第2話 女の子になるために

 楓がスカートで学校生活を送ることで、学校側としてもLGBTに理解のある学校としてアピールできるということもあり、その見返りとして新しい制服は無償でもらえることになった。


 家に帰るとひとまず真新しい制服を、リビングにあるハンガーラックに吊るした。改めて間近で制服を見てみると、プリーツスカートが可愛く感じる。でも、が自分が着ると思うと気が重い。


「ただいま、今日も告白されちゃった。断るのも辛いのよね。変な男子に絡まれたくなくて、せっかく女子校に入ったのに困っちゃう」


 春休みだけど部活で学校に行っていた、二つ下の妹の咲良さくらが帰ってきたようだ。


 自分の妹ながら咲良はアイドル並みに可愛い。偏差値高めな中高一貫の女子校である聖心女学園の中でも上位の成績をあげながら、バレー部の部活ではキャプテンでもある。

 天は二物を与えずというが、妹に関しては二物も三物も与えられていて、身内ながら羨ましく感じる。


「うん、この制服何?」

「楓の新しい制服。楓、成績悪いから、4月から女子高生になるんだって」

「母さん、説明が雑過ぎるよ。どういうこと?」


 母に詳しい経緯を聞いた咲良は、呆れた表情でこちらを振り返った。 


「中学受験も失敗してバカだと思ったけど、留年するなんて想像以上にバカだったみたいね。こんな兄をもって、妹として恥ずかしいよ。あっ、でも今度からお姉ちゃんになるんだった。よろしくね、!」


 咲良にバカにされたが、事実なので反論できずグッと堪える。咲良は勝ち誇ったサディスティックな笑顔を浮かべていた。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝目が覚めて、時計を見てみると11時を過ぎていた。昨晩は進級の条件として渡された課題を夜遅くまでやっていたので、この時間まで寝ていてもまだ眠い。

 リビングは誰もおらず、静まり返っていた。父は仕事に行ったとして、母と妹はどうしたのかなとおもっていると、テーブルの上に「買い物に行ってきます。ご飯は冷蔵庫」と書かれたメモが残されていた。


 冷蔵庫から玉子サンドを取り出して、遅めの朝食をとることにした。昨日遅くまでやったのに、まだまだ終わりが見えない課題の量にうんざりしながら、玉子サンドをほおばった。

 このままだと、春休みは遊ぶ暇もなく勉強だな。ご飯食べたら、つぎは英語に取りかからないとな。

 そんなことを思いながら、ただ腹を満たすためだけの食事を終えたとき、玄関のドアが開くを音がした。


「ただいま。楓起きてたの?ご飯食べた?」

、おはよ。お姉ちゃんのために、買い物してきたよ」

「僕のために?」

「僕じゃなくて、私でしょ。そんなんじゃ、女の子なれないよ。でも、まあいいわ、今からたっぷり教えてあげるから。ほら、服買ってきたから着替えてよ」

「服?なんの?」

「なんのって、お姉ちゃんの服に決まってるでしょ。スカートとか女の子の服持ってないでしょ。下着も買ってきたよ。ほら、早く着替えて」


 咲良はショッピングモールのロゴの入った袋を押し付けるように渡してきた。中を開けてみると、ブラウスやスカートといった女物の服に混じってショーツやブラと言った下着も入っていた。


「下着も着替えるの?」

「当たり前じゃない、トランクス履いている女の子がどこにいるのよ」

「でも、ブラジャーは必要なくない?胸ないし、キャミソールだけでもよくない?それに、学校だけ女の子のフリすればいいんだから、家でも女の子にならなくてもいいんじゃない?」

「学校だけって、そんな気持ちだとボロがでるよ。そしたら、LGBTでもなんでもなくて単なるスカート履いている女装男子高校生ってバレて、やっぱり留年ってことになるかもよ」


 確かに言われてみれば、そうだ。LGBTの生徒にも配慮している学校としてPRできるということで、特例で留年は免れているが、バレてしまったら特例も取り消されるのかもしれない。


「わかったよ。着替えてくる」


 口の立つ咲良に丸め込まれて、学校だけではなく家でも女の子になることになってしまった。

 部屋に戻って紙袋をひっくり返して、中に入っていた服と下着を取り出した。由香に散らばった中から、ブラジャーを手に取りじっくりと眺めてみた。


 今まで母や咲良のブラジャーは見たことがあるが、あんまり見ると変態と思われそうなのでじっくり見たことがなかった。

 改めて手にあるブラジャーを見てみると、ピンクの下地にレースの刺繍が施してありかわいいと思ってしまう。

 セットになっているであろう、下の下着ショーツも手に取ってみる。こちらもレースの刺繍が施してあり、リボンも付いていてかわいい。


 思わず見とれてしまったが、あんまり待たせると咲良の機嫌が悪くなりそうなので、意を決して着替えることにした。

 今着ている寝間着と下着のトランクスを脱いで、ショーツに足を通した。小さいショーツだが伸縮性があり、お尻の方は問題なく入った。でも前の方が、ぞうさんを収納することを考慮されていない分窮屈に感じる。


 続いてブラジャーを着けようとするが、後ろのホックが止められない。母は昼ご飯を作っているみたいだし、咲良を呼ぶのは癪なので、スマホでブラの付け方を調べることにした。

 肩紐を通さずにホックを前で留めて、後ろに回してから肩紐を通す。なるほど、これなら体が固くても大丈夫だ。


 下着に続いて上着のトップスにボーダーのカットソーを着た後、いよいよスカートを手に取った。

 ピンクと黒のスカートがあったが、ピンクを身に着ける勇気はまだなかったので黒のスカートを履くことにした。

 スカートに足を通し、共布のリボンを結んだ。

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