第10話 ゴールデンウイーク
朝起きて窓を開けると5月の心地よい風が部屋に入ってきた。5月初めのゴールデンウイーク。連休前に渡された宿題も順調にこなしていって、予定通り昨日終わらせることができた。
4月は毎日のように運動部のマネージャーや文化部の活動に協力していた。その報酬代わりに勉強を教えてもらい、授業の内容もわかるようになってきたので、宿題をスムーズに済ませることができるようになった。
もちろん連休にも各部活からマネージャーの依頼はあったが、連休最終日の今日ぐらいは休みを満喫したいので、無理を言って空けてもらった。
パジャマを脱いで着替え始める。私服のバリエーションは少なく、スカートが2着とトップスも3着しかない。
ボトムはピンクのスカートにして、トップスを袖のレースがかわいい黒のニットにした。
着替えが終わった後メイクもしてリビングに出ると、妹の咲良がソファに寝ころびながらテレビを見ているだけで、父と母の姿はなかった。
「咲良、お父さんとお母さんは?」
「お父さんはゴルフ、お母さんは買いもの」
気だるそうに振り返りながら、咲良が答えた。
「お姉ちゃん、メイクに気合入っているね、デート?」
学校に行くのにメイクは黙認されているとはいえ、学生らしく控えめな感じにしているが、今日は休日ということもあってアイメイクもラメ入りのものにして、リップも艶のあるものにしてみた。
ぱっと見の一瞬で普段との違いを見破った、咲良の観察眼に恐れ入った。やっぱり女子のチェックは厳しい。
「デートじゃないよ、稲葉とゲーセンに行くだけだよ」
「男と二人で出かけるのをデートって言うのよ。頑張っておいで」
「だから、デートじゃないって」
咲良に冷やかされながら家を出た。稲葉とは以前はよくゲーセンに遊びに行っていたが、4月になってからはマネージャーの依頼で予定が埋まってしまい、一緒に行くのは久しぶりだ。
私服のスカートで稲葉に会うのは初めてであることに、行く途中に気づいた。どんな反応をするのか、ちょっと楽しみでもある。
稲葉が対戦型の格闘ゲームをしているところに声をかけた。おそらく先に着いてしまったので、時間つぶしに始めたのだろう。
「お待たせ」
「アキ、遅いぞ。約束より5分過ぎてるじゃないか、それに……」
ゲームの画面には「you lose」の文字が浮かんでいる。稲葉は僕の私服姿を見て動揺したみたいで、調子を崩して負けてしまった。
「負けちゃったね」
「うるさいな。お前が驚かすからだろ。てっきりスカートは制服だけで、普段は今までと同じと思ってたよ」
「そうするとボロが出るから、家でもスカート履いておくようにって妹の咲良に言われたからね。ごめんね遅れて。準備に思ったより、時間かかっちゃった」
すこし照れ気味な稲葉を連れて対戦型のレースゲームへと向かった。このゲームは得意で、ゲームをやらせても上手い稲葉ともいい勝負ができ、いつもこのゲームで、ジュースを賭けて勝負をしている。
ゲームが始まり、稲葉と一進一退のレース展開となった。ゲームを楽しみながらも、今までと違う感覚を感じた。
たしかにゲームは楽しいが、それ以上に稲葉と一緒に遊んでいるのが楽しい。横目でゲームに集中している稲葉の顔がかっこよく見えた。
ゲームは抜きつ抜かれつの接戦の末、僕が勝つことができた。
「最終コーナー、ちょっとブレーキのタイミングがずれた」
悔しがっている稲葉の顔を見るのも、ちょっと嬉しい。
その後ゲームをいくつかしたが、他のゲームでは稲葉に太刀打ちできず負けてしまった。負け続けるのもつまらないので、稲葉がやっている麻雀ゲームを後ろから眺めることにした。
「なんでここでイーピン切るの?ドラ筋だよね?白が先じゃないの?」
「上家がピンズ染めっぽいから、鳴かれて聴牌されるのも嫌だし先に処理した。白は重なればいいし、重ならなくても安パイ候補として使えるからな。今トップだから、無理はせず軽く上がりたい」
自分の手役ばかり考える僕とは違って、稲葉はいろいろ考えながら打っているようだ。事も無げに語る稲葉の表情はちょっと得意げだ。
ゲームを一通り楽しんだところで、休憩も兼ねてゲーセン近くの公園に行き、自販機でジュースを買った後ベンチに腰掛けた。
「奢りで飲むコーラは美味しいな」
「ところで、あの漫画の今週号読んだ?あの展開はないよな?」
「わかる。伏線もなく秘密の奥義とか出されると、ちょっと萎えるよね」
お互い好きな漫画について語り合う。趣味の合う稲葉と一緒に過ごす時間が楽しい。
「明日から、学校だな」
「連休終わっちゃったね」
「もうすぐ中間テストだけど、アキ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。最近、授業分かるようになってきたから、赤点はないと思う」
「それなら良かった。でも二年生になってから、アキ変わったな」
「変わったって。そりゃ、スカート履くようになったからね」
「それもあるけど、性格も変わったよな。明るくなったというか、積極的になったというか。落ち込んでいるアキより、今の方が良いけどな」
たしかに一年生の後半の方は授業について行けずに落ち込み気味だった。今は授業にもついて行けるようになったし、話しかけてくれる人も増えて学校生活が楽しい。
「じゃ、また明日学校でな」
バスで帰る稲葉がバスに乗り込んでいく。手を振って見送った。
稲葉ともう少しでも長く一緒にいたかったと思い、名残惜しく稲葉の乗ったバスが見えなくなるまでバス停に佇んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます