第6話 初登校でバレた
いよいよ今日から女子高生生活が始まる。いつもより早めに起きて、朝ごはんを済ませた後制服に着替えた。
今までとは合わせが逆のブラウスを着てリボンを付け、スカートを履いてブレザーを羽織る。鏡で自分の姿を確認してみるが、昨日髪を切ったこともあり違和感なく女子高生になれていると思う。
「お姉ちゃん、良い感じだよ。頑張っておいで」
「楓、せっかく2年生にしてもらったんだから、勉強頑張るのよ」
二人に見送られて家を出た。昨日外出してバレずに無事に過ごせたこともあり、家を出ても昨日ほどの緊張はない。
緊張して歩き方が変になる方がバレやすいので、自然な感じで歩くことを心がながら駅へと向かう。
誰からも男だと気づかれることなく、電車に乗り込むことができひとまず安心した。車内は通勤、通学の時間帯ということもあり混みあっていた。座ることはできず、窓際に立ち鞄から単語帳を取り出した。
「あの制服みたことないけど、どこかな?」
単語帳を読んでいると、後ろにいる他校の女子高生の会話が聞こえてきた。盗み聞ぎするつもりはないが、女子高生の声が大きく聞こえてしまう。
「あのブレザーって光林館だよね。リボンの柄も同じだし」
「でも光林館って男子校だよね。なんで、女子がいるの?」
「ひょっとして、LGBTってやつじゃない?男子だけど心は女子ってやつ」
「そしたら、あれって男子。男子なのにスカート履いてるの?キモッ」
女子高生らしい遠慮ない会話が聞こえてくる。見た目ではバレないと思ったが、思わぬところから男であることがバレてしまった。
逃げ出したい気持ちだが、混みあっている車内では移動もままならない。女子高生の嘲三笑う会話に耐え、早く電車が駅に着くことを祈った。
逃げるように電車を降り、学校につくと教室へとは向かわず職員室へと向かった。いきなりスカートの姿で教室に行くと、他の生徒が混乱するということで今日は先生が説明した後教室に入ることになっている。
「おはようございます」
職員室の真ん中付近に座っている村中先生のもとへ行き、挨拶をした。
「秋月さん、おはよ。制服、似合ってるよ」
お世辞かもしれないが、きれいな村中先生に褒められて嬉しい。春休みの課題を鞄から取り出し、先生に提出すると、先生は受け取った後僕の顔をじっと見た。
「秋月さん、ファンデーション塗ってる?」
「すみません、髭痕がどうしても気になって。やっぱりメイクは禁止でした?」
「いや、大丈夫よ。男子校だからメイク禁止って校則はないよ。そうだ、ちょっと待ってて」
そう言って先生は鞄から化粧ポーチを取り出した。そして、取り出したメイク用品を使って、頬にチークを塗ってアイラインを引いてくれ、最後にリップも塗ってくれた。
メイクが終わった後、先生が手鏡を渡してくれた。メイクは不思議だ。ほんのちょっとチークを入れただけで血色のよい肌色になり、リップで唇の色が明るくなると女の子らしく見える。
「メイクするならキチンとした方がいいね。やっぱり、女の子は可愛くないとね。そのリップ、新品だけど進級のお祝いということでプレゼントするから、明日からもメイクしておいで」
「校則がないとはいえ、メイクしてきていいんですか?」
「いいんじゃない?高校卒業したらメイクするのがマナーになるんだから、今のうちに慣れておかないと」
「高校卒業したらって、女の子になるの高校の間だけですよね?」
「まあ、そうだけど、そうなるといいね。さあ、教室に行きましょ」
不敵な笑みを浮かべた先生の後について、すでに生徒は教室に入っているため無人の廊下を歩いて教室へと向かう。
2年1組の教室の前につくと、先に先生が教室に入り生徒に説明を始めた。数分後、先生が教室のドアを開け手招きしたので教室に入ることにした。
教室に入り先生に促されて、みんなが一斉に自分の方を見ているなか挨拶をすることになった。
「今日から女の子になった、秋月楓です。よろしくお願いします。ずっと前から女の子になりたかったですが、夢がかなって嬉しいです」
スカートを少しつまみながら上げて、スカートを履いていることを強調した。
「ウォー、ついに我がクラスにも女の子が!」
「しかも、かわいい!」
自己紹介の挨拶を終えると、クラス中から歓喜の雄たけびが上がった。みんな男子校に入学して1年間、女子と接することがない学生生活を送っていたので、女子に飢えていたみたいで、偽物の女子高生の僕でも素直に受け入れてくれたみたいだ。
歓迎ムードの中、自分の席に座った。「秋月」なので出席番号は1番で、一番前の席にスカートがしわにならないようにお尻に手を添えながら座った。
「今年も同じクラスだな」
「そうだね」
後ろの席にいる稲葉が声をかけてきた。「秋月」と「稲葉」。1年の時と同じ出席番号1番と2番。昨年席の前後ということで話している間に、自然と稲葉とは仲良くなった。
始業式が終わり、今日は午前中で学校が終わる。部活がある生徒は学食へと向かっていったが、成績不良で部活に入る余裕もない僕は家に帰ることにした。
「ちょっといいか?」
「稲葉、将棋部は今日はいいのか?」
「少しぐらい遅れても大丈夫。それよりちょっと話がある」
2人きりで話そうという稲葉の後をついて非常階段へとむかった。ここはあまり人がおらず、二人きりで話すにはちょうどいい。
「なあ、アキ、『女の子になりたかった』って嘘だろ」
「そうじゃないよ。昔から女の子になりたかったんだ。それで先生に相談したら、スカート履いてもいいって言われて、女子高生として学校生活送ることにしたんだ」
親友の稲葉と言えども、進級の条件に女子高生になったとは言えない。というか逆に、親友だからこそそんな恥ずかしいことを明かしたくない。
「だったら、お前と理想の彼女について語り合ったのは演技だったというのか?」
「そうだよ、話を合わせていただけだよ」
「俺は巨乳派で、お前は貧乳こそ最高と言い、『手で小さい胸を隠しながら、こっち見ないで』というシチュエーションがそそるって言っていたのも嘘なのか?」
稲葉とは仲良すぎて、遠慮なく下ネタトークをしていたのが裏目に出ているようだ。さらに稲葉は言葉をつづけた。
「彼女に着けて欲しい下着は何色がいいかで語り合ったのも嘘なのか?『紫こそ至高』と熱く語る姿は演技だったのか?」
「やっぱり、稲葉の目は誤魔化せないな」
観念して、女子高生になった経緯を稲葉に話した。
「そうか、進級と引き換えにか……」
「だから、みんなには黙っておいてね。今日見た感じだと、他のみんなは気づいていないようだから」
「わかったよ」
初日から稲葉にはバレてしまったが、口止めには成功した。こうして僕の女子高生生活が始まった。
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