第15話 きっとラブホに来たせいです

お買い物を終えて、夕食はどうする? と響は凛ちゃんの食べたい物でいいよと言うので、さすがになんでも大丈夫ですとは言えずに、凛は考えた末に洋食最近食べてないなと、ハンバーグがいいですと、子供がお母さんと買い物に来て、何を食べたい? と聞かれた時と同じ答えを言ってしまった。

 言ってから、子供ぽかったかな? と少し恥ずかしくなるが、凛はハンバーグが好きなのでハンバーグと自然に口から出てしまったのだ。

「なら、ハンバーグにしようね」

 そう言った響の顔は、昔見たママの顔で、灯がまだ部屋に引き籠る前に、灯ちゃんは何が食べたい? とママが聞いて、私はお姉ちゃんだから凛ちゃん選んでいいよと、譲ってくれたお姉ちゃん。私はハンバーグ! と嬉しそうに言って、そんな私にママがならハンバーグにしようねと言って、見せてくれた笑顔。

 今は見せなくなった笑顔。

 それを思い出してしまった凛の頬を涙が、次々と零れ落ちて、こんな所で響さんといるのにと思うのに、涙は全然止まってくれなくて、私は俯いたままごめんなさいを繰り返していた。


「落ち着いた? 」

「はい。ごめんなさい」

「昔を思い出した? 灯ちゃんが引き籠る前でも」

 響さんには敵わないなと、お見通しなんだと凛は正直に話した。

「今は、ママの笑顔なんて見れないから、もう何年も見せて無いです。会えばお姉ちゃんをお願いねとごめんねばかりで」

「辛いね。でも、一葉さんは大丈夫だよ。だってママなんだから、お母さんは強いんだから」

 響以外の人に言われていたのなら、きっと大丈夫と言う言葉を信じる気にはなれなかった。

 でも、不思議と響に言われたら本当に大丈夫だと思えてしまうから、響と言う女性は本当に不思議な人だと思う。

 ありがとうございますと言うと、お腹空いたからハンバーグ食べたいですと、凛は笑顔を見せる。

 その笑顔に、響はドキッとした。

 なんて可愛いのと、この娘は私が絶対に幸せにすると強く感じて、人目を気にする事なく凛を抱きしめると幸せにするからと、普通にプロポーズの言葉ですかと言う発言をして、強く凛を抱きしめる。

 凛は驚きはしたが、響に抱きしめられると安心出来るので、響の背中に手を回すとありがとうございますと言うと、また涙が頬を伝っていくのがわかった。

 幸せにするからなんて、自分の事をここまで考えてくれる人がいる事が本当に嬉しかった。

 凛の頬を伝う涙は嬉し涙だった。


お泊まりとは聞いたけど、響さんの家でのお泊まりだとばかり思っていた。

「凛ちゃんは、どんな部屋がいい? 」

 どんなお部屋と聞かれましても、ここって所謂ラブホと呼ばれる場所ですよね?

「ひ、響さんのいいお部屋でお願い…しましゅ」

 ラブホって事は、やっぱりそう言う事をするんだよね? と別にラブホに来たからと言って、皆んなが皆んなエッチな事をする訳ではない。

 女の子同士で終電逃したからと、泊まりに来る人もいるだろうし、旅行でラブホの方が安上がりだからと泊まる人もいるのだが、ラブホと言う存在は知っていても、当然来た事のない凛は緊張から足が震えているのがわかる。

「そんなに緊張しないの。それより、ここ可愛いからここでいい? 」

「は、はひぃ」

 もう自分でも何を言っているのかわからない位に緊張しまくっている。

 部屋に入ると、女の子向けなのか装飾もピンクで枕もハート型で、とっても可愛らしい部屋なのだが、ベッドの枕元にあるある物を、凛は目敏く見つけてしまう。

「うちらには必要ないね。だって妊娠の心配ないんだから」

 そう言って、枕元にあった物を響はあっさりとゴミ箱に捨てると、冷蔵庫からビールを取り出して飲み始める。

「凛ちゃんも飲む? 」

「は、はい、頂きます」

「凛ちゃんの不良さん。お酒は二十歳になってからだぞ〜凛ちゃんは、こっちね」

 そう言って、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して凛に渡す。

 プルトップを開けて一口飲むと、キンキンに冷えていて、それが喉を通過する心地良さに凛は少し冷静になったと思ったのに、部屋からお風呂場が覗ける事に気付いて、再び冷静さを失った。

「ど、どうしてお風呂場が見えるんでしゅか! 」

 凛ちゃんって、緊張すると語尾が変になるのねと響は、ラブホだしと全ての部屋がそうとは限らないが、以外と部屋からお風呂場が覗けると言うか、マジックミラーになっていて、見える仕様になっている部屋は多いのよと、大人の余裕で顔色一つ変えずに教えてくれた。

「響さんは、何度も来てるんですか? 」

「多いかはわからないけど、昔付き合ってた彼女とは、あるよ」

 昔付き合ってた彼女と言うワードに、凛はチクリと胸が痛むのを感じた。

 響さんは、自分と違って大人の女性なのだから、恋愛の経験だってあって当然だし、恋人が出来ればこう言う場所にだって来るのは当然なのに、響さんが彼女とこう言う場所に来ていたと言う事実が、とても悲しくて、凛はそうですよねと大人ですもんねと、ちょっと不貞腐れた子供の様に拗ねてしまった。

「今私が大好きなのは凛ちゃんだから、安心して欲しいんだけど」

 わかっています。響さんの言葉に嘘がないのもわかっています。

 それでも、身体の奥から湧き出すドロドロした感情が、私を苛むんです。

 それが恋心からだと言う事に、凛は気付いていなかった。

「凛ちゃん、おいで」

 響は、凛の手を引くとベッドに凛を座らせる。

「ひ、響さん? 」

 いきなり襲われるの? と凛は目を閉じて身体を強張らせる。

「不安にさせてごめんね。私にも昔は好きな人がいたし、お付き合いもしてキスしたりエッチもしたけど、今大好きで恋してるのは凛ちゃんだから」

 そう言うと優しく抱きしめて、凛のおでこにキスをする。本当は唇にしたいけれど、凛の許可を得ていない以上は、自分の欲求だけで唇にキスをして凛を傷つけたくはなかった。

「響さん、私わからないんです。恋をした事ないから、誰かに好きと言われた事もなかったから、響さんに好きって言われて嬉しいのに、どうしていいのかわからないんです」

 同性から好きと言われた事に多少は戸惑いはあるが、それは然程気にはならない。

 親友のママだから? きっと違う。

 本当の自分は醜い女の子だからだ。

「私は、響さんが思ってる様な女の子じゃないんです」

「どう言う事? 」

 響から見た凛は、優しくて可愛いくて緊張したら更に可愛らしくて、でも本当はとっても繊細で弱い女の子。

「私は醜いから、だから響さんに愛される資格なんてないんです! だから私どうしていいのかわからないんです! 」

 凛の心からの叫びに聞こえた。

 誰にだって醜い部分はあるし、そんな部分もしっかりと見つめて愛するのが、恋愛だと響は考えている。

「凛ちゃん、誰にだって醜い部分はあるのよ」

 勿論私にだって、凛ちゃんとお付き合いしたい。凛ちゃんとキスをしたい。

 凛ちゃんとエッチがしたい。

 娘の親友に対して、そんな感情を抱いているし、凛を誰にも取られたくはない。凛を取られない為なら、どんな汚い事でもしてしまう。

「お風呂入ろっか。お話はそれからにしようね」

 手を引かれるままに、凛は響と脱衣所に向かっていた。


本来なら響に裸を見られていると言う事実で、恥ずかしさで卒倒しそうなのだが、凛は自分を知られたら、本当の醜い自分を知られたら、きっと響は自分を嫌いになって離れてしまう。

 そうなったら、彩香とも親友でいられないと、その事が頭を巡ってしまって、恥ずかしさを忘れていた。

「やっぱり若い娘って、お肌が綺麗で羨ましいわ」

「響さんも綺麗ですよ」

 お世辞なしに、子供を一人産んでいるとは思えない位に、響の身体は綺麗で見惚れてしまう。

 響を見ていると、嫌な事を忘れられそうで、あの胸に飛び込んだら、きっと自分は綺麗になれると凛は気付いたら響に抱きついて、響の胸に顔を埋めていた。

「凛ちゃんって、甘えん坊さん。可愛いし、私的には嬉しいから、好きなだけ埋めてください」

「響さん、私、私綺麗になれますか? この醜い感情に勝てますか? 」

「大丈夫よ。私が力になるから、絶対に一人にしないから」

 その言葉が嬉しくて、凛は顔を埋めたまま泣いて、泣いて、そして笑顔を響に見せた。


お風呂から上がって、冷静になった凛は今更ながらに裸を見られた事と、響の胸に顔を埋めて泣いた事が恥ずかしくて、隣でビールを美味しそうに飲む響をチラチラと見ては赤面している。

「凛ちゃんのおっぱい綺麗だね」

「そ、そそそそそうれすか」

 いきなりのセクハラ発言に、凛は戸惑いながらもありがとうございますとお礼を言ってしまう。

「大きさは、私より少し小さい位かな? どうして彩香はあんなにぺったんこなのかしら? 」

 確かに彩香も響さんの遺伝子を受け継いでいるのだから、巨乳とは言わないが、それなりに成長していてもおかしくはないと、凛もうんうんと頷く。

「やっぱり、灯ちゃんと付き合って揉んでもらうしかないわね」

「それって効果あるんですか? 」

「どうでしょう? でも可能性はあるんじゃない」

 揉まれると大きくなるとは聞くが、凛は信じてはいないので、彩香頑張れと心の中で応援すると、ラブホって凄いなと眩しいなと、改めて室内を見回して、まさかラブホに来るなんてと、響に出会わなければなかったなと、恥ずかしいけれど来れた事はいい経験になったと、響を見つめるとアルコールが少し回っているのか、頬を朱に染めた響の横顔があった。


朱に染まった響の横顔を、いつもより艶やかで色っぽく見える唇を見ていると、凛はキスしてみたいなと、響とのキスはどんなんだろうと考えて、私、今何を考えていたの? と我に返ってそんな事を考えた自分に驚く。

 響は恋人ではない。確かに一緒にお風呂には入ったが、女の子同士ならお風呂位一緒に入る事もあると、まだ納得も出来るがキスとなれば話しは別である。

 どうしたの? 眠たい? と響がこちらに顔を向ける。

 まともに顔を見られない。

 本当に私どうしたんだろう?

 響さんとキスしてみたいなんて、正直それ以上の事も考えてしまった。

 きっと一緒にお風呂に入ったからだ。

 きっとラブホなんて場所にきたせいですと、凛は大丈夫ですと、時計に目をやると、まだ二十時を少し回った位で、思った以上に時間が経っていなかった。

「そうだね。夜はこれからだもんね。凛ちゃん位の歳なら夜中まで起きてる? 」

 普段は日にちが変わる前には寝ているが、さすがにこの時間なら、普段は灯を連れてお風呂タイムで寝てはいない。

「普段は、お姉ちゃんをお風呂に入れてます。私が入れないと入りたがらなくて」

 本当に困ったお姉ちゃんなんですと、少し不機嫌に言ってしまって、しまったと、また醜い部分が出てしまったと、凛は響さんに嫌な思いさせたかなと不安そうに響を見る。

「そっか、お姉ちゃんは凛ちゃんにとっては重荷なのかな? 解放されたい? お姉ちゃんから」

「!!」

 痛い所を突かれて、凛は言葉に窮する。

 そんな凛に、ベッドに行こうかと響は先にベッドに入ると、凛においでおいでをしている。

 凛は、そろそろと響の隣に入る。

 凛がベッドに入ったのを見て、響がいきなり凛を押さえつけて、馬乗りになった。

「ひ、響さん! 何するんですか! 」

 襲われると、凛は必死に抵抗するが、見た目かなり華奢な筈の響の腕を振り解けない。

「凛ちゃん、本当の事を言って、言わないなら襲うから」

 響の瞳は本気だ。

 こんな響は見た事がなくて、その全てを見透かした様な瞳に、凛は恐怖から何も言えない。

 何も言わない凛のバスローブの上部を解くと、響は律儀にも今日買ったばかりの凛のブラに手を掛ける。

 胸が曝け出されて、凛はやめてと力無く言うが響は、本当はされたいくせにと、凛の胸に手を添えると力一杯に胸を掴んだ。

「痛い! 痛いです! 響さんやめて……ください」

 最後の方は恐怖から、泣きながら言ったのでとても弱々しかった。

「本当の事を言ったらやめてあげてもいいよ。でも言わないなら、このまま貰うから」

「そ、それだけは、まだ心の準備が、それに本当の事って何ですか? 」

 この後に及んで、まだしらを切るのかと響は右手は胸に、左手は下腹部へと本気で初めてを奪いますよと言う意思表示をする。

「お願い……ですから、やめて……ください。何でも言いますから」

「本当に? 嘘なら許さないから、本当に凛ちゃんの初めて貰うから」

 本当はこんな怖い思いなんてさせたくはない。だが、こうでもしないと、凛は話してはくれないだろう。

 これは凛の為だ。荒療治なのはわかってはいるが、自分には遠慮なく何でも話して欲しい。自分を頼って欲しい。

「お姉ちゃんの灯ちゃんの事。邪魔とは言わないけど、正直解放されたいんでしょ? いつまでも引き籠ってないで、自分で何とかしなさいって思っているんでしょ? 」

「そ、そんな事はお姉ちゃんですし、大切なお姉ちゃんだし、私しかいないんですよ。だから、そんな事思ってません」

 響は、凛の嘘に気付いてとうとうパンティーまで脱がしてしまった。

「言わないのね。なら約束通りに……」

「言います! だから本当にやめ……て」

 凛はもう大泣き状態で、ガタガタと震えている。そんな凛を見てやり過ぎたと思うが、少しでも凛の心を軽くしたい。

「凛ちゃん、私だってこんな無理矢理なんて嫌なのよ。でも、凛ちゃん、私に遠慮して話してくれないから、私寂しいよ」

 胸に滴る温かいものに凛は気付いて、響を見ると響の瞳から涙が溢れていた。

「ごめんね凛ちゃん。私、こんなやり方しか出来なくて、でも好きな人の事を知りたい。守りたいし救いたいんだよ」

 響は、自分でも何が何だかわからなくて、好きな人にこんな酷い仕打ちをしてまで、凛の全てを凛の心の闇を知る必要があるのか? 自分でも自信なんてないけれど、それでも凛を好きだから、凛を凛の心を守りたかった。

「このままじゃ、凛ちゃん壊れちゃうよ。このまま自分を押し殺して無理したら、私そんなの嫌だよ」

 年甲斐もなく子供の様に大粒の涙を零す響を見て、凛は私響さんを泣かせてしまったと、大切な人なのにと「響さん、話しますからだからもう泣かないでください」と響を見つめると響は「怒ってない? こんな酷い事して嫌いにならない? 」と不安そうに見つめるので、絶対に嫌いになりませんからと、でも心の準備が出来るまでは待ってくださいねと、私も愛してますよ的な発言をした事には凛は気付かずに、優しく微笑んでいた。


「凛ちゃん、本当にごめんね」

「もういいですよ。驚いたし怖かったけど、響さんがあんな怖い顔するとは思ってなくて」

「本当にごめんなさい。嫌いになった? 」

「なりません。絶対に嫌いになんてなりませんから、私響さん好きですから」

「それって付き合ってくれるって事? キスしてもいいって事? エッチも? 」

「もう少し待ってください。自分の気持ちをちゃんと確かめてからでいいですか? き、キス位なら大丈夫だと思いますけどエッチは」

 響は残念と言いながらも、キスはいいんだと大人の顔をすると、なら凛ちゃんのお話し聞いたらキスしますと宣言するので、凛は早まったかなと思いながらも、響さんならいいかなと響を見つめながら自分の灯への正直な気持ちを話し始めた。


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