第23話 告白

「これ、可愛い!斎藤、ありがとうね」


 クレーンゲームで獲ってもらったぬいぐるみを抱えながら、改めて斎藤にお礼を言うと斎藤は照れていた。


「そのぬいぐるみ、秋月さんのカバンには入らないから持っておこうか?」

「うん、そうして。手に持って歩いていたら、どこかに忘れそうだから助かるよ、ありがとう」


 口角をあげ、眼を細くして微笑みながら斎藤にぬいぐるみを渡した。視線があった斎藤は照れ笑いをしている。

 夏休み勉強の合間に、かわいくみえる笑顔の作り方を鏡に向かって繰り返し練習した。練習のかいもあり自分で言うのも何だか、この笑顔は男を虜にする。笑顔は女の武器だ。


 ふと時間が気になり、手首を返して内側に着けた腕時計で時間を確認した。最近は女性でも文字盤を手首側にもつけるらしいが、内側に着けた方が時計を見る仕草が女の子っぽいかなと思って内側に着けている。

 時計の針は3時を回っていた。ゲーセンで少しはしゃいで疲れたし、どこかのお店で休憩をすることにしよう。


「斎藤、少しおなかすかない?」

「そうだな、あそこで休憩しようか?」


 斎藤がゲーセンの隣のファーストフードを指差しながら言った。正直お店なんてどこでもよかった。あともう少し斎藤と一緒にいたかった。

 お店に入ると混雑しており、レジ前には行列ができていた。


「俺買ってくるから、秋月さん席とってて。飲み物コーラーでいい?」

「うん、お願い」


 レジへと向かう斎藤を見送り、席を探すため混んでいる店内を見渡した。運よく隅の席から立つ人がいて、その空いたところに滑り込んで席を確保した。

そこに座り、今日のことを振り返りながら斎藤が戻ってくるのを待った。多分、斎藤は僕に好意を持っている。あともう少し頑張れば、斎藤の方から告白してくれるはず。


「お待たせ」


 斎藤がドリンクとポテト二つずつをのせたトレイを慎重に運びながら戻ってきた。


「ありがとう、いくらだった?」


 僕は小さなカバンから財布を取り出した。


「いいよ。これぐらい奢るよ」

「これからも一緒に遊びに行きたいから、割り勘にしよ」


 相手の好意に甘えて奢ってもらってばっかりだとそのうち誘われなくなるので、適度に割り勘にしたり、反対に奢り返したりするのが大事と、咲良に教えてもらった。

 また今度も誘いやすい雰囲気を作るのが大事みたいだ。咲良のアドバイスはいつもためになる。


「コーラとポテト、最高の組み合わせだね」


 ダイエット期間中は揚げ物は控えていたので、久しぶりのポテトは背徳感も含めて美味しく感じる。


「何も考えず、俺と同じLサイズにしちゃったから、食べきれないなら残しといて。俺が食べるから」

「ありがとう。食べられないことないけど、全部食べると太っちゃうから半分にしとくね」


 二人でポテトを食べながら、学校の事や部活のことなどとりとめないことも話した。いや、斎藤が一方的に話すのをニコニコしながら相槌を打っていた。

 基本的にほめていれば調子に乗って話し続ける。女の子になってから気づいたが、男の機嫌を取るのは簡単だ。


 小腹を満たした僕たちは、駅ビルに入っている本屋へと向かった。会話の流れで僕が英語の文法問題が苦手という話になり、斎藤がお勧めの参考書があるということで本屋に行くことになってしまった。


「これ、これ。解説が丁寧だから、英語苦手でもいけるよ」


 斎藤から参考書を受け取りパラパラと中身を見てみるが、確かに解説は丁寧に書いてあり問題の難易度もそんなに高くなく、僕のレベルに合っていそうだ。

 プレゼントするよという斎藤の申し出を断り、レジで会計を済ませた。


「斎藤、ありがとうね。頑張って勉強するね」


 僕が嬉しそうにすれば、斎藤も喜んでくれる。男の扱いって楽だなと思う。本屋を出た後は、駅ビルの屋上へと向かった。

 屋上は市内を展望できる休憩スペースとなっており、もうそろそろ夕日が沈む時間なのでそれを一緒に見ようと斎藤を誘った。


 屋上に上がると、同じように夕日を見ようとする人たちでにぎわっていた。家族連れも多いが、やはり圧倒的に男女のカップルが多い。

 カップルはみんな手をつないでいるので、同じように斎藤の手をそっと握った。


「夕日、きれい」


 屋上の柵に二人並びながら、沈む夕日を見ている。


「今日は楽しかったよ。また遊ぼうね」


 無邪気な笑顔を浮かべながら、斎藤に話しかける。


「秋月さん、あの……、その……、もしよかったらだけど、付き合ってくれる」

「付き合うって、私、男だよ」


 嬉しいのに白々しく嘘をついた。


「秋月さん、男でもかわいいし、気も効くし、一緒にいて楽しい、関係ない。好きです。付き合ってください」


 斎藤が頭を下げてお願いしている。稲葉から聞くことのできなかった、「好きです」その言葉を聞きたかった。


「ありがとう。これからもよろしくね」

「それってOKってこと?」

「うん、そうだよ」


 斎藤の腕にしがみついた。好きな人と付き合うのもいいが、自分を好きでいてくれる人と付き合うのもいい。

 斎藤がそっと肩に手を回してきた。嬉しくて膨らんできた下半身が、斎藤にバレないように手で押さえた。






 

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