第7話 自宅警備員は妹の看病らしき事をする

さすがに身体がもたない気がする。

 毎日遅くまで彩香の勉強を見て、日にちが変わる手前に家に帰って、灯のご飯を作ってから一緒にお風呂に入ってあげる。

 本当なら少しでも早く身体を休めたいのだが、灯とお話しして、一緒にお風呂に入ってあげないと泣くし、思い切り拗ねるのだ。

 彩香の勉強を見始めてから、以前に増して甘えてくる様になった気がする。

 別に甘えたいのなら甘えればいいのだが、さすがに毎日毎日寝るのが夜中になってしまうのは、幾ら若くて元気のある女子高生と言えども、身体が持つ筈ない。

「今日も遅かったね。お姉ちゃん、お腹空いちゃったよ」

 このクソニートが! と、この自宅警備員、ご飯位自分で作れーーーー! と危うく叫びそうになったが、テストは明後日なので明日は早く勉強会を終わらせるつもりなので、あと一日耐えればと凛は今作るから待っていてねと、疲れ切った顔で答えるとキッチンへと向かった。

 凛ちゃんごめんね。疲れてるのに、灯だって凛がヘトヘトなのはわかっている。本当ならご飯位自分で用意すればいい事も、わかってはいるがお風呂以外で下に降りる事は無理。

 もしキッチンに行って、母親に会いでもしたら、どんな顔をすればいいかわからないし、可哀想な娘と言う目で見られたくない。

 もうあんな瞳を向けられたくない。勿論一葉は、そんな瞳は向けていないのだが、一度そう思い込んでしまっている灯には、一葉が自分を蔑んでいるとそう信じて込んでいるのだ。

「凛ちゃん大丈夫かな? 明後日テストって顔色悪かったから、今日は一人でお風呂入ろう」

 二人でかなり遅い夕食を取ると、次はお風呂ねと凛はお姉ちゃん早く着替え用意してねと、自分の着替えを取りに部屋に行こうとするので、灯は今日は一人で大丈夫だから、凛ちゃん先に入ってゆっくり休んでねと、予想していなかった言葉を投げ掛けられて、凛は戸惑いと言うか驚きから目を丸くして灯を見てしまった。

「凛ちゃん、お友達とテスト勉強で疲れてるのに、お姉ちゃんがキッチン行けないから、無理してご飯作ってくれて」

 だから今日と明日はゆっくりして欲しいと、明日の夕食は要らないからと、カップ麺あるからと少し寂しそうに言う灯に凛は、お姉ちゃんのご飯と一緒にお風呂入るのは、私の日課だからと、特にお風呂は一緒に入らないと、お姉ちゃん平気で何日も入らないからと、だから早く用意してねと部屋を出て行った。

「凛ちゃん……無理しないで」


テスト当日なのに、体調は最悪だ。

 頭が痛いし、身体も重い。でも、今日を乗り切れば、少しはゆっくり出来るよねと、凛は重たい身体を引き摺りながら、家を出た。


あと一教科で終わりだから、何とか持ちそうだ。彩香はどうかな? と顔を向けると必死に教科書と睨めっこしていたので、これなら何とか赤点は回避出来そうねと、お願いだから赤点だけは回避してくださいと、全力で応援しながらラスト一教科に挑んで、何とかテストを乗り切った凛は、帰りにパフェ食べて行こうよと言う彩香の誘いを、今日は早く帰って寝るからごめんねと断ると、フラフラする身体で何とか家路に着いた。


今すぐにでも、ベッドに飛び込んで寝たいのだが、先ずはお姉ちゃんの夕食だけは作らなければと、凛はキッチンで簡単な夕食を準備すると、それを持って灯の部屋に入る。

「おかえりなさい。テストどうだったって、凛ちゃん顔真っ青だけど、大丈夫? 」

「これ、夕食だから、お姉ちゃん今日は一人でお風呂入ってね。私、具合悪いの」

「凛ちゃん、お熱あるんじゃない? こっちに来てお姉ちゃん体温計あるから」

 もう何でもいいよと、目の前がボヤけているんだから、早く寝かせてよと、凛は夕食をテーブルに置くと、そのまま灯のベッドに倒れ込んだ。

「り、凛ちゃん! 本当に大丈夫なの? 」

 どうしよう? 凛ちゃん、お熱あるの? とパニックになっている灯に、疲れてるだけだからお願い寝させてと、凛はそのまま眠ってしまった。

 私のせいだよねと、灯は泣きたいのを我慢して、先ずは凛の洋服を脱がせる事から始める。

 凛ちゃんって、やっぱりおっぱい大きいな触りたいなとか、そんな事を考えながらも、取り敢えずは洋服を脱がせて、自分のパジャマを着せようとしたのだが、サイズが合わない。特に胸の部分でボタンを留められないので、諦めて下着姿のままで今度は熱を計る。

 39度もある。まさか、朝から熱があったのにテストの為だけに、学校に行ったの?

 テストなんて、後日に受けられるのに、体調不良で休む生徒だっているのだから、後日に受ける事も可能なのに、どうして無理して学校に行ったの? って、もしかして学校休んだら私が心配するから、だから無理して行ったの?

 灯の予想通りで、学校を休めば灯が心配すると言うのもあったのだが、今回に関しては、それだけではなかった。

 彩香が、ちゃんとテスト受けられるか心配だったのだ。もし徹夜で勉強なんてして、寝不足でテストを受けでもしたら、間違いなく赤点確実だ。

 それは回避したいと、もし彩香がそんな状態なら喝を入れようと、無理して学校に行ったのだ。


高熱で魘される凛を見て、灯はどうしようどうしようと、オロオロするばかりで泣き出しそうである。看病しないととは思うのだが、部屋から出たらお母さんに会ってしまう。

 お母さんに会うなんて無理だし、部屋から出るのは未だに怖いのだ。

 凛に言われてなければ、お風呂だって入らなくていいよねと、トイレ以外は部屋から出たくないのだ。

 以前はトイレもペットボトルにすればいいや位だったのだが、凛からお姉ちゃん女の子なんだから、どうやってペットボトルにするの? とあとそんな端ない事したら、本当に嫌いになるからと脅されてしまったので、トイレの時だけは、頑張って部屋から出ている。

「凛ちゃんごめんね。お姉ちゃんが部屋から出られたら」

 悩んだ末に、部屋にあったペットボトルの水をタオルに掛ける。絞らなくていい様に慎重に量を調整する。濡らしたタオルを凛のおでこに乗せると、灯は凛の手を握りながら、早く治ってねと苦しそうに息を吐く凛の頭を撫でる。


こんなになるまで気付かなかったなんて、お姉ちゃん失格だよね。元々お姉ちゃんらしい事なんて、何も出来ていない。

 引き籠りになってからの六年間だけじゃない。きっと凛ちゃんと言う妹が出来てから、ずっとお姉ちゃんらしい事なんて出来ていない。

 だから、せめて熱が下がるまでの間でいいから、お姉ちゃんらしい事をさせて欲しい。

 灯は勇気を出して、部屋から出ると階段の下に母親宛の手紙を置いた。

 内容は凛ちゃんが熱を出したので、薬と飲み物とお粥作ってくださいと書いて、それを母親が発見するのは、対して時間が掛からない筈だ。


一時間位経っただろうか? 軽くドアがノックされて、凛ちゃん大丈夫? と何年振りかの母親の声に、灯はドアを軽く開けると、顔が見えない様に、大丈夫と書いた手紙を差し出す。

「そっか、なら安心ね。やっぱりママには顔を見せても声を聞かせてもくれないのね」

 凄く悲しそうな声だけど、きっと演技しているんだと、部屋には凛ちゃんが寝ているからと、未だに一葉を信用出来ていない灯は、後は任せてくださいと再び手紙を差し出すと、一葉が階段を降りる音を確認してから、一葉の用意してくれた物を部屋に引き入れた。


「凛ちゃん、お薬飲める? 」

 目を覚ました凛に、灯はお粥あるよと、食べたらお薬飲もうねと言うと、凛は驚いた顔を見せていたが、ありがとうと素直に伝える。

「お姉ちゃんが用意したの? 」

「違うよ。階段に手紙を置いて、ママが部屋の前に置いてくれたの」

 そっかお姉ちゃん頑張ったんだねと、凛は嬉しくなるが、今は熱と気持ち悪さで灯を撫でる元気もないので、お粥を数口だけ食べると薬を飲んで再び眠りに着いた。

 その様子を見て、明日は無理だよねと灯は再び手紙を書くと階段の下に置く。

 その姿を部屋の扉を僅かに開けて、悲しそうに見つめる一葉。

「灯ちゃん、少しだけ成長したんだね。綺麗になって」

 今すぐにでも部屋から飛び出して、灯を抱きしめて、ごめんなさいと謝りたい。また母娘に戻って欲しいと伝えたいが、きっと灯を驚かせて怖がらせてしまうと、今は凛に任せようと、灯が部屋に戻るのを見届けてから、手紙の内容を確認した。

 ママへ

 凛ちゃんの熱は高いので、明日はお休みにさせてください。明日の朝ご飯お願いします。凛ちゃんの分だけでいいです。

 私のはありますので

 飲み物とプリンみたいな食べ易いのも、用意してくれたら嬉しいです

 お願いします。

 凛ちゃんの分だけでいいと言う文面に、一葉は悲しくなるが、引き籠りになってから灯は、自分が作った料理には一口も手をつけないで、ネットで購入したカップ麺やおやつばかりで、見兼ねた凛がご飯を作って持っていくと、全て食べた。

「私って、本当に母親失格ね。娘の健康管理を娘にさせているんだから」

 もう枯れたと思っていた涙が溢れてきて、一葉は私もう一度母親出来るのかな? と自信を失い掛けていた。


結局熱が下がらなくて、三日も学校を休んでしまったが、お姉ちゃんが看病的な事をしてくれたのは嬉しかった。

 ただしお風呂に入らない私の身体を拭いてくれる時の、お姉ちゃんのあのいやらしい瞳だけは我慢が出来なくて、このエロ姉ーーーーー! と何度叫んだかわからない。

 その度に、お姉ちゃんはい、妹の、は、裸には興味ありませんとテンプレ的な事を言うので、なら何で私の足を広げようとしてるのかしら? と問い詰めると「ごめんなさい! 本物を見てみたくなりました! 」と正直に答えるので、この姉はと思いながら、そう言えばお姉ちゃんも同じ女の子だよねと、自分のを鏡で見なさーーーーーーい! と一撃喰らわしたのはお愛嬌と言う事で、と言う話を元気になって良かったよと、あと何とか赤点回避出来たよと嬉しそうに報告する彩香に話した。

「確かに自分の見ればいいのにね。りんりんは見た事ある? 」

「な、ないよ。別に興味ないし」

「本当にかな? なんか見た事ありますって顔してますけど」

 彩香鋭いと思いながらも、さすがに中学生の時に興味あって、自分のと言うか女の子のって、どうなってるのかな? と興味から手鏡を使って見た事がありますとは言えない。

「ふ〜ん。私はあるよ。興味あって、だからりんりんのお姉ちゃんの言う事もわかる気がする」

「どう言う事? 」

「皆んなって訳じゃないと思うけど、中学生の時にクラスメートが持って来た本の事覚えてる? 」

「本? ってもしかして、あのちょっと背伸びした本の事? 」

「そうそう。あれに、女の子の部分は人それぞれ的な事書いてあったじゃない。多少なりとも違うみたいな。だから、きっとりんりんのお姉ちゃんは、自分のとどう違うか知りたかったんじゃない」

 その気持ちはわからないでもないが、何故に妹のを見ようとした? このご時世ネットでいくらでも無修正の動画観れるのに、私だって多少は気にはなるから、気持ちがわからないでもない。

 人間なんて、そんな生き物だろう。皆んなと同じであると安心出来て、違うと不安になってしまう。そんな弱い生き物である事位は、凛にも理解出来るけど、それでも恥ずかしいじゃない!

「なら、今度お姉ちゃんに会う時に彩香が見せてあげて」

「それは、さすがに無理だし! いくらりんりんのお姉ちゃんでも、りんりんにすら見せてないんだよ! 親友にも見せられないのに」

 ですよねと、凛は冗談だからと言うと、今週末作戦決行したいから、予定は大丈夫? とお泊まりしてもらうからと確認すると、彩香は勿論大丈夫だしとお母さんには、話してあるから問題なしと笑顔で言ってくれたので、凛はこれで少しはお姉ちゃんも変わってくれるよね? と不安もあるが一歩とは言わないが、半歩でも前進したらいいなと思いながら、もし灯が部屋から家から出られる様になったら私の存在意義がなくなると、少し悲しい気持ちにもなってしまった。


凛ちゃんが元気になって良かったけど、あれはやり過ぎたと、いくら女の子のが見たいからって、弱ってる妹のを見ようとしてしまった。

 凛ちゃんは、そんな事で嫌いにならないけど、恥ずかしいからもうやめてねと言ってくれたから良かったけど、もし嫌われていたらと考えると今更ながらに怖くなる灯だった。

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