第9話 勉強会

 練習試合が終わり片づけを終えた後、勉強するために齋藤たちと近くのファミレスに行くことにした。

 案内された席に4人掛けのテーブルに座り、ドリンクバーを注文した。そして各自ドリンクを注いできて席に戻ると、バッグから課題として数学と英語のノートを取り出した。


「斎藤、数学のプリント見せて」

「これだよ。英語担当は三島だっけ?終わってる?」

「もちろん、昨日のうちに終わらせたよ」


 課題として出されていた数学の演習問題と英語の英作文の課題を、部員たちで分担してやっていたようだ。


「ほら、秋月さんの分はコピー取ってあるよ」

「ありがとう」


 齋藤から渡されたプリントのコピーには、解答とともに「式を変形する」「ここがポイント」などの書き込みもしてあった。


「いつもこんな感じなの?」

「そうだよ。部活で土日がつぶれるから、効率的にしないとな。あっ、でも写しながらでも分からないところは質問して、理解するようにはしてるぞ。そうしないとテストでは解けないからな」

「赤点取ったら補習で部活に行けなくなるからな」


 一人で悩むよりも、分担してやって分からないところは聞いた方が早い。部活に入っていない僕でも大変な課題を、部活生がこなせている理由が分かった。


「どうして、ここは過去形なの?」


 もらったプリントを見ながら英作文を写していると、疑問に感じるところがあり質問してみた。


「仮定法だからな。これ見た方がわかりやすいかな」


 三島がみせてくれた英語のノートには、仮定法の要点がまとめてあった。


「これわかりやすね、ありがとう。写させてもらっていい?」

「写すぐらいなら、コピーしてくるよ」

「ごめん、ありがとう」


 三島は近くのコンビニに行くために席を立った。至れり尽くせりで申し訳なく感じる。数分後、戻ってきた三島からコピーを受け取り、お礼をいうと少し照れくさそう笑った。


「稲葉と一緒に勉強してたけど、あいつのノートこんなに分かりやすく書いてなかったから助かるよ」

「あいつは特別だよ。教科書一度読めばだいたいわかるって言ってたし」


 稲葉は将棋部に生徒会活動と勉強ばかりしているガリ勉タイプでないにもかかわらず、いつも上位の成績をあげている。もって生まれた才能が違うみたいだ。


「俺たち、凡人は凡人なりのやり方をしないとな」


 そう言いながら斎藤たちはノートに課題を写しながら、分からないところは質問して教えあっていた。

 

 翌週の月曜日、1時間目は英語の授業だった。見せてもらった三島のノートを真似しながら、行間を大きく空け板書を写していった。

 そして余白には、先生が口頭で説明した内容を書き込んでいく。ただ板書を写していた今までとは違い、口頭での説明を言語化してノートに書くことで理解が進んでいくのが実感できる。


 色ペンがあったことを思い出すと、「ここが大事」とか「時制の一致」など大事そうなところを色ペンで書いて強調してみた。見た目が華やかになり、あとで見返すのもこれだと楽だ。


 他の教科も同様にノートの取り方を変えると、今までついていけなかった授業も少しはついて行けるようになってきた。

 気分よく午前中の授業を終え、昼休み稲葉と最近始まったアニメの話をしながらお弁当を食べていると、3年生が数名教室に入ってきた。


「バスケ部の赤木に聞いたけど、バスケ部の試合でマネージャーしたんでしょ。今度の土曜うちのサッカー部も試合あるんだけど、マネージャーお願いしていい?」

「日曜は野球部お願いしていいかな?」

「日曜はうちのラグビー部だって試合だ。うちの鈴木は数学得意で教え方も上手いから、ラグビー部の方にきて」


 バスケ部の噂を聞いた他の運動部が、同じようなマネージャーをお願いしに来た。バスケ部でできて、他はできないと断ることもできず引き受けてしまった。


 その後も断続的に他の運動部もマネージャーをお願いしに来て、4月の土日の予定がすべて埋まってしまった。


「これじゃ、アキのスケジュール管理にマネージャが必要だな」


 マネージャー依頼をノートに書き留めている様子をみて、稲葉が茶化してきた。運動部はだいたい一通り来たかなと安心していると、また数名新しく教室に入ってきた。


「美術部だけど、ちょっといいかな?」

「美術部?さすがに美術部にマネージャーはいらないでしょ」

「いや、マネージャーじゃなくてモデルをお願いしたい。椅子に座ってるだけでいいから」

「写真部だけど、うちもモデルをお願いしたい」

 

 お願いされると断れない性格もあり結局全部の依頼を受け入れてしまい、4月の予定が全部埋まってしまった。


「一気に人気者だな。その様子だと、しばらく一緒に帰れないな」


 茶化した冗談を言ってきた稲葉の表情は、すこし寂しげだった。

 

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