第19話 私どうしたの?

お姉ちゃんにいらないと言われてしまった。

 凛は、そのまま動く事すら出来ずに灯のベッドで泣きながら、エロゲーをして、この娘可愛いなぁ〜とこの裸最高なんですけどと、妹が凛が部屋にいるのにも関わらずに、自分で自分を慰め始めた姉の姿を、悲しそうに切なそうに見つめる事しか出来ない。

 以前の凛なら、妹の前で何してるの! と灯を一喝していただろうけど、今の凛にはそんな気力なんてなかった。

 自分のやり方が間違っていたのだと、そう思い知らされた気持ちで、身動きも取れずにただ自慰行為に耽ける姉の姿を見つめては、もうどうしたらいいの? と完全に自信をなくしていた。

「あら、凛ちゃんまだいたの? お姉ちゃんの一人エッチ見るなんて、イケナイ妹ね」

 そう言って、クスクスと笑う灯を見て、お姉ちゃんはもう完全に壊れてしまったと、凛は布団を被ると「ごゆっくり」としか言えない。

 そんな凛の隣り来た灯は、凛ちゃんもしたらいいのにと、その目は大人の女性の目をしていて凛はふるふると首を振ると、再び泣き出してしまったので、灯は凛の隣に入ると眠いから寝るわと、そのまま裸のままで寝てしまった。


今日もりんりんは学校を休んでいる。

 もう三日も休んでいる。そんなに酷い風邪なのかな? と彩香は凛にメールするが、凛から返事は一切なかったので、学校終わったら様子を見に行こうと早く授業終わらないかな? といつにもまして授業に集中出来なかった。

 見舞いに行ったが、熱が高いとの事でりんりんには会えなかった。

 彩香ちゃんが来てくれたけど、まだ辛いよねと聞かれて、今日は帰ってもらってと凛がママに頼んだのだ。あの日、再び熱が高くなってから中々下がってくれない。

 学校には登校したいのだが、熱が下がらない以上は、仕方ないと、凛はお姉ちゃんは、どうしてしまったのだろうか? と考えるが答えは出ない。


私は一体どうしてしまったのだろうか?

 何故凛ちゃんに、あんな酷い事をしてしまったのだろうか?

 そして、この心の中にある感情は一体何?

 凛ちゃんや彩香ちゃんと関係を持ちたいと言うこの感情は?

 彩香ちゃんなら、まだわかる。可愛い女の子だし、キスしたりエッチしたりしたいと思ってもわかるが、妹の凛ちゃんに対してまで、そんな感情を持ってしまうなんて、今までもエッチなゲームをしながら、可愛い女の子としてみたいなとは考えた事は腐る程あるのだが、凛ちゃんに対して、妹に対してこんな如何わしい感情を持った事は、一度もなかった。


本当になかったの?

「えっ? 」

 心の声が聞こえる。

 ずっとお世話してもらって、一緒にお風呂に入ったり、小さい頃には着替えさせたりしたりしていたでしょ。成長していく妹の身体を見て欲情しなかったの?

「そんな事思った事なんてない! 」

 本当に?

 一度も?

「ないったらない! 」

 そうよね。妹の裸に欲情なんてしないよね。

 心の中で、天使と悪魔の両方の声が聞こえる。

「そうだよ。凛ちゃんは、可愛い妹で、可愛い妹に妹の裸に欲情なんてしない」

 どうかしらね。灯って凛の事大好きだからね。好きな人とキスしたいとか、エッチしたいとか普通じゃない。

「好きだけど、それは妹としてで」

 そうだよ。妹にそんな変な感情持たないよね。灯は、そんな淫らな女の子じゃないよ。

 本当の本当にそうかしら? なら何故押し倒してまで、無理矢理足を開いてまで確認したのかしらね。妹の大事な部分見たかったからじゃない?

「違う! あの時は、イライラしてておかしくなっていただけで、私凛ちゃんにそんな気持ち持ってない! 」

 まぁ、すぐに本性がわかるわよ。その時が楽しみね。

 本性なんて、灯は優しい女の子よ。凛をとても大事に思ってる優しいお姉ちゃんよ。

 そうならいいわね。

 心の声は聞こえなくなったが、灯は嫌な汗を全身に掻いて、そのままへたり込んでしまった。

「私は、私は凛ちゃんをいやらしい瞳で見ていたの? 」

 そんな事は決してないと思いたいのに、もしかしたらと、どうしても自分を信じられない。

 女の子の裸が好きなのは事実だ。彩香の裸を見て、正直興奮したし、出来たら関係をなんて疾しい気持ちにもなった。

 でも、凛ちゃんとお風呂入っても、そんな気持ちには多分なってない。

 凛ちゃんのおっぱい大きいなとか、肌が綺麗だなとかは思ったが、凛ちゃんとエッチな事したいとは思わなかった筈。

 自信がなかった。

 私はどうしてしまったのだろう?


結局熱が下がるのに、一週間も掛かって、一週間も学校を休んでしまった。

 教室に入ると、彩香やクラスメートが心配そうに声を掛けて来る。

「りんりん大丈夫? メールの返事もなかったから心配したよ」

 クラスメートも、凛ちゃん大丈夫なの? と心配してくれるので、凛は熱が下がらなくてとごめんねと謝ると、彩香にちょっといい? と声を掛けて彩香を廊下に連れ出す。

 廊下に出ると、凛は声を潜めながら灯からメール来た? と彩香に聞いてみた。

 彩香は、お泊まりの日から毎日灯とメールしていると話していたので、灯が彩香とメールしているなら、あの日は偶々虫の居所が悪かっただけだと納得出来る。

「うん。相変わらず返事は遅いけど来てるよ」

「そっか、ならいいんだけど」

「何かあったの? 」

「別に何もないけど、お姉ちゃんの事お願いね。これからは、フォローはするけどあまり甘やかさない様にって考えてるから」

「私でいいの? りんりんの方がお姉さんの事わかってるし」

「私じゃ駄目なんだよ。甘やかしてしまうから、それに、彩香ならお姉ちゃんの恋人に相応しいし」

 恋人と言う言葉に彩香が、思い切り反応して、顔を真っ赤にして、私が恋人っていいのかな? あんな事やこんな事されちゃうのかな? とか妄想モードに入ってしまったので、凛は彩香らしいなと思いながら、灯が言った『凛ちゃんいらない』と言う言葉を思い出して、胸が苦しくなる。

 あれが本心ではないと思いたいが、あの時の灯の瞳を思い出すと、恐怖で考えが先に進まない。

 そろそろHRが始まるので、妄想モード全開で涎を垂らしている彩香を教室に引っ張って行くと、凛は自分の席に腰を下ろして、再び考え始めた。


もう一週間も凛ちゃんの顔を見ていない。

 熱を出していたので、うつしてはいけないからと凛は、灯にママのご飯食べてねとドア越しに言ってすぐに部屋に戻ってしまったので、あの日の事を謝ろうと扉を開けた時には、既に凛ちゃんは居なかった。

 結局謝るタイミングを見つけられないままに、一週間も経ってしまった。

 凛の部屋に行けばいいだけの事なのに、灯は凛の部屋に行く勇気がなかった。

 その理由は至極簡単だった。

 あの心の声が原因だった。

 凛の部屋を訪れようと考えた時に、再びあの声が聞こえてきたのだ。


灯が、凛に謝ろうと看病しようと考えて部屋を出ようとした時に、再びあの声が響いてきた。

 凛ちゃんを犯しに行くの? 病気で寝てるから簡単に犯せるもんね。

「ち、違う! 謝って看病しに」

 本当に? 凛ちゃんとエッチしたいんでしょ。

「違う! 違う! そんな事考えてない! 」

 そうだよね。いい加減な事言って、惑わさないで、貴女はいつもそうやって、惑わせては楽しんで、本当に嫌な性格ね。

 あら、貴女も私も灯なんだけど、灯が思っている事を、私が代弁してるだけだし。

 灯には、何を言っているのかわからない。私って多重人格なの? と自分を疑ってしまう。

 多重人格とは違うかな。普通に誰もが思っている事を、貴女は表に出さないから、こうやって本当の気持ちを教えてあげてるだけだし。

 本当の気持ち?

 それって、私は凛ちゃんを犯したいの? あのエロゲの様に? そんな筈ない……よね?

 灯は、もう何が何だかわからなくて、その場に立ち尽くして考えるが、自分がおかしくなったとしか思えない。

 ずっと引き籠りだったから、いつの間にか寂しさから、違う自分を作り出してしまった?

 もしそうだとしても、何故今頃姿を現したのか?

 もっと前に姿を現してもいい筈なのに、どうして今なの?

 だから多重人格じゃないし、貴女忘れちゃったのかな?

「どう言う事? 忘れたって」

 忘れてるならいいや。その内思い出すでしょ。それで、どうするの? 凛ちゃんを犯すの?

「しない! そんな事しない。弱ってる凛ちゃんに、そんな酷い事しないから! 」

 弱ってなければするんだ。

「………………し、しません」

 すぐにしませんと言えなかった。

 大丈夫だよ。絶対にそんな事しないから、そんな事しないから、安心していいよ。

 悪魔の声と天使の声のどちらが正しいのか、もう灯にはわからなかった。

 天使とか悪魔とか、自分が何を考えているのか、自分はきっとおかしくなったのだと、もう何がなんだかわからなくて、灯は結局部屋から出られなかった。

「凛ちゃん、どうしたらいいかな? お姉ちゃん、もうわからないよ」

 凛ちゃんと何度も呼びながら、その場で泣き崩れて、もう何も考えられなかった。


結局お姉ちゃんは、ママのご飯は食べなかった様で、部屋の前にはカップ麺の空やパンの袋が置かれているのを見て、凛は悲しくなるが、今日からは自分が食事を作るから食べてくれるだろうと、お姉ちゃんがママの食事を食べてくれるまでは、まだ時間が掛かるわねと、一歩いや半歩ずつでいいから、前に進める様に、自分がフォローしていくしかないと、正直灯が豹変したあの日の事を思い出すと、震える位に怖いけれど、大好きなお姉ちゃんの為には、その恐怖心を押し殺してでも、灯の心を今まで以上に開くしかないと、凛は授業を聞いてるフリをしながら、今後の事を考えていた。


凛ちゃんに会いたいのに、凛ちゃんの顔を見たいのに、凛ちゃんに抱きしめて欲しいのに、凛ちゃんに会うのが怖い。

 凛ちゃんの顔を見てしまったら、自分を抑える事が出来ない気がする。

 抑える自信がない。

 本当に私はどうしてしまったのだろうか?

 大好きなエロゲーをしていても、大好きな百合本を読んでいても、アニメを観ていても心の声の事が頭を離れない。

 悪魔の声が言った『忘れてるならいいや』と言う言葉の意味を必死に考えたが、何も思い出せないし、思い出そうとすると、頭が猛烈に痛くなって強烈な吐き気に襲われてしまって、何も考えられなくなってしまう。

 もしかしたら、あの事が関係しているのかとも考えるが、あの事は二度と思い出したくない。

 絶対に絶対に思い出したくなんてない。

 思い出したら、きっと私は……間違いなく壊れてしまう。

「凛ちゃん……会いたい」

 大好きな妹。

 大切な妹。

 自分を受け入れてくれる妹。

 自分を守ってくれる妹。

 自分を愛してくれる妹。

 自分を見捨てないでくれる妹。

「凛ちゃんの顔を見たい。声を聞きたい」

 彩香と言う友達が出来た事も忘れて、灯はただ凛ちゃんに会いたいと、何度も何度も何度も呟いては凛から今から帰るねとメールが来るのを、スマホの画面を見つめながら、凛の帰りを待っていた。

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