第21話 灯と恋人になりたいです!

あの日から、私はお姉ちゃんのお人形さんになってしまった。

 間違っているのはわかってはいるけれど、もうこんな事はやめてとは言えない。

 言ってしまったら、お姉ちゃんが更に壊れてしまう気がして、それが恐ろしくて言えない。

 こんなのは完全に間違っていて、健全な姉妹の関係とは言えないと気づいていて、凛は敢えて気付いていないふりをしていたと言うか、半ば受け入れていた。

 所詮自分じゃ無理だったんだと、自分だけが灯を変えられる存在なんだと思い込んで、一人で舞い上がっていただけで、本当は何一つ改善も解決も出来ないただのお子様だと言う事を、あの晩思い知らされて、凛はもう考える事を放棄していた。


「りんりん、ねぇりんりん聞いてる! 」

「何? そんな大声出さなくても聞こえるし」

 彩香は、ぶぅーと頬を膨らませながら、今日灯に会いに行っていい? と聞くので凛はお姉ちゃんにメールで会いに行きますとメールしたらいいんじゃないと、きっと飛び上がって喜ぶよと、素っ気なく答えるので、彩香は更に頬を膨らませて、最近のりんりんは冷たいですと、およよと泣き真似をするので、凛は冷たい女の子ですよと、彩香に言うと教室を出て行った。

 一人になりたかった。

「りんりんどうしたのかな? 」

「最近の凛ちゃん、元気ないよね」

「うん。でも、何も言ってくれないし、りんりんの事だから大丈夫だとは思うけど」

「また体調悪いのかな? 最近良く体調崩してるし」

 彩香は、クラスメートとそんな会話をしながら、りんりん大丈夫? と心配そうに凛が出て行った方を見る。

 クラスメートの言う通りで、最近の凛は良く体調を崩す。学校には来るが、体育の授業も途中で休憩させてもらったりと、前はそんな事はなかったのにと彩香は凛が心配だった。


彩香に悟られてはいけないのに、つい感情が表に出そうになってしまう。

 彩香に気付かれたら、必然的に響さんにも知られてしまう。好きな人に心配なんて掛けたくない。

「響さん会いたいです」

 会いたいのに、会えない。響は働いている大人の女性だから、仕方ないのだが最近は仕事が忙しいとかで、メールの返事も遅いし会いたいですと一度メールしたが、今は忙しいからごめんねと返事が来てしまった。

 仕方ないのはわかっているが、響さんに抱きしめて欲しかった。

 響さんにキスして欲しかった。

 響さんと関係を持ちたかった。

 もう凛の救いは響だけだった。


お昼休みに、彩香から今日遊びに行くねと、灯から是非会いに来てねと返事が来たと、彩香が嬉しそうに報告するので、凛は良かったねとお姉ちゃんをお願いねと言うと、疲れた顔をして自分の席に座ると、そのまま机に突っ伏して寝てしまったので、彩香はそのまま寝かせる事にして、自分の席に戻って行った。


お土産はお菓子でいいかな? と言う彩香に、お姉ちゃんに餌は与えないでと、これ以上太ると可哀想だからと言って、お菓子は丁重に断る。

 最近は、食事も三食ちゃんと食べて間食も控えめにさせているので、少しはお腹の強敵も減ってきた様に見えるが、それでも年頃の女の子としては、もう少し気にして欲しいと言うのが、凛の願いである。


久しぶりに会った彩香ちゃんは、やっぱり可愛い。

「お姉さん、お久しぶりです」

「彩香ちゃん、相変わらず可愛いね。食べちゃいたいよ」

「食べてもいいですよ」

「本当に食べちゃうぞ〜」

 やだ〜犯される〜と彩香ははしゃいでいるが、凛はそれに付き合う元気がないのか「好きなだけ二人で愛し合ってください。私、疲れてるから部屋で休むから、ごゆっくり」と言うと、灯の部屋から出て行こうとした。

 そんな凛に灯が「夜は来てね。お姉ちゃん、一人だと寂しいから」と、夜は絶対に絶対に来るんだよと凛に来ないとわかってるよね? と脅しの意味合いを込めて、絶対だよと念を押して言う。

「うん。夕食は一緒に食べるからごめんね」

「いいんだよ。ゆっくり休んでね。私は彩香ちゃんと楽しむから」

 凛は再度、ゆっくり愛し合ってくださいと言うと、疲れた顔をして部屋を出て行った。

「りんりん大丈夫かな? 最近凄く疲れてるし、良く体調崩して保健室行くし」

「そうなの? 家では普通な感じだから、全然わからなかったよ」

 凛が疲れているのはわかっていた。わかっていたけれど、凛ちゃんなら大丈夫だよねと灯は特段気にはしていなかった。

(別に何もしてないし、一緒に寝たりお世話してあげてるだけだし)

 灯は、自分は何もしていないと、ただ凛ちゃんのお世話をしているだけで、本当なら凛ちゃんとエッチもしたいのに、それは必死に我慢しているし、夜だって凛ちゃんに合わせて早目に寝ている。勿論凛ちゃんと一緒に、だからどうして凛が最近体調をよく崩すのか、その理由がわからなかった。

 灯の行動が、精神的に凛を苦しめている事に灯は全く気付いていなかった。


凛を心配する彩香に、灯は何する? とエロゲーする? それとももっと楽しい事する? と彩香との距離を縮めると、彩香に微笑む。

「もっと楽しい事って、もしかしてお姉さん、私にエッチな事する気ですか!! 」

「あら、バレた。私は彩香ちゃんともっと仲良くなりたいんだけど、彩香ちゃんは? 」

「わ、私も勿論お姉さんともっともっと仲良くなりたいと思ってます! 」

 彩香は力強く答える。

 灯ともっと仲良くなりたい。もっと仲を深めたいと本気で思っていた。

 この前のお泊まりから、ずっと灯の事を考えていた。自分は、灯が好きなのかと、答えはイエスだ。なら、その好きはどう言う好きなの? と自問自答を何度も何度も繰り返した。

 繰り返した結果は、恋人になりたい好きだったから、彩香は、何とかしてまた灯に会いたいと考えていた。

 考えていたけれど、凛が熱を出して一週間も学校を休んだり、学校に来たかと思ったら体調が悪いのか、良く保健室に行ってしまうので、中々灯に会いに行きたいと話す事が出来なかったのだ。

 

彩香ちゃんって、本当に可愛いな。凛ちゃんが言う通りで、彩香ちゃんと恋人になれたら、きっと楽しいし、今までと違って素敵な日々を送れるのかもしれないが、所詮私は家から出られないのだ。そんな私と彩香ちゃんは、本当に付き合ってくれるのか? それに、凛ちゃんと関係を持ちたいと言う気持ちを、もし彩香ちゃんが気付いたらきっと、私を嫌いになる。

 そう考えると、灯は前に踏み出す勇気が出ないまま彩香との関係を進めるべきか悩んでいた。

「お姉さんは、私が好きですって言ったら、恋人になってくださいって言ったら嫌ですか? 」

 いきなり告白ですかーーー!! と灯はまさかいきなり告白するなんて思ってもいなかったし、彩香が自分をどう思っているのかすらわかっていなかったので、さすがに驚いて硬直してしまった。

 いきなり告白したのは、さすがに不味かったかなと彩香は、硬直したまま動かない灯の唇にキスをすると「私、本気ですからゆっくりでいいから考えてくださいね」と、更に灯を追い込んでいた。


私はどの位硬直していたのだろうか?

 それに、どうして部屋に居るのに肌寒いのだろうか? と灯は不思議に思っていると、彩香がお姉さんの肌って綺麗ですよねと、嬉しそうにこちらを見ているので、灯は不思議そうに自分の身体を見ると何故か下着姿になっている。

「い、いつの間に私脱いだの? 」

「お姉さんが固まっている間に脱がせちゃいました。お泊まりの日から、ずっともう一度見たいと思っていたんです」

 あ、彩香ちゃんって以外に積極的で痴女?

 見たいなら言ってくれたら、恥ずかしいけど彩香ちゃんになら見せてあげるのにと思いながら、灯は自分だけが下着姿なのは不公平だと訴える。

「それもそうなんですけど、私が脱いだらお姉さん理性保てます? りんりんが隣りの部屋にいるのに私を襲いませんか? 私は構いませんけど」

 や、やっぱり彩香ちゃんって痴女?

 もしかして、処女の振りをしてるビッチさん?

「処女ですよ。まだ高校生になったばかりですよ。さすがに中学生で経験する程の勇気はありませんでしたし、相手もいませんでしたよ。そう言えばお姉さんも処女ですよね? 私にくれます? 」

 今日の彩香ちゃんは、何かおかしい気がする。年頃だし興味があるのはわかるが、変な食べ物でも食べたのかな? と灯は心配になる。

「は、恥ずかしいけど頑張ってるです! 」

「あ、ありがとう。嬉しいよ」

 ならと顔を近付ける彩香に「でも焦らなくてもいいと思うよ。私はここにいつもいるから」と灯は彩香を嗜める。

 正直彩香の告白は嬉しい。嬉しいのだが、凛ちゃんとも関係を持ちたいと、そんな不埒な事を考えている自分が、彩香と関係を持っていいのかと灯は彩香としたい気持ちを、ぐっと抑え込んだ。


今頃二人の仲は進展しているのだろうか?

 彩香はお姉ちゃんとエッチしてるのだろうか?

 もしそうなら、声を聞いてはいけないと凛はヘッドホンを付けると、この前のデートで撮った響の写真を穴が空く程に見つめる。

 響に会いたい。

 響の声が聞きたいと、凛は泣きながら、私の居場所は何処にあるの? と考えれば考える程に悲しくなって、もう何も考えたくないと、そのまま眠る事にした。

 今は何も考えずにただ眠りたかった。


灯は彩香に、答えは少し待ってねと言うと洋服を来て彩香に向き合う。

 わかりましたと、さすがに攻めすぎましたねと彩香は苦笑いしながら、それでも本気ですからねと念を押してから、もう一度灯にキスをする。

 彩香とのキスは凛とのキスとは違う意味で気持ちいいなと、灯は私ってきっと最低な女の子だよねと妹と関係を持ちたいと願って、妹の親友と恋人になりたいとも願っているのだから、間違いなく最低な女の子だ。

 それでも凛ちゃんに縋るのを止められない。

 彩香ちゃんと、ずっと仲良しでいたい。

 本当に都合の良い考えなのはわかっているが、そうしないと、きっと私は私でいられない。

「お姉さん。これからは、灯さんって呼んでいいですか? 」

「勿論いいよ。彩香ちゃんに名前呼ばれると、何か照れ臭いけど、凄く嬉しいよ」

「灯さん。私は灯さんが大好きです」

 ありがとうと答えて、今度は灯から彩香にキスをした。

 キスをされた彩香は、本当に嬉しそうに灯の唇を受け入れていた。


彩香が帰ったので、凛は夕食と着替えを持って灯の部屋に行く。

「凛ちゃん、食べさせてあげるからね」

「うん。ありがとうお姉ちゃん」

 夕食を食べさせて貰う。

 夕食を食べ終えると、口を拭いて貰う。

「お姉ちゃん、トイレ行きたい」

「連れて行ってあげる」

「うん。一人で行けなくてごめんね」

 いいんだよと、灯は凛の手を引いてトイレに連れて行くと、脱ぎましょうねと下着を脱がして行く。

 トイレを終えると、今度はお風呂だ。

 毎日毎日、こんな事を繰り返して、お姉ちゃんは楽しいのだろうか?

「凛ちゃん、お姉ちゃんが洗ってあげるね」

「ありがとうお姉ちゃん」

 嬉しそうに、身体を頭を洗ってくれる。灯が嬉しそうにしているのだから、満足しているのだから、私はお姉ちゃんのお人形さんでいればいい。

「凛ちゃんのおっぱい本当に大きいよね。どうしたらこんなに大きくなるの? 」

「わからないよ。お姉ちゃんも小さくないし、綺麗だし」

「ありがとう。今日はお布団で触っていい? 」

「いいよ。でも、エッチは嫌だからね。おっぱいに触るのはいいけど、それ以上は嫌だからね」

 わかってるよと灯は、凛ちゃんがいいって言うまでは我慢するからねと、嬉しそうに微笑んでいる。そんな灯を見て、やっぱりしたいんだと凛は、どうしたらいいのかな? もし襲われたら、今の私は抵抗出来ない。

 もしお姉ちゃんに初めてを奪われましたって響さんに言ったら、響さんは私を嫌うのかな? 考えたら悲しくて泣きたくなった。

 私はいつまで、お姉ちゃんのお人形さんでいたらいいのかな?

 終わりの見えない現実に、凛はもう何も考えずに受け入れたらいいのかな? とさえ思う程に心を擦り減らしていた。

 その事に灯が気付く事などなく、ただ早くお布団で凛ちゃんを触りたいなと、そんな事ばかり考えていた。

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