第4話 初めての外出はドキドキ

 4月に入り満開だった桜もいつの間にか散ってしまっていた。いよいよ明日から新学期が始まる。

 スカートでの生活にもだいぶん慣れてきた。咲良からの電流罰ゲームを受ける回数も少しずつ減ってきた。


 日中スカートで過ごしているため外に遊びに行くこともできず、家で勉強するしかなかったので莫大な量の課題も昨日終わらせることができた。

 今日一日ぐらい家でのんびりして春休みを満喫しようと、ソファでくつろぎながらテレビを見ているところに咲良が近づいてきた。


「お姉ちゃん、今日美容室行くからね。1時に予約しているから、昼ご飯食べたら出かけるからそのつもりでね」

「美容室って、誰の?」

「お姉ちゃんに決まってるじゃない。明日から学校でしょ。伸ばすにしても毛先は揃えてもらった方が良いし、髪の毛もう少し女の子っぽくした方が良いよ。」


 もともと長めだった髪の毛は、2月以降は留年騒ぎで髪を切りに行く暇もなかったので、かなり伸びて後ろの方は肩につきそうな程度まで伸びている。


「でも、スカートで外に出るの恥ずかしいよ」

「何言ってるの!明日からはスカート履いて学校に行くんだよ。その練習も兼ねて行くよ」


 結局、押し切られる感じで初めてのスカート外出が決まってしまった。


 ◇ ◇ ◇


「ほら、恥ずかしがって下向いていると余計目立つよ」


 咲良が背中をかるく叩いてきた。分かってるけど、すれ違う人みんなが自分を見ているような気がして、まっすぐ前を向けない。

 初めてのスカートを履いて外を歩いてみたが、風でスカートが揺れめくれてしまいそうで心配になってしまう。

 緊張して心臓の鼓動が速くなってきている。ドキドキという心臓の音が実際に聞こえてしまいそうだ。


 咲良に教えてもらったように、膝と膝をすり合わせながら平均台を歩くように足を進めていく。家で何度も練習させられた女の子の歩き方だが、大股で歩いていた男子のころに比べてゆっくりにしか歩けないのでもどかしい。


 いつもなら駅まで歩いて10分ちょっとだが、20分近くかかってしまった。明日からは、いつもより早めに家を出ないといけない。咲良に言われたように練習しておいてよかった。

 

 咲良に案内されながら、駅前の雑居ビルの2階にある美容室に入った。いつも行っている格安カットのお店とは違う、華やかで明るい雰囲気の店内に委縮してしまう。


「ほら、お姉ちゃん」


 咲良が肘で小突いてきた。


「予約しておいた、秋葉です」


 受付で名前を告げた。男の声で話すことがすごく恥ずかしく感じる。この姿で生活していくなら、女の子の声を出す練習もした方がよさそうだ。

 恥ずかしがっている僕の姿を見て、妹はニヤついていた。女の子事を教えてくれて感謝はしたが、やはり真正のサディストには違いない。


「今日はどうしますか?」

「全てお任せするのでかわいい女の子に見えるように、お願いします」


 咲良に指示されたように女性の美容師さんにオーダーしたが、鏡に映る自分の顔が真っ赤になるぐらい恥ずかしい。でも言わないと、外出時でも外すことが許されなかった電流ショックが襲ってくる。


「この髪の長さだと、ショートボブにしておでこを隠した方が女の子っぽく見えるんで、そんな感じでいいですか?」

「お任せします」


 髪型が決まると美容師さんがカットを始めた。髪のカットが進むにつれて、女の子っぽくなっていくのが分かる。その分男としての何かが失われていくような気がして、少し寂しさも感じる。


「あと眉毛も少し整えていいですか?」


 生えっぱなしだった眉毛も、女の子に見えるようにカットしてもらうと、ますます女の子に近づいていった。


「こんな感じでいかがですか?」


 カットが終わり、美容師さんが出来上がりを確認してきた。鏡にはちょっとかわいめの女の子の顔が映っていた。

 アイドル並みにかわいい咲良と同じ遺伝子をもっているので、もともとその素質はあったところにプロの技術が加わって、だいぶん女の子っぽい印象になった。


「お姉ちゃん、かわいいじゃん」


 思わず鏡に映る自分の姿に見惚れているところに、いつの間にか近づいていた咲良に声をかけらえて我に返った。


「女の子に見えるかな?」

「見える、見える」


 咲良から言われるとちょっと安心する。これで明日から学校に行けそうだ。満足している様子にカットを担当した美容師さんも満足そうな笑みを浮かべていた。


 会計をすませて、美容室を出た。待ちゆく人とすれ違っても、少し自信がついたのか最初のころの恥ずかしさはなくなっていた。


「お姉ちゃん、嬉しそうだね」

「そう?でも、可愛くなれるとテンション上がるね」

「お姉ちゃんも女の子になってきたね。あっ、電話かかってきた、お姉ちゃんちょっと待ってて」


 咲良が電話で話し始めた。話し方からすると、同級生のようだ。


「うん、ちょうど今おわったところ。どこ、いるの?うん、わかった、すぐ行くね」


 咲良はこの後同級生と遊ぶ約束をしていたようだ。なら、一人で帰るとするか。


「咲良、友達と待ち合わせがあるの?じゃ、先に帰ってるね」


 通話を終えた咲良に話しかけた。


「お姉ちゃんも一緒に行くよ。明日から学校行くのに、文房具とか必要でしょ」

「ノートとかシャーペンとか持ってるよ」

「それって男物でしょ。女の子になったんだから、可愛いの持たないと。細部までこだわらないと、ボロが出るよ」


 またしても咲良に押し切られる感じで、買い物が決まってしまった。しかも、咲良の友達と一緒に。どうなるの、僕。

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