埋めたまま、どうしておばさんのご飯を食べないんだろうと、りんりんはママのご飯はとっても美味しいよと、おばさんが作ってくれたお弁当は本当に美味しかった。

 どうしておばさんの料理食べないんですか? と聞きたいけど、今はまだその時じゃない気がするし一度りんりんに聞いてからにしようと、彩香は灯をそのまま押し倒すと「このまま寝てもいいですか? 今日だけですから」と、押し倒されて顔だけじゃなくて、パジャマから覗いていた胸元まで真っ赤になった灯が、目を丸くして固まってしまった。

「お姉さん、今日は今だけ甘えてもいいですか? 私、お姉ちゃん欲しかったんです」

 そう言えば、一人っ子だからって言っていたなと灯は「今日だけじゃなくて、いつでも甘えに来ていいからね」と、自分でも驚く位に積極的になっているなと、でも初めて出来たお友達だから、凛ちゃん以外に話せる相手だから、彩香と言う少女だけは離したくないと本気で思った。

「なら毎週お泊まりしようかな? でもりんりんに怒られるかな? 」

「そんな事はないと思うよ」

「なら、りんりんには毎週末はお母さんの餌食になってもらおうかな」

 え、餌食って、彩香ちゃんのママって一体どんなお方なんでしょうか?

「彩香ちゃんのママって、どんなお人ですか? 」

「お人って、そうですね。女の子が大好きで、怒ったら鬼の様に怖いけど、とっても頼りになるお母さんですよ」

 顔は娘の私が言うのもあれだけど綺麗で、スタイルもそれなりにいいかなと、そして根っからの同性愛者ですとハッキリと答えた。

「今はりんりんに夢中って言うか、りんりんを恋人にしたいみたいです。お母さんは、好きになったら止まらない人ですから」

「そうなんだ。なら、今頃凛ちゃんは大人の階段昇ったかな? 」

「りんりんがいいならですね。お母さんは、そう言うのは無理矢理は絶対にしませんから」

 エッチはしてなくても、キス位はしたかもしれませんねと、でも先を越されるのは腹が立ちますねと二人は、うんうんと頷きあいながら、キスってどんな感じなんだろうねと、好きな人とのキスは未経験の二人には未知の世界で、でも興味津々なのをお互いに隠さずに、経験してみたいですねと、彩香が言うと灯もそんな機会あったらいいなと、私ってこんなだからと塞ぎ込みそうになる。

「大丈夫ですよ。貰い手がいなかったら、私がお姉さんを貰いますから」

「彩香ちゃん? 」

 彩香の言葉にドキッとした。

 ドキッとしたのと同時に嬉しくて、涙が出てきた。こんな私を見てくれる人がいる。

 その事が嬉しくて、灯はありがとうとお願いしますと言うと、泣きながら笑顔になると言うおかしな顔をしながら、彩香にありがとうと何度も言っていた。

「お姉さんは、素敵な女性だと思います。私は、まだ恋愛した事ないけど、お姉さんみたいな人ならいいかなって、思ってますよ」

 りんりんには内緒にしてくださいねと、彩香はやっぱりお母さんの子供なんだなと、意識した事はなかったけど、今日灯と過ごしていて、自分は女の子が好きな女の子なんだなと自覚してしまった。

 灯の裸を見て、灯の胸に顔を埋めていると幸せでもっとこうしていたいと、私お姉さんの事愛しているかはわからないけど、女の子が好きな女の子なんだと言う事に気づけたのが、恥ずかしいけれど嬉しかった。


その後は、凛の話をしたり他愛もない会話をしながら、気付いたら彩香は再び寝ていたので、彩香の寝顔を見ながら、灯はこんな私を好きになんてならないよねと、部屋に引き籠ってエロゲーばかりしている。そんな駄目人間の私なんて、好きにはならない。

 普通なら大学生か社会人として働いている年齢なのに、妹に世話をしてもらっている。

 でも、こんな自分を見てくれる人が、女の子がいる事が嬉しかった。

 彩香ちゃんありがとうと呟くと、灯も眠る事にした。

 今日は、とても素敵な一日になったと灯はとっても幸せな気持ちで眠りについた。

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