第24話 恋する乙女

 朝目が覚めると午前六時。今までなら六時半にセットした目覚まし時計に起こされていたが、最近は自然と目が覚めるようになった。

 起きるとすぐにスマホをチェックする。今日も斎藤からの「おはよう」のメッセージが届いていた。

 これが楽しみで毎朝自然と目が覚めてしまう。すぐに返信のメッセージを送り返した後、すぐにベッドから起きた。

 まだ眠たいが朝は何かとすることが多く、おちおち二度寝をしてられない。

 あわただしく朝食を食べ終わった頃、咲良が起きてきた。


「咲良、おはよ」

「お姉ちゃん、最近起きるの早いね」

「まあね」


 早く起きるには理由はあるが、咲良には教えたくなかったので返事をあいまいに濁して、洗面台へと向かった。歯磨きを手短に済ませた後、髭を丹念に剃り、メイクを始めた。

 ファンデーションを塗り、コンシーラーで髭痕を隠し、派手にならない程度にアイメイクを仕上げ、チークもほんのりつけ、リップで唇を血色の良くみせる。


 鏡を見て、最終確認。髪もちゃんとまとまっているし、最高にかわいい僕が作れいる。

 メイクや髪のセットに今まで以上に時間がかかるようになった。でも、斎藤からのおはようメッセージが気になって早く目が覚めてしまうので、ちょうどよいと言えばちょうどいい。


「じゃ、行ってきます」


 斎藤に早く会いたくて、家を出るのも早くなってしまった。駅について電車に乗ると、英単語帳を取り出した。

 毎週行われる英単語テスト、先週頑張っていい点数を取ったら斎藤が褒めてくれたので、今週も褒めてもらえるように頑張っている。

 「頑張ったね」と頭をなでなでされるのが、最高に気持ちいい。あの快感をもう一度味わいたい。

 

「あの制服、光林館高校じゃない?」

「ってことは、スカート履いてるけど男子だよね」


 単語帳をみていると、後ろからヒソヒソ話が聞こえてきた。単語帳を見るふりをしつつ、横目で僕のことを話している女子高生を観察した。

 客観的に見ても僕の方がかわいい。男でも僕の方が可愛いし、カッコいい彼氏もいるんだぞ、と心の中でつぶやく。

 以前だったら、男であることがバレると恥ずかしく感じていたが、最近は自信がついてきて恥ずかしくなくなった。


 学校に着くと、まだ自転車通学の斎藤はきていなかった。教室に誰かが入ってくるたび、斎藤がきたかなと思ってドキドキしてしまう。


「おはよ」


 斎藤が教室に入ってきた。昨日と変わらず、カッコいい。

 堪らず近づきたいが、焦っていると思われたくないので我慢。斎藤の方から近づいてくるのを、じっと待つ。


「楓、おはよ」

「おはよ、拓海」

「おっ、今日は髪型違うね」

「ちょっと変えてみたけど、どうかな?」

「うん、かわいいよ」


 今日は髪型をいつものポニーテールからハーフアップに変えてみた。斎藤に可愛いと言われ、思わず下半身が膨らんできてしまうのをそっと手で押さえた。


 授業が終わり、部活の時間となった。斎藤と付き合い始めてから、遠慮しているのかマネージャー依頼が減ってきた。

 今日も他の部からの依頼はなかったので、斎藤のいるバスケ部の練習を手伝うことにした。


 バスケ部のマネージャーは何回もしているので、何をするのかはだいたい分かっている。作業にも余裕が出るので、その余裕を斎藤を見ることに使うことができる。


 汗をかきながらボールを追う姿、部員に指示を出す姿、シュートを外して悔しがる姿、すべてがカッコいい。

 斎藤が汗を拭いたタオルをクンクンと匂いを嗅ぎたいが、みんなの目があるので我慢。同じタオルを見つけて買ってきて、こっそり入れ替えて家で楽しもうと空想してしまうが、さすがにそれはやり過ぎだろと自分でツッコみを入れた。


 部活が終わった帰り道、斎藤が自転車を押しながら僕の隣を歩いている。とりとめもない、学校の話や漫画の話をしながら駅までの道を一緒に歩いている。


「じゃ、気を付けて帰ってね」

「拓海、いつも送ってくれてありがとうね」

「じゃあな」


 自転車に乗って去って行く斎藤の姿を、見えなくなるまで見送って駅のホームへと向かった。


 駅のホームで電車を待っていると、ホームの柱で死角となっているところで抱き合っているカップルがいた。

 やるなら隠れてやれよと心の中で毒づくが、その一方で羨ましくも思う。僕も斎藤にああやって、人目もはばからずギュッと抱きしめられたい。


 その日の夜、数学の宿題を解いていると、斎藤からメッセージが届いた。他愛もない内容だが、用事もないのに送ってくれることが嬉しく感じる。

 数学の宿題を解き終わり、英語の予習も終え、ようやく自由時間がおとずれた。ベッドに寝ながら、スマホでバスケのネット動画を眺める。

 斎藤の話について行くために、バスケにも興味を持ち始めた。ネット動画でバスケのルールやテクニックについて学んで、日本のBリーグやアメリカのNBAの選手も覚えて、斎藤との会話についていけるようにした。


 動画に夢中になっていると、斎藤から「おやすみ」とメッセージが届いた。時間はもうすぐ日付が変わろうとしていた。斎藤に「おやすみ」と返信して、僕も寝ることにした。


 寝ようと思ったが、今日の帰り駅でみたイチャつくカップルのことを思い出し、斎藤と僕とで同じことをしている妄想を始めたら、むずむずしてきた。


 下半身の自家発電を終え賢者タイムとなり、ふと気づく。おかしい、斎藤の方が僕のことを好きだったはずなのに、気づけば僕の方も斎藤のことを好きになっていた。

 それでも、今が幸せならそれでいいや。明日はどんな髪型にしよう?お団子ヘアなんてどうかな?そんなことを思いながら、眠りについた。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る