第30話 最終回
「それで、拓海ったらせっかくアイシャドウ変えたのに気付いてくれないのよ」
怒りながら美波がフライドポテトを口に入れた。
「わかる~。部活の時とかは相手の動きとか細かく見てるのに、拓海彼女のことになると意外と鈍いもんね」
僕も相槌を打ちながら、ポテトチップスをかじった。
「そうそう」
「この前なんて、気を利かせたつもりなのか『バック持とうか』って言ってきたけど、こっちはバック込みでコーデしてるんだから、バック持たれたらコーデ台無し」
「わかる、わかる。拓海ってそういうところあるよね」
カラオケ店の個室で、美波と二人ポテトチップスを食べながら拓海の愚痴を言い合っている。
「せっかく、カラオケ来たんだから1曲歌おうよ」
「いいね。何にする」
「これなんかどう?」
僕がうなずいたのを見て、美波が最近流行りのアイドルグループの曲を選び送信ボタンを押した。
「楓、歌うまいね」
「ありがとう。いつもお風呂で練習してるからね」
女声を出す練習もかねてお風呂に入っているときに歌っているうちに、自然と歌も上手くなってきた。
美波とはすっかり仲良くなって、斎藤なしでも二人で会うようになった。今日も冬休み最後の日ということで、二人でカラオケに来ていた。
斎藤はこのあと部活が終わってから合流する予定だ。
初戦偽物の女の子の僕は最終的に斎藤を幸せにできないので、美波との関係も続けていたほうが斎藤のためだと思い二人との共存関係の道を選んだ。
積極的すぎる美波を僕が止める苦労も知らず、斎藤は「二人から愛されて俺ってモテモテだな」とのんきにしている。
まあ、そんなポジティブ思考なところが斎藤の魅力といえば魅力でもある。
「今日で冬休みも終わりか~」
「そうだね」
「うちの学校、冬休み明け早々に模試があるから、このあと勉強しないといけないから憂鬱」
「うちもだよ」
美波の高校もそれなりの進学校で、美波の成績も悪くはないようだ。大学は斎藤と同じところに行きたいと言っていた。
一方僕はというと、少しは勉強についていけるようになったとはいえ斎藤とは偏差値でいうと10は離れている。
同じ大学には行けそうにもない。
美波のスマホからメッセージの着信音が鳴った。
「あっ、拓海からだ。今から学校出るって」
「じゃ、それそろ出ようか」
カラオケ店をでて、拓海と待ち合わせしているゲームセンター向かいはじめた。
その途中に化粧品のポスターを見て、美波が思い出したかのように言った。
「そうそう聞きたかったんだけど、そのアイメイクってどうしてるの?私、目が小さいのが嫌でアイメイクでどうにかしたいけど、うまくできないの」
美波にアイメイクのコツを教えた。
「そうやるんだ。でも、目のキワまでメイクするのって怖くない?」
「慣れれば大丈夫だよ」
「そうなんだ。実はね、私、楓のこと尊敬、リスペクトしてるんだ」
「尊敬!?」
「楓、男子だけど、私よりかわいくて、服のセンスもいいし、メイクも上手くて、仕草も女の子らしいし」
美波から面等向かって褒められると、照れてしまう。どう反応していいかわからず黙ってしまった僕にお構いなく美波は話を続けた。
「楓を見て、かわいいって作れるだなって思ったの。部活ばっかりやってて筋肉質でがさつで、かわいくなるの無理って諦めてたけど、努力すればかわいくなれるだなってわかった」
「そんなに褒めなくていいよ」
「えっ、何の話?二人で盛り上がってるの」
いつの間にか近くにいた斎藤が二人の話に加わってきた。
「拓海には内緒」
美波が小悪魔な笑みを浮かべた。それをみた斎藤が「いじわる」と言いながら小突いていた。
ほほえましいカップルの光景を見ながら、僕は美波の言葉を思い出していた。
翌日、学校の最寄り駅で電車を降り改札を抜けたところで、声を掛けられた。
「秋月先輩、おはようございます」
僕と同じ制服を身にまとった小柄な生徒が挨拶してくれた。
「私、一年生の小林といいます。ずっと女の子に成りたかったんですけど、親にカミングアウトする勇気がなくて。でも、先輩をみて勇気をもらえました」
小林さんは一緒に学校に向かいながら、僕のことをずっと褒めてくれた。
あの~、君が思っているほど僕は立派じゃなくて、成績不良で仕方なく女の子に成っただけなんだよ。
まあ嘘も方便というから、それで誰かの役に立てているなら、それでいいけど。
「どうしました?先輩」
「なんでもない、それより小林さん、歩くとき肘を体に近づけて、真後ろに向けたほうが女の子らしいよ」
「はい」
小林さんの笑顔がまぶしかった。
ファーストペンギン 葉っぱふみフミ @humihumi1234
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