第11話 中間テスト
5月の連休が終わると浮かれた気分を吹き飛ばすかのように、中間テストの日程と試験範囲が発表された。来週の水曜日から、合計9科目が1日3科目ずつ、3日間にわたって行われる。
入学直後は1日3科目なんて楽勝と思っていたが、一つ一つの科目のボリュームが重く一夜漬けでは太刀打ちできない。
計画的にやればいいのだろうけど、それができるなら今スカートを履いていない。
とは言え今年赤点をとると、さすがに留年だろうから真面目にやらないとなと思いながら、試験日程のプリントを眺めていた。
試験のことが頭いっぱいで、いつの間にか前に立っていたバスケ部の斎藤とサッカー部の三苫と野球部の大谷の3人、に声をかけられるまで気づかなかった。
「秋月さん勉強会の予定表作ったから、来週から頑張ろう」
「勉強会?予定表?」
「そう、今週の金曜日から部活がテスト休みになるから、各部で一科目ずつ担当して勉強教えるから」
「いいよ。自分でやるから」
いつもはテスト直前に稲葉に泣きついて教えてもらっていたが、今回は少しは授業を理解できるようになったのでどうにかなるだろうという思いもあった。
「秋月さん去年まで補習の常連だったろ?」
「そうだけど」
「赤点とって補習になってもらっては困るから、俺たちと勉強しよ」
斎藤が言うには、テストが終わると各部ともインターハイ予選が始まる。補習期間中は部活参加禁止になるので、大事な試合にマネージャーがきてもらえないことを恐れているようだ。
「秋月さんに赤点とらせるなって、キャプテン命令だから、やるぞ」
「わかったよ」
一方的に勉強会の予定が組まれてしまい、稲葉と一緒に勉強することができなくなったのが残念だが、各部の好意を素直に受け取ることにした。
金曜日の帰りのショートホームルームが終わると、待ち構えていたかのように野球部員が数名教室にはいってきた。手には英語の教科書とプリントを持っている。
「秋月さん、対策プリント作ってきたから、これテストまでに覚えてね」
渡されたプリントには今回の試験範囲である比較級を使った英語の例文が並んでいた。
「こんなにたくさん覚えられないよ」
「大丈夫。理解しながら読んでいけば覚えられるから。いまから解説するね」
野球部に取り囲まれるように勉強会が始まった。隣りの席に座った野球部で一番英語の成績が良い鈴木が、例文を一つ一つ丁寧に解説してくれる。
「これは、thanじゃなくてtoを使う、例外のパターンだから、多分テストに出ると思うから、しっかり覚えて」
「わかったけど、距離近くない?」
隣の席に座っていた鈴木は、少しずつ距離を縮めてて肩が触れ合う距離まで近づいていた。
「ごめん、いい匂いしたから」
残念な表情を浮かべた鈴木は、すこし距離を空けた。嫌というより、距離感が近いのに違和感があっただけだが、謝られるとこちらも申し訳なる。
鈴木の教え方は上手く、親切だった。マネージャーとして練習試合行ったときも優しく接してくれたし、いい奴なのかもしれない。
野球部なんて陽キャラの集まりで自分とは別世界の人たちと思っていたが、仲間意識が強い分、中に入ってしまえば優しくしてくれて居心地が良い。
他の日も各部持ち回りで勉強会が行われ、どこも親切に教えてくれた。今までにない準備をしてテスト当日を迎えた。
今まではテスト当日は不安な気持ちでいっぱいだったが、今日はむしろ努力した成果を試せると思うと待ち遠しくすらある。
中間テスト最初の科目は、一番苦手な数学。静まり返った教室に先生がテスト用紙を配る音だけが響いている。
試験開始の合図があると一斉に問題用紙をめくり問題を解き始め、コツコツと鉛筆の音が教室中に響き渡った。
数学を教えてもらったバレー部の高橋によると、赤点回避のコツは「獲れるところは確実に獲る」らしい。
定期テストは到達度を計るために、授業中にやった演習問題が必ず出題される。ここを確実に獲れば赤点は回避できるらしい。
まずは計算問題で確実に得点をとるために、慎重に計算をして見返しも行った。これで10点は獲れた。つづいて、基本問題に取り掛かる。
基本例題を何度も繰り返したおかげで、簡単な2つの問題は解けた。これで40点は固い。赤点は回避できたはず。
残る難しめの問題もあきらめずに、部分点を獲りにかかる。問題文の条件を式にしてみて、使えそうな公式を書いてみる。
部分点が何点もらえるかは分からないが、0点ではないはずだ。
「終わりです。鉛筆を置いて、解答用紙を前に回してください」
先生の合図で試験は終わった。今までは空欄が目立つ解答用紙を提出するのは恥ずかしかったが、今回は自信をもって解答用紙を提出することができた。
他の科目もこれまでにない手応えを感じながら、中間テスト9科目を終えることができた。
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