第11話 彩香ちゃんと二人きりって、これってお家デートですか?

そろそろ出掛けるから、お姉ちゃんを宜しくねと言うと凛ちゃんは、お姉ちゃん頑張れと耳打ちして部屋を出て行ってしまう。

「お母さんを宜しくね」

「本当に行くの? 」

 彩香と灯は対照的な態度で、凛を見送る。

 凛が出て行くと、本当に二人きりになってしまった。

 灯は、かなり不安そうな顔をしている。今日はパジャマ姿ではなくて、凛ちゃんセレクトのワンピースを着ている。

 六年振りにパジャマ以外の服に袖を通した。何だか不思議な気分で、姿見に写る自分を見ていると、凛ちゃんは、やっぱり似合うねと、でもやっぱりダイエットしようねと、飴と鞭の両方をくれた。

 久しぶりに着たワンピースは、何だか心許ない気がして落ち着かない。特に下半身が心許ない。

 パジャマなら、パンツが見える事はないが、ワンピースは、気を付けないとパンツが見えてしまう。

 凛ちゃんセレクトのワンピースは、丈が短いので、特に気を付けなくては、凛ちゃんになら見られても恥ずかしくもないのだが、裸だって見せてるし、しかし彩香ちゃんとなるとさすがに下着を見られるのは恥ずかしい。


彩香の下着姿は見たいのだが、あわよくば彩香の裸を見たいと言うのが本音だが、自分の下着姿を見られるのは恥ずかしい。特にお腹周りについてしまった贅肉と言う名の強敵だけは、絶対に見られる訳にはいかないのだ。

 凛がお出掛けした後から、灯がそわそわしているので、彩香はトイレなら気にせずに行って下さいねと優しく言ってくれたのだが、トイレに行きたい訳ではなくて、凛以外の女の子と二人きりと言う状況にどうしていいのかわからないだけなのだ。

「トイレは大丈夫れふ」

 語尾がれふだった事には、敢えてツッコミは入れずに、彩香は取り敢えず灯の部屋を見回して見る事にする。前回は、殆ど凛の部屋で過ごしたので、灯の部屋をじっくりと見るのは、初めてだ。


先ずは、何故窓がベニヤ板で開かない様にされているのかと、彩香は疑問に思ったがそこは聞かない事にして、興味のあった本棚をじっくりと舐める様に端からじっくりと観察する事にする。

「あ、あんまり見ないで欲しいんですけど」

 灯のお願いは、取り敢えず無視してじっくりと見て、この本棚の殆どが百合系の漫画とゲーム(18禁)で埋め尽くされていた。

 りんりんから聞いてはいたが、本当に百合が好きなんだなと、それも大人の女性だけあってエッチなのが好きなんだなと、引き籠りの女の子だからきっとそう言うのには興味はないんだと、勝手に思っていたが、それは単なる思い込みで、個人差はあるがやっぱり女の子でも、エッチな事には興味はあるし性欲はあるんだなと、彩香は最近エッチな事に興味津々の自分は、決しておかしくないんだと、ちょっと安心して嬉しくなる。

「お姉さんは、エッチな事の経験はあるんですか? 大人だし」

「な、ないよ。私、ずっと引き籠りだし」

 灯の年齢なら、経験済みの女の子が多いのかもしれないが、15歳から引き籠りの灯にはそんなチャンスもタイミングも一切訪れる事はなかった。

「この歳で未経験って、やっぱり変かな? 」

「そんな事はないと思いますけど」

 早い娘は早いし、遅い娘は遅い。別に早いから凄いとか、遅いから駄目と言う事はないと彩香は思っているので、そのまま伝えると灯は少し複雑な顔をしながらも、ありがとうと素直に伝える。


ありがとうと伝えてから、灯は自分の言葉に驚いてしまう。この六年間で凛以外の人間にありがとうと言う言葉を素直に伝えた事などなかった。

 引き籠る前から、凛以外にはあまり素直になれなかったが、引き籠り出す日が近づくにつれて、どんどん卑屈になって、素直と言う言葉は、私以外の人間の為にあるとすら思う様になっていった。

 だから、彩香に対して素直に心からありがとうと言えた事が驚きで、彩香の顔から目が離せずにいると「どうしたんですか? 何か顔についてます? 」と聞かれて、な、何でもないですと答えると彩香から目を離して、俯いてしまう。

 俯くのは、灯の癖になっていた。

 いつから俯くのが癖になってしまったのか、自分でもわからないけれど、その事に気付いたのも凛に指摘されて、初めて気付いた位で、もし凛に指摘されていなければ、今でもきっと気付いてすらいなかった。


俯いて黙ってしまった灯に、彩香は自分が何か話さないと、このまま沈黙の時間が続いてしまうと、どうして百合が女の子同士が好きなんですか? と気になっていた事を聞いてしまった。

 人の趣味にあれこれ言うのは良く無い事だとわかってはいたが、彩香は灯の事を知る事が灯との仲を深める方法だと直感して、聞いたのだ。

 答えてくれるかなんてわからなかった。

 それでも、灯とは仲良くなりたいのだ。りんりんの大親友のお姉ちゃんと言う事だけが理由ではない。 

 一人の人間として、一人の女の子として桜庭灯と言う女の子と仲良くなりたい。


暫くの沈黙の後に、灯は昔から好きだから、昔から女の子同士の恋愛とか、女の子の裸に興味があったのだと、いつからかは自分でもわからない。

「やっぱり気持ち悪いよね? 」

「そんな事ないですよ。恋愛も趣味も人それぞれですから」

 でもエッチなのばっかりは、正直びっくりしたけどねと、チロッと可愛く舌を出しながら、でもエッチなのは、実は私も興味あると、りんりんってムッツリなくせして、以外とそう言う話し嫌うのよねと、だから話せるお友達出来て嬉しいですと、笑顔で答える彩香に、灯は嬉しくなる。

「凛ちゃんも、お年頃なんだから絶対に興味あるのに、そう言う話しすると怒るんだよね」

「わかる〜りんりんって、学校でもそうだし」

 クラスメートが、彼氏とキスしたとか、エッチな事しようとしたんだよねとかの話をすると、顔を真っ赤にして、学校でなんて話ししてるのよーーーーーーー! と怒り出すのだ。

 灯は、凛ちゃんらしいと微笑むのを見て、彩香は灯さんって、こんな顔をするんだと新しい発見に嬉しくなる。


二人の会話は、凛の事が中心だが、彩香は灯の緊張が少しずつ溶けていってるのを感じる。

 いつまでも、りんりんの話しばかりでは灯の事を知らないと、灯が大好きな百合エロゲーの話しをする事にした。

「お姉さんは、百合エロゲーが好きなんだよね? どんなのが好きなの? 」

「どんなのって? どう言う意味? 」

 純愛が好きなのか、凌辱系が好きなのか、自分が攻めるタイプが好きなのか、それとも攻められるのが好きなのか? 彩香は詳しくはないが、どれが好きなのかによって、話しが続けられるか続けられなくて、再びの沈黙タイムになってしまうのかが決まるので、灯の答えは彩香にとってはかなり重要なのだ。


灯は、なんて答えようかと悩んでしまう。答えによっては、彩香は絶対に引いてしまう。

 一番好きなのは、可愛い女の子を攻めて凌辱するのが一番好きなのだが、あの女の子の顔を見たら、それだけで絶頂するんじゃないかと言う位に大好きなのだ。

 灯が悩んでる間に、彩香はチラチラとエロゲーが並べられている棚を見る。

(凌辱系が多い。あとイラストがエロい)

 予想以上にイラストがエロいのだが、キャラクターが本当に可愛い。

 これで凌辱系じゃなければ、彩香もきっと好きになるんだろうなと、彩香は取り敢えず灯の答えを待つ事にする。

 答えは間違いなく凌辱系なのだが、きっと灯は凌辱系とは言わないだろうと、彩香はなんて答えるのかな? と楽しみに待っていると、灯が彩香の方に向き直ると、ゆっくりと口を開いた。

「りょ、凌辱系が一番好きで、他のも大好きだけど、あのキャラクターの顔を見ると、凄く興奮するから、私は経験ないけど、多分私は女の子を攻めてみたいんだと思う。凌辱したいかはわからないけれど」

 まさかの答えに、彩香は一瞬息が詰まる。まさか正直に答えるなんて、そんな事考えてすらいなかった。

 驚いている彩香を見て、やっぱりこんな女の子とお友達なんて嫌だよねと、灯が俯こうとした時だった。

「そうなんですね。いいと思いますよ。凌辱はされたくはありませんけど、女の子だって、そう言う事考えてもいいと思います」

「あ、彩香ちゃん意味わかって言ってるの? 凌辱系だよ」

 彩香だって凌辱の意味位はわかっている。性的暴行等の意味で使われる。そう言う系のゲームなんだと言う事も理解はしている。それでも灯が好きならそれでいいじゃないか。

「私がされるのは嫌ですけど、痛いのとか無理矢理とかは嫌ですから」

「そ、そんな事しないから、大丈夫だよ」

 女の子とエッチな事はしてみたいと言うか、思い切りしたいです。でも無理矢理とか、ましてや暴力を振るってまでしたいとは考えた事はない。

 ゲームだと理解しているから、やれるし好きになってしまっただけで、そう言うシーンじたいは苦手だが、そう言うシーンになる前の女の子の顔が好きなのだ。

「そう言うシーンは苦手だよ。ただ、その前の女の子が可愛くて、何されるの私? みたいなそんな怯えてる顔が可愛くて、欲情するの」

 正直に話して、彩香に嫌われたなら仕方ない。どうせまた一人に戻るだけなのだからと、凛ちゃんには申し訳ないけれど、一人になったら、また相手をしてもらおうと、初めて出来たお友達だから嘘は吐きたくなかった。


正直エロゲーをした事のない彩香には、灯が欲情すると言うシーンのイメージはつかないが、別にそんな事で、灯とのお友達を解消しようなどとは微塵も思ってはいないので、彩香は棚に並ぶエロゲーのパッケージを眺めながら「別に嫌いになんてならないので心配しないで下さいね。一つ疑問なんですけど、最近はダウンロード版が主流なんじゃないんですか? 」とパッケージに描かれた可愛らしい女の子に、女の子の裸を見つめながら疑問を口にする。

 灯は良かったと嬉しくなる。彩香に嫌われても仕方ないと、それでも本当の自分を見てくれる人が欲しかった。

 凛以外に、本当の自分を理解してくれる女の子が欲しかった。

「ダウンロード版は、すぐに出来ていいんだけど、私はパッケージ版の方が好きだから」

 また一つ灯さんの事を知れた。

 こうやって、少しずつ灯の事を知れたらいい。

 スマホに目をやると、もうお昼の時間だ。

「あのお姉さん。お昼どうしますか? 私、料理は苦手でお母さんとりんりんからは、毒物って言われる始末でして」

 ど、毒物って、そんなにヤバいの? 私もそこまで得意じゃないけれど、そこまでは酷くない。

「ネットで頼む? 私がキッチン行けたらいいんだけどごめんね」

 灯がトイレとお風呂以外の場所に行けないのは、凛から聞いているので、彩香は大丈夫ですよと答えながら、ネットで何を食べようかな? と灯にスマホを見せようと灯の横に座る。

「あ、彩香ちゃん! ち、近いし! 」

「どうしました? 近くに来ないとお姉さんスマホ見れないですよ」

 そうだねと、何とか答えながら灯はこれってお家デートってやつだよね? とやっとお友達になったばかりなのに、恋人になった訳ではないのに浮かれ顔でスマホの画面ではなくて、隣にいる彩香を少し距離をつめたらキス出来る距離にいる彩香の横顔を眺めて涎を垂らしていた。

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