第5話 類は友を呼ぶ
「咲良の友達には、私の事話してるの?」
「うん、話しているよ。バカ兄貴がお姉ちゃんになったから、買い物付き合ってって言ってる」
雑な説明は母親譲りのようだ。よくその雑な説明で友達も納得したなと思いながら、咲良に大人しく後ろをついて歩き、待ち合わせ場所である駅前広場へと向かった。
「咲良、こっちだよ」
咲良の名前を呼ぶ声がした方を振り向くと、咲良と同じ年頃の女の子が二人、手を振っていた。友達を見つけ小走りで近づいていく咲良の後を慌てて追った。
「へえ~、これが咲良のお姉ちゃん?」
「そうだよ。この間までどうしようもなかったけど、少しはまともになったでしょ」
「うん、ぱっと見女の子に見える。咲良、やるね」
バレー部の同級生だという美玖と花梨に、咲良は初めてスカート履いた時の写真を見せている。
その写真と今の僕の姿を何度も見比べている。身内以外の女子からも、女の子に見えるとお墨付きをもらって少し安心した。
咲良もそうだが、美玖も花梨もバレー部というだけあって背が高い。2つ年下の女子中学生というのに、身長163㎝と男子高校生にしては小柄な僕よりも背が高い。
身長だけでなく格好も大人びており、3人に囲まれると一番年下のように感じてしまう。
「女装って言えば、この前後輩にちょっかい出してきた子どうなった?」
「あいつのSNSに女装した写真アップしておいたから、懲りて大人しくしてると思うよ。意外とそっち方面に目覚めたりしちゃってるかも?」
「マジでそうなったら、ウケるね。だいたい、公立中のくせに
「そうだよね、身の程をわきまえろって感じ」
まずは文房具から見ようということになり、駅ビルに入っている西急ハンドの文具コーナーへと向いながら、楽しそうに話しながら歩いている3人の後ろを、黙ってついて行きながら会話を聞いている。
美玖も花梨も咲良と同様、聖心女学園という校名とは真逆の汚れた性格のようだ。
文具コーナーについて、店内に置かれてある色とりどり文具を見て回る。文具なんて今まで通りでも構わないと思っていたが、文具コーナーで実物に触れてみると魅力的に思えてきて欲しくなってしまった。
春休みに入ってからピンクや水色などのパステルカラーの服を着るようになった影響からか、シャーペンや消しゴムもかわいいデザインのを持ちたいと思ってしまう。
「お姉ちゃん、色ペンも買いなよ。お姉ちゃんのノートこの前見たけど、色ペンも使わず真っ黒。あれじゃ、見返した時どこがポイントなのか分からないよ」
咲良がアドバイスをくれた。そういえば、一度咲良のノートを見た時は、色ペンでカラフルに書いてあったのを思い出した。
女子っぽいなとしか思っていなかったが、意外とそれが成績を上げるコツなのかもしれない。
「色ペンだったら、このシリーズがいいよ。ペンだけでなくて、色も普通のより淡くて可愛いよ」
美玖がお勧めの色ペンを持ってきてくれた。そのほか、筆箱やらノートやら結局文具一式を買い替えることになってしまった。
でも何となく今の自分には、こんな文具の方が似合っている気もした。
文具に続いてハンカチやポーチなど学校生活に必要なものを買いそろえたところで、尿意を感じトイレに行きたくなってしまった。
トイレ何も考えてなかったけど、どうしよう。見た目女の子っぽいとはいえ男だから女子トイレに入るのは犯罪だし、でもこの格好で男子トイレに入っていくのは恥ずかしい。
「咲良、トイレ行きたいんだけどどうしたらいい?」
咲良にそっと耳打ちしながら聞いてみた。
「気にせず男子トイレ使いなよ。この前女装させた子も女装させたまま男子トイレ使わせたよ。ドッキリみたいで面白かったな」
「そんな~、変に目立つの嫌だよ」
「冗談よ。多目的トイレ使いなよ。大きな施設だから多分あるでしょ」
そうか、その手があったか。やっぱり、咲良は頼りになる。慌ててトイレへと向かい、多目的トイレで用を済ませた。
用を済ませて三人のもとへと戻ると、花梨が小腹がすいたからパフェを食べに行こうということで話がまとまっていた。
駅中にファミレスに入って、それぞれパフェやケーキなどを注文した。三人が話が盛り上がっている横で一人静かにフォンダンショコラにフォークを入れた。
「あっ、それ美味しそう。一口食べてもいい?」
隣り座っている花梨はこちらが同意するのを待たずに、僕のフォンダンショコラを一口分持っていった。
「美味しい~。このパフェとフォンダンショコラどっちがいいか悩んでたんだよね。両方食べられて良かった。楓も、パフェ一口食べる?」
花梨は自分のスプーンでパフェをすくって、僕の方に近づけてきた。拒否するのも悪い気がしたので、口に入れることにした。
年下の女子から「楓」と呼び捨てで呼ばれてため口で話されても気にしなくなっていた。むしろ、友達扱いされて嬉しくもある。
女の子の楽しさが少しわかり始めた。
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