第25話 先生の秘密

 11月に入り気温も下がってきた。そうなってくると冬物の服が欲しくなってきた。冬の方が重ね着ができてコーデの幅が広がり楽しみでもある。


 きれい目よりもかわいい系が斎藤の好みと、少しずつ分かってきた。斎藤の好みに合った冬物の服を買いに、ショッピングモールにきていた。

 咲良を誘ったが、バレーの試合があるということで断られたので今日は一人できている。

 みんなでワイワイいいながら買い物をするのも楽しいが、一人でじっくり見て回るのも楽しい。


 このワンピースかわいいなとか、このお店のスカート、あのお店にあったトップスと合わせると良さそうとか考えながらモール内を歩いていると、トイレに行きたくなってきた。

 いつも出先でのトイレは苦労が多いが、モールのような大型商業施設だと必ずと言っていいほど多目的トイレがあるから楽だ。


 トイレのことを考えると尿意がどんどん強まってきた。不自然ではない程度に速足で歩きながらトイレの前にたどり着くと、トイレのドアは閉まっており使用中となっていた。

 多目的トイレはあるとはいえ、だいたい一つしかないから不便と言えば不便。

 別の階のトイレに行こうかと思ったが、歩くのも面倒だしまあいいかと思い直しスマホで時間をつぶしながらトイレが空くのを待った。


 数分後ガチャという音が聞こえ、スマホから目を離しトイレの方を向くとドアが開き始めた。ベージュのワンピースを着た女性がトイレから出てきた。

 あれ、村中先生?とおもったが、僕の膀胱は限界を迎えつつあったので、とりあえずトイレを済ませるため、本当に先生なのか確認せずにトイレに入りドアを閉めた。


 間に合ったことに安堵しながら便座に座った。用を済ませながら、村中先生のことを考える。なんで先生は多目的トイレを使っていたんだろう?女子トイレがいっぱいだったのかな?

 いろいろ考えたが結論は出ず、手を洗ってトイレから出た。


「秋月さん、こんにちは」


 先生はトイレの前で僕が出てくるのを待っていた。


「先生!」

「秋月さん、ちょっと時間ある?」


 にこやかながらも真剣な先生の表情に断ることはできずに、後をついて行きモール内にあるカフェに入った。


「私はコーヒーだけど、秋月さんは何にする?奢るから遠慮せずに何でも頼んで、このお店チーズケーキ美味しいよ」

「じゃ、ミルクティーとチーズケーキいいですか」


 先生は店員さんを呼んで注文をしてくれた。


「すみません。プライベートなのに、奢ってもらっちゃって」

「いいのよ。誘ったのは私だし。秋月さんの私服初めて見たけど、可愛いね。」

「ありがとうございます。先生も、いつもと違って、よく言えないけどフェミニンというかガーリーというか、可愛いですね」


 先生のワンピースはパフスリーブでリボンタイになっており、いつもより甘めだ。

 その後お互いの服を褒めたり、学校の事など会話は弾んだ。


「古文の時間、どうしても眠くなっちゃうんですよ。でも、林田先生が『ここ、要チェック』って叫ぶから、目が覚めちゃうんですよ」

「林田先生、変わらないね。『チェック林田』ってあだ名があるぐらい、私の学生のころから同じことしてたよ」

「村中先生も、林田先生に教えてもらってたんですね。う~ん、あれ?」


 そこまで言って、自分の言葉に少し違和感を覚えた。林田先生には一度、「この学校に15年いるけど、こんなに出来の悪い生徒は初めてだ」と怒られたことがある。

 うちの学校はずっと変わらず男子校だ。なんで村中先生が、林田先生の授業をうけるんだ?


「その顔は気づいたようね。私、光林館高校出身よ」

「それって?」

「秋月さんと同じよ。ホルモン治療は受けているけど、まだ手術はしてないから股のところには同じものがあるよ」


 想像もしてなかったカミングアウトに、理解が追い付かない。先生が男だって!?

 言われてみれば、中性的というか男前な美人な顔立ち、女性にしては高い身長、本名も違ったし。

 子供の時から女の子になりたいと思ったこと、それで母親のスカート履いていたのが中学生の時バレて怒られたこと、男らしくなるようにと男子校の光林館高校に入れられたこと、県外の大学に進学して女の子として暮らすようになったこと、混乱している僕に構わず、先生は話を続けた。


「それで、学校側は知ってるんですか?」

「知ってるよ。就活で履歴書も提出してるからね。学校の女性教師はみんな理解があって、女子トイレとか女子更衣室使っていいことになってるけど、流石に外では使わないようにしてる」

「あともう一つ聞きたかったですけど、進級と引き換えにスカート履くことなりましたけど、それも本当は必要なかったですよね?」

「あっ、それにも気づいた?そうよ、出席だけしていれば赤点でも補習と課題で進級できるようにはなってる」


 先生はいたずらがバレた子供のような笑みを浮かべ、コーヒーを一口飲んだ。


「面談の時、秋月さんの顔を見て女装したら似合いそうだと思ったし、それに成績のこともあるけど学校生活あまり楽しんでなさそうだったし、それだったら女子高生になって方が良いのかなと思ったのよ」

「そうなんですね」

「で、どうする?テレビにも出て学校のPRにはなったし、もう男に戻ってもいいよ」

「いや、ちょっと、それは……」


 女の子になって、みんなが優しくしてくれるし、ファッションも楽しい。それに斎藤もいるし。仕組まれた罠と気づいても、もう戻る気にはなれない。


「やっぱり、そうよね。秋月さんなら分かってくれると思ってた」


 先生は僕の手を両手で握り、満面の笑みを浮かべている。


「じゃ、男の娘どうし仲良く一緒に買い物しよ。秋月さんに似合いそうなワンピースがあったんだ、この後見に行こ。あっあと、このことはみんなには内緒ね」

「はい」


 カフェを出た後、二人で買い物をつづけた。先生はファッションに詳しく、いろいろ教えてくれた。やっぱり、先生は頼りになる。





 

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