第20話 私じゃ無理だったんだ
今から帰るからね。今日からは、私がご飯作るからちゃんと食べてくれないと、怒るからねと凛からメールが来て、灯は嬉しくて仕方ない。
妹からのメールに、こんなにも喜びを感じるなんて、灯自身驚きだが嬉しくて仕方ないので、素直に早く食べたいですと返事を返す。
取り敢えず部屋で着替えてから、キッチンに向かう前に「今からご飯作るから待っていてね」と扉越しに声を掛けると「楽しみにしてるね」と返事が返って来る。
久しぶりに聞いた声に、お互い心が温かくなるのを感じながら、凛はキッチンに灯は取り敢えずやっていたエロゲーをセーブすると、何故か正座して凛が来るのを待つ事にする。
この一週間まともな食事をしてないと考えると、栄養のある食事にしないといけないわねと、凛は普段灯があまり食べない煮物を作り始める。
一時間後。
出来た食事を持って、灯の部屋の扉をノックすると灯の部屋に入る。
「り、凛ちゃん。久しぶりです」
「う、うんって、お姉ちゃん、洗ってない犬の匂いがするんですけど、もしかして私が寝込んでる間ってお風呂入ってない? 」
洗ってない犬と言うか、それ以外にも女臭いと言うか、灯が一人エッチしてた時の匂いもする気がして、凛はピクピクと顔を引き攣らせながら「お姉ちゃん、一人エッチは程々にしてね」と言いながら、クローゼットから、替えの下着を取り出すと、有無も言わせずにお風呂場へと連行する。
「い、一緒に入るの? 」
今更何を言っているんだこの姉は、今までもほぼ毎日一緒に入っていたではないかと、凛はいいから服脱いでお風呂に入りなさいと、自分も服を脱ぐと灯の手を引っ張って浴室に入ると、容赦なく灯を洗い始める。
「り、凛ちゃん。自分で洗えるから」
頼むから前だけは勘弁してくださいと思いながら、灯はチラチラと凛の裸を見ながら、やっぱり綺麗だなと、この身体を好きに弄ってみたいと考えて、私何考えてるのと邪な考えをした自分が情け無くて、俯いてしまった。
「凛ちゃん、この前は本当にごめんなさい。私、酷い事を言って、酷い事をして本当にごめんなさい」
「悲しかった。辛くて、悲しくて、あれからずっと泣いてた」
「…………凛ちゃん」
私は、何て酷い事をして、酷い事を言ってしまったのかと、灯は胸が苦しくて何も言えなくて、再び俯いてしまう。
「でも、私も悪かったんだって、お姉ちゃんを甘やかしてばかりで、それが正しいと思ってた。お姉ちゃんが、自分の言う事を聞いてくれるのが嬉しくて、お姉ちゃんを独り占め出来るのが嬉しくて、ちゃんとお姉ちゃんの未来を考えてなかった」
「凛ちゃんは悪くないの。お姉ちゃんが、邪な気持ちを抱いて、イライラして八つ当たりしていらないなんて、本当は凛ちゃんがいないと生きていけないのに」
「もういいよ。でも、もういらないなんて言わないで、本当に悲しくなるから」
「うん。約束するから、だから抱きしめて欲しいです」
仕方ないなと言うと、凛は灯を力強く抱きしめる。
やっぱりこの時間が最高に好きだと、灯も力強く凛を抱きしめると、そのままの勢いでキスしてしまった。
突然唇を塞がれて、凛は何が起きたのかわからなくて、身体が硬直して身動きが取れない。
何が起こっているの?
お姉ちゃんが、私にキスをしてる?
「り、凛ちゃん、お姉ちゃん、凛ちゃんが居てくれたら、それでいいの」
「お、お姉ちゃん? 何を言ってるの? 彩香とお友達になったんだから、彩香とも仲良くして恋人になってくれたら、私は嬉しいんだけど」
「ど、どうして? 凛ちゃんはお姉ちゃんの事嫌いになったの? 大切な部分見たから? いらないって言ったから? あれは嘘なんだよ。お姉ちゃんは、凛ちゃんの全てが見たかっただけなの」
私は何を言ってるの? 凛ちゃんの全てを見たかった?
凛の裸を見たから、裸で抱きしめて貰ったからおかしくなっちゃった?
「お姉ちゃん、どうしたの? キスした事は怒らないから、だから離して欲しいんだけど、このままじゃ二人共のぼせるし」
「そ、そうだね。ご、ごめんね。お姉ちゃん変な事して、また変な事言っちゃった」
灯は慌てて凛から離れると、逃げる様に湯船に浸かると、顔を半分埋めてしまったので凛はキスされた唇に触れながら、お姉ちゃんどうしたんだろう? と灯を怯えさせない様に、笑顔を崩さずに思案し始めていた。
部屋に戻って食事をしながら、本当にどうしてしまったんだろうと、どうして凛ちゃんにキスしてしまったのか、もう一度だけでいいから凛ちゃんの全てを見たいなんて考えてしまったのだろうと、もしあれがお風呂じゃなくて、部屋だったら間違いなく凛を押し倒していた。
お風呂で良かったと、灯は自分が自分じゃなくなりそうで、その恐怖から箸を持つ手が震えて、まともに煮物を取れない。
「お姉ちゃん、のぼせた? 食べさせてあげようか? それとも休憩する? 」
「ちょっと休憩していいかな? 少し頭痛いから横になっていい? 」
「無理したら駄目だよ。今日は一緒に寝る? 」
灯が心配で、一緒に寝る? と聞いたのだが灯は嬉しそうに、そして少し恍惚とした表情でうんと答える。
凛には、ただ嬉しそうにしているとしか見えなかったが、灯は凛ちゃんと一緒に寝られると言う事で頭が一杯になって、もう何も考えられなかった。
凛ちゃんが、すぐ隣りで寝てくれる。それだけの事に何故か心が舞い上がってしまう。
とても幸せで、今日は安心して眠れそうだ。この一週間あまり寝られなかったから、すでに眠気に襲われて、眠りにつきそうになった時に、凛ちゃんから思い掛けない言葉を言われて、一瞬で目が覚めた。
「やっぱり彩香の方がいいよね。この前のお泊まりの時幸せそうに、二人で寝てたもんね。帰って来たら」
「それは、あの時は凛ちゃんいなかったからで」
確かに、彩香と眠るのも幸せだったから否定出来ないが、今は凛と一緒に寝れる幸せを享受したいのに、どうしてそんな事を言うのだろうか?
「彩香が隣りに居て、キスとかしたの? エッチな事したいとかお姉ちゃんなら考えたんでしょ」
「してないよ。エッチな事したいとは、多少考えたけど、彩香ちゃんとはお友達になったばかりだし」
「早く恋人になればいいのに、彩香はきっと拒まないよ」
きっと拒まないよ私と違ってねと、灯にはそう聞こえて、胸が苦しくなって、黒いモヤモヤに飲み込まれそうになる。
「凛ちゃんは、妹だから、私がお姉ちゃんだから拒むんだよね? お姉ちゃんじゃなくて恋人ならエッチさせてくれるの? 」
聞かずにはいられなかった。どうしてこんな事を聞いたのか、自分でもわからないが、凛が遠くに行ってしまいそうで、寂しくてその不安から聞いてしまったのかもしれない。
凛はお姉ちゃん何言ってるの? 意味わからないしと言った顔で灯を見るが、灯は真剣な眼差しで凛を見つめて、凛の答えを待っている。
どれだけの沈黙が流れたのだろうか。
口を開いたのは凛だった。
沈黙に耐えられなくなったのもあるが、答えないと灯は答えるまで待っているだろうと、そう感じて凛は自分の考えを正直に述べる事にした。
「正直わからない。お姉ちゃんが何を言っているのか、響さんとはいずれ心の準備が出来たらエッチしたいと考えてるよ。でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだからエッチはありえない。お風呂場でのキスも本当はありえないけど、あれは許してあげるから、もうしたら駄目だよ」
凛なりに優しく話したつもりだが、灯は凛から瞳を逸らさずに「どうして? お姉ちゃんの事嫌い? 姉妹はキスしたらいけないの? エッチしたらいけないの? 大好きなのに」と大好きなんだから姉妹でもいいよね? と聞いてくる始末で、凛は答えに窮する。
本来ならありえないからと即答すべきなのだろうが、姉妹でも仲良し姉妹なら、姉妹のキスは戯れだからと、している姉妹もいるかもしれない。さすがにエッチはないだろうから、凛はそこは強く否定した。
「お姉ちゃんには、凛ちゃんしかいないって、何度も何度も何度も! 何度も言ってるのに、どうしてわかってくれない……の? 」
途中力が入ったが、最後は弱々しく悲しそうに凛を見つめている。
「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんに前に進んで欲しいの。その為のサポートはするけど、キスとかエッチは違う。それは愛する人としないと駄目なんだ。わかるよね? 」
「響さんが現れたから、だから凛ちゃんはお姉ちゃんを捨てるんだよね? 響さんさえいなかったらお姉ちゃんの凛ちゃんだったんだよね? 」
「な、何言ってるの? 変な事考えてないよね? 」
家から出られない灯が、変な気を起こして響に危害を加えるとは思えないけれど、灯の目が本気過ぎて怖い。
「お姉ちゃんでも、響さんに何かしたら許さないからね! わかってるよね」
少し怒り口調で言うと灯は、何もしないしと凛ちゃんの事大好きなのにと言うと、悲しそうに凛を見つめて「凛ちゃんお幸せにね」と一言言うと、反対側を向いてしまった。
「お姉ちゃん、彩香と幸せになってよ。私はお姉ちゃんが幸せになってくれたら嬉しいよ」
その言葉が届いたのかわからないが、灯はただ身体を震わせて泣くだけで、凛を見ようとはしなかった。
夜中にトイレに行きたくて目を覚ますと、灯がこちらを凝視していて、凛は思わず息を呑んで身動きが取れなくなってしまった。
「お、お姉ちゃん、起きてたの? あの私トイレに行きたいんだけど」
「ここでしたらいいよ。お姉ちゃんの前で、昔は良く間に合わなくて漏らしてたじゃない」
「何言ってるの? そんなの昔の話でもう高校生なんだから無理だし、早く退けてよ! 」
灯を睨みつけるが、灯はなら連れて行ってあげるよと、凛の手を引き始める。
「あ、ありがとう。もう大丈夫だよ」
何故かトイレの中にまで入って来る灯に、早く出てと言うが「凛ちゃんは、まだ自分で脱げないからお姉ちゃんが脱がしてあげるからね」と、いきなりパジャマのズボンと下着を下ろされて、凛は危うく
きゃあああ! と声を上げそうになったが夜中なのとママを起こしてはと、必死に声を抑えて何が起こっているの? と必死に頭を回転させる。
「凛ちゃん、座らないとお姉ちゃんに掛かるから座ってね。お姉ちゃんはそれでもいいけど」
凛の女の子の部分を凝視しながら、灯は嬉しそうにしているので、凛は恥ずかしさに堪えて座ると「早く出て行ってよ」と半泣き状態で言うのたが、灯は出て行こうとしない。
「凛ちゃんは、まだ子供だからお姉ちゃんが綺麗にしてあげるから、終わるの待ってるよ」
「お、お姉ちゃん、本当にどうしたの? 」
結局、終わるまで出ていかなかったので、凛は羞恥に耐えながら、拭いて貰って下着とパジャマを履かせて貰うと、灯に手を繋がれて再び灯の部屋に戻って行った。
お姉ちゃんが壊れたと、凛は自分が拒んだからこうなったの? とベッドに横になりながら、嬉しそうに凛に触れる灯を見ながら、灯に頭を撫でられながら考える。
確かに幼い頃は、お姉ちゃんが何でもしてくれたのを覚えている。
夜中にトイレに行けなくて、何度もお漏らししては泣いていた。そんか時に灯が優しく片付けてくれて、着替えさせてくれた。
ママにも、まだ凛ちゃんは小さいからと凛が怒られない様に、庇ってくれた。
お着替えが上手く出来ない時も、お姉ちゃんが手伝ってくれた。
でも今は凛も高校生で、お漏らしする事はない。トイレにだって、一人で行けるし当然着替えだって一人で出来るのに、灯はさも当然の様にトイレに連れて行って、凛のパジャマと下着を脱がせた。
「お姉ちゃん、私トイレ位一人で行けるし、パンツだって脱げるし履けるからね」
「何言ってるの? 凛ちゃんは、まだ子供なんだからお姉ちゃんがいないと駄目でしょ。トイレも連れて行かないと漏らしちゃうし、お着替えもお風呂も一人じゃ無理でしょ」
「だから、それは昔の話で、私もう高校生なんだから一人で出来るし」
「駄目なの!! 凛ちゃんはお姉ちゃんがいないと、お姉ちゃんがしてあげないと絶対に駄目なの!! わかってるよ……ね? 」
あまりの迫力に、凛は何も言えずにただ「うん」と頷く事しか出来なかった。
「怒鳴ってごめんね。お姉ちゃん凛ちゃんが大好き。お姉ちゃん心配なんだよ。お姉ちゃん、お外に出られないから、凛ちゃんがお外で泣いてないかなって、学校で一人で出来てるかなって」
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと出来てるから」
「えへへ、なら良かった。お家ではお姉ちゃんがトイレもお風呂もお着替えもしてあげるからね。料理は凛ちゃんがしてね」
「うん。わかった」
もう私じゃ駄目なんだと、私じゃお姉ちゃんを変えるどころか悪くする一方なんだと、凛が諦めてしまった瞬間だった。
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