第10話 桜庭姉妹は三倉母娘に翻弄される

とうとうこの日が来てしまったと、凛はスマホを握りしめながら、どうするべきなのかを真剣に考える。

 彩香が響さんに、アドレスを教えさえしなければ、私はこんなにも悩む事はなかったのにと、凛はスマホが壊れるのではないかと言う位に、ギリギリと音がする程に握りしめて、響の顔を思い浮かべる。

 本当に綺麗な顔をしている。自分もあんな綺麗な大人の女性になりたいと憧れてしまう。そしてとても澄んだ瞳をしているのだ。身体も実年齢もしっかりと大人なのに、響さんの瞳は少女の様にキラキラと輝いていて、あまりにも眩しくて、私には眩し過ぎて、あの瞳で見つめられると何も言えなくて、身体が動かなくなってしまう。

 

返事しないと失礼だよね。でも、何て返事したらいいの?

 今週末二人でお出掛けしない? 

 彩香となら、二人きりでお出掛けをした事もあるし、緊張なんて全くと言っていい程にしないのに、響さんと二人きりと考えるだけで、胸が痛い程にドキドキしてしまう。

「私、響さんに恋してるのかな? そんな事ないよね。だって親友のお母さんなんだよ」

 ここで相手が女性だと言う事に疑問を持たないのが、凛ちゃんである。

 響さんは、本当に素敵で良い人だ。素敵な女性だと思うけど、彩香のお母さん。

 いいのだろうか?

 親友のお母さんと二人きりでお出掛けなんてしてしまっても、彩香を裏切る事になるではないかと凛は本気で悩む。

 何も怪しい関係じゃないんだから、彩香に話しておけばいいだけだど、そんな単純な事にすら気づけない程に凛は悩んで、返事を送れないでいる。


思い切り頭を抱えて悩んでいたら、再び響からメールが届いたので、内容を確認すると彩香にはちゃんと言っておくから、彩香の事は気にせずに都合良ければ会いたいなと、こちらの思考を読んだかの様なメールに、響さんって超能力者なの? とドキッとしながらも、彩香に伝えてくれるならいいかな? と、でもお姉ちゃんに一言伝えておこうと、灯に許可を取る必要はないのだが、しっかりと伝えておかないと、後々面倒なので一度姉に伝えてから再度返事しますと送ってから、部屋を出て灯の部屋に向かう事にした。


凛が部屋を訪ねる一時間前。

 灯は灯で、引き籠りになってからの六年間で最大級と言っていい程に悩んでいた。

 彩香から、土曜日遊びに行ってもいいですか? とメールが来たのだが、返事が出来ずにただスマホの画面と睨めっこしていた。

「こ、ここここれってお家デートですか? 」

 そもそも付き合ってすらいないのだから、デートなどではないのだが、意外と頭がお花畑の灯は勝手にデートと捉えて、一人で悶々としているのだ。

 デートと言う事は、そう言う事もするんだよねと、キスしたり、エッチな事したりと一人で妄想を膨らませては、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべては、涎を垂らしていると言う始末である。

 勿論彩香に、そのつもりなんてない。

 普通に、灯とお友達として過ごしたいと思っているだけで、その事は凛にも話している。

 ただ土曜日遊びに行こうと思いたったのは、家に帰ってからなので、凛にはまだ話してはいないが、後でメールすればいいだろうと、先ずは灯にメールしたのだ。

 

一時間後。

 そんな彩香の考えなんて、当然気付いていない灯はエロゲー脳な為に、エロゲーの様な展開を期待して、一人涎を垂らしながら妄想しながら、自分でしようかなと考えて、パジャマを脱いで下着姿になると、早速胸に手を添えて始めようとしたら、凛が部屋に入ってきて、お姉ちゃんこんな時間から何をしているのかしら? まだ夕方ですわよと満面の笑みで此方を見ているので、灯は苦笑いでちょっと妄想してしまいましたと、事の顛末を素直に伝える。

「人の親友で、エッチな妄想しないでくれる。それはそれとして、土曜日に彩香のお母さんとお出掛けしてきてもいい? 」

「彩香ちゃんのお母さんと? 彩香ちゃんじゃなくて、彩香ちゃんのお母さん? 」

 予想だにしない灯からの、鋭いツッコミに一瞬言葉に詰まってしまったが、別に隠す必要もないので、試験勉強の為に毎日彩香の家に通っていたら響と仲良くなったのだと、敢えて誘惑されてますとは、誘惑されて正直ドキドキしていますとは言わずに伝えると、灯は入っておいでよと案外あっさりとOKされたので、凛は何か怪しいと疑いの目を灯ではなくて、灯のスマホに、スマホの画面に映る文面に目を向ける。

 土曜日遊びに行ってもいいですか?

 そう言うことねと、彩香と二人きりになって、あわよくばエッチな事をしようと考えていたなと、凛は灯に土曜日が楽しみねと、でもエッチな事は禁止ですからねと忠告すると、自分のスマホを取り出して響に土曜日大丈夫ですと返事をしてから、彩香に土曜日お姉ちゃんを宜しくねと、あとエッチな事されたら殴っていいからとメールすると、夕食作るから、ちゃんと返事しなさいねと返事しなかったら夕食抜きですからお姉様と、微笑みながら部屋を出て行った。


さすがに夕食抜きは困る。

 最近は間食も控える様にしているから、夕食を抜かれると、倒れてしまいかねない。

 凛ちゃんが、毎日お風呂で私のお腹をお腹のお肉ちゃんを摘むからいけないのだ。

 自宅警備員は、多分皆んなお腹にお肉がついている筈だと、かなり偏見的な思考で、だから私のお腹に多少お肉がついていたって問題ないわよと、高をくくっていたのだが、凛ちゃんから、そんなんじゃ可愛い彼女も出来ないし、お姉ちゃんがいつも妄想してるエッチな事も無理よね。だって、そんなだらし無いお腹見せられたら、幻滅してショックを受けちゃうわよと言われてからは、大好きなお菓子もカップ麺も以前よりは食べない様にしている。

 痩せるまでは封印じゃなくて、量を減らしていますと言うのが灯らしい。


緊張するけれど、返事しないと夕食ないしと灯は震える指先で彩香に、土曜日大丈夫だよと凛ちゃんは彩香ちゃんのお母さんとお出掛けするって、だから二人きりだけど、変な事は多分しませんから安心して来てねと、しませんではなくて多分をつける所が灯らしいと言うか、そう言う展開にならないかなと期待しているのが、なんだか可愛らしいなと灯からの返事を見た彩香が、灯からの返事を見て笑顔になった事は、灯は勿論知らない。


土曜日は勝負下着で行くからねと言う返事に、凛は何と返事すればいいのだろうかと、夕食を食べ終えて、お風呂までの時間になるまで悩んでいた。

 もしかして、私の唇は処女は土曜日に奪われてしまうのだろうか?

 ファーストキスすら経験していないのに、土曜日に両方とも奪われてしまうのだろうか?

 響さんならいいとも思ってしまう自分もいるのが、更に凛を悩ませてしまう。

「私って響さんが好きなのかな? 同性が好きな女の子だったのかな? 」

 お姉ちゃんじゃあるまいしと、でも男の子に興味がないのも事実である。

 悩んでも仕方ないよねと、考えたって答えなんて出ないしと、凛は勝負下着楽しみにしていますと、敢えて動揺しているのを悟られない様な返事をする。


「凛ちゃんらしいな」

「どうしたの? 何か嬉しそうだけど」

「何でもないわよ。彩香だって嬉しそうじゃない」

「土曜日に、りんりんのお姉ちゃんに会いに行くからね」

 お母さんは、りんりんとデートでしょ? 

「そうよ。お母さん、また若返ってしまうわ」

「いきなりエッチな事したら駄目だよ。りんりんって、以外と奥手だからムッツリだけど」

「約束は出来ません。お母さんだって性欲のある大人の女性ですから」

 ちゃんとりんりんの許可を得るんだよと言う彩香に、響は彩香ちゃんこそ大人の階段を登ったら教えてねと、お赤飯にするからねと大人の余裕で返すと、お風呂入って来るわねと余裕の笑みで部屋を出て行った。

 そんな響に、お母さんは相変わらずなんだからと彩香は、土曜日に何を着て行こうかなとクローゼットを開けて洋服の品定めを始めた。


三倉母娘に、翻弄されまくりの灯と凛の桜庭姉妹だが、灯も凛も土曜日が楽しみなのは事実だ。

 灯に至っては、不安と楽しみが半々だが凛に関しては楽しみのみで、もしかしたらエッチな経験するかもと、本で読んだだけの知識で妄想を膨らませながら、灯の部屋に行くと今日も二人でお風呂場に向かって、灯の部屋を出た。

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