第17話 お買い物
稲葉に誘われた。その事実は、胸をドキドキさせる。考えてみれば、去年からゲーセンに誘う時も僕から誘ってきたし、稲葉から誘われるのは初めてだ。
「お姉ちゃん、どうしたの?夕飯食べないの?」
咲良に言われてハッと我に返った。夕ご飯を食べている最中に、稲葉のことを思い出して、箸が止まっていたみたいだ。
「食べるよ。でも、試験も終わったし少しダイエットしないとって思ってただけ」
「そうだね。夏だし、薄着の季節だから少し痩せた方が良いね」
適当に誤魔化そうとしたが、実際テスト期間中に2キロ体重が増えた。あんなんに、テスト中頭も体もボロボロだったのに体重は増えた。ミステリーだ。
それにしても、咲良から「痩せた方が良い」とズバリ言われるとショックを受ける。
「ところで、咲良、夏用の服を買いに行きたいんだけど、今度の土曜日付き合ってくれない?」
「午前中、部活があるから午後からならいいけど」
咲良は素っ気なく答えた。日曜日、稲葉の将棋大会を応援しに行くのに制服でも良かったけど、せっかく学校の外で会うなら私服の方が良いだろう。
部屋着として咲良のおさがりを適当に着ているだけだが、稲葉に会うならきちんとしたものを着たい。
「わかった、お姉ちゃんデートでしょ?相手は誰、稲葉さん?」
咲良の鋭さには毎回驚かされる。まあ、でも咲良を味方につけておいた方が、服のアドバイスなどもらえて何かと便利だ。
「そうだよ。日曜日に稲葉の将棋大会に応援に行くから、服を買いたいんだ」
「照れちゃって、かわいい。そういうことなら協力してあげる」
さっきと変わって咲良は嬉しそうな表情をしている。
土曜日、咲良に言われた通りに2時にショッピングモールに着くと、咲良のほかにも同じバレー部の美玖と花梨がいた。
「なんで、あの二人もいるんだよ」
「だって、この後お姉ちゃんと買い物行くって言ったら、面白そうって言われてついてきたのよ。まあ、いいじゃん、他の女の子の意見も聞いたほうが良いって」
二人ともこちらを見て、ニタニタ笑っているところ見ると咲良は事情を全部話したようだ。
買いやすい値段で流行を抑えた服が買えるシマクロに向かって、モール内を4人で歩き始めた。
美玖も花梨も咲良と同じぐらいかわいい。その3人がつるんで歩いていると周りからの注目度は高い。すれ違う男がチラチラこちらを見ているのがわかる。
自分も去年までは同じように、街でかわいい子をみるとバレないように視線で追っていたが、見られている側にはバレていることを知った。
お店に着くと、色とりどりの服が並んでいる。いっぱいありすぎて、選びきれそうにないと思っていると、咲良が尋ねてきた。
「お姉ちゃん、稲葉さんって、どんな感じが好みなの?」
去年まで二人でいろいろ語り合った中なので、それについては熟知している。
「そうだね、可愛い系が好みみたい。あと巨乳好きで、ミニスカートも好きって言ってた」
「典型的な男子だね」
「うん、典型的すぎて逆に清々しい。でも、それならコーデも組みやすいね」
美玖と花梨が呆れた顔で感想を言った。僕の好きな稲葉が馬鹿にされ悔しい気持ちもあるが、稲葉が好きそうなコーデを考えてくれそうなのでグッと堪えた。
「オフショルダーがセクシーでいいかな?」
「でも胸を強調するなら、ビスチェもありじゃない?」
オフショルダー?ビスチェ?咲良と美玖がコーデをどうするかで話し合っているが、まったく用語が分からない。
「見てみて、このワンピかわいくない?」
「かわいい、かわいい」
花梨が花柄のワンピースを持ってきた。三人とも他人事だと思って、好き勝手に服を選び持ってきては僕の体に当てながら、似合うかどうかをチェックしている。
「う~ん、あんまりしっくりくるのがないね。他のお店に行こうか?」
「そうしよ。かわいい系ならあっちのお店の方がいっぱいあるし」
そうやってシマクロだけではなくモール内にあるお店を数軒歩き回りながら、服を選び続けた。途中、やっぱりあのお店の服がもう一度見たいと咲良が言い出し、戻ることもあったので、数時間以上モール内をさまよった。
「ふ~う、疲れた」
買い物を終え咲良と家に戻ると、ソファにダイブして寝ころんだ。
「女の子の買い物って、こんなに大変なんだね」
「こんなのまだ序の口よ。本当は駅ビルの方も見て回りたかったけど、時間なくて諦めたし」
「えっ、マジで!?。女の子って疲れる」
「そうよ、かわいいは作れるだから、妥協しちゃだめだよ。それより、どんな感じか見てみたいから買ってきた服に着替えてよ」
歩き疲れたのでまだゴロゴロしていたかった。でも、トップスとスカートを別々のお店で買ったので、コーデしたところを見てみたいのは僕も同じだったので、着替えることにした。
自分の部屋に戻り、紙袋から買った服を取り出し着替え始めた。ミニを勧めてくる咲良に必死に抵抗して膝丈にしてもらったピンクのプリーツスカートと袖が透けていて少しセクシーな黒のトップス。フェミニンかつセクシー、稲葉が好きそうな組み合わせだ。
着替え終わり、鏡で全身を見てみる。想像通り、稲葉が好きそうな感じに仕上がっている。
ノックもなく勝手に部屋に入ってきた咲良も、「かわいい」と言ってくれた。明日が楽しみだ。
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