第14話 テレビ取材
学校から帰って自宅の玄関のドアを開けると、妹の咲良が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、遅いよ。もうすぐ始まっちゃうよ」
咲良に手を引っ張っられて、リビングに入ると、テレビにはこの前取材を受けたニュース番組が流れていた。
学校のPRが目的ということもあり取材には応じたが、恥ずかしいから番組の放送は見ないつもりだったし、当然家族にも取材のことは伝えてなかった。
しかし学校での取材を終えると、テレビ局のディレクターが家族にも話を聞きたいと言い出し、自宅での様子も撮影され母と咲良がインタビューに答えていた。そのときに咲良は放送日をディレクターから聞き出ていた。
番組ではアナウンサーがLBGTについて軽く説明したところで、VTRが流れ始めた。
「伝統の男子校で知られる光林館高校ですが、この春からスカートで通学する生徒がいるということで取材に着ました」
女子アナがマイク片手に、学校の正門をくぐって校舎内に入っていった。見慣れた校舎もテレビ画面を通じてみると、新鮮に感じる。
後ろ姿しか映っていないが、僕と同級生が一緒に廊下を歩く映像が流れている。周りはみんな男子ばかりの中、一人だけスカートで歩く僕の姿は印象的だ。
テレビではナレーションで、心と体の性の不一致になやむAさんとして僕のことが紹介されている。
画面は切り替わり、スーツ姿の女性の姿が画面に映った。顔にモザイクは入っているが、知っている人には雰囲気から村中先生だとわかる。
「当校では5年前からLGBTの生徒に配慮してスカートの制服を導入していましたが、抵抗があるのか今まで着てくる生徒はいませんでした。トランスジェンダーの割合を考えると学年に数名いるはずですが、その子たちは周りを気にして本当の自分を隠して苦しんでいたと思います。そんな中、Aさんは勇気のある一歩を踏み出してくれたと思います。彼いや彼女がファーストペンギンとなって、他の生徒もスカート履いて学校にきてくれることを期待しています」
先生のインタビューに続いて、僕の自宅へと画面は切り替わった。咲良はいよいよ自分が映ると、テレビを前のめりで観ている。
女の子っぽくなった僕の部屋の机に座り勉強している私服姿の僕が映り、「自宅でもスカートを履いています」とナレーションがついている。
「初めは驚いたけど、本人がそうしたいなら応援しないと思いました」
「明るくなって活き活きとしている姿をみると、お姉ちゃんになって良かったなと思います」
母と咲良がインタビューに答える映像が流れた。咲良はキャーキャーと叫んでいる。そのあとテレビはまとめのようにLGBTを取り巻く現状の解説に移って、僕の出演部分は終わった。
「顔出しOKって言ってたのに、モザイクかかってたね。せっかく髪セットしたのに。これをきっかけに芸能界からスカウトくるかなって期待してたのに残念」
咲良は不満げな表情をしながら、晩御飯のトンカツの衣をはがしている。
「咲良が顔出しすると、僕のこともバレるじゃん」
「でもそんなの、学校でスカート履いてるの一人だけなんだから、すぐに制服でバレるよ」
言われてみれば、そうだ。前も光林館高校のブレザーで男だとバレたことがあった。
「まあ、いいんじゃない。悪いことしてるわけじゃないんだから、堂々としてなよ」
咲良は僕を励ましてくれ後、衣をはいだトンカツに塩をつけて口に入れた。
まあ、確かに悪いことしているわけじゃないし、男とバレたところで何か問題があるわけでもない。最初は男バレると恥ずかしかったが、恥ずかしがることでもないと最近は割り切れるようになった。
土曜日はバレー部のマネージャーの依頼が入っていた。インターハイ出場がかかった大事な試合らしい。
会場である市民体育館に向かうバスは混雑しており、鞄を抱えてつり革につかまって立っていた。先日のテレビの影響は絶大で、他の乗客が僕の方をチラチラ見ているのに気付く。
「ほら、この前テレビに出てた子」
「本当にスカート履いてるだね。でも、意外と似合ってない?」
「うん、そうだね。違和感ないよね。普通の女子高生に見える」
そんなヒソヒソ話が耳に入ってくる。見ず知らずの他人に男であることがバレても、気にしなくなった。
「秋月さん、鞄重くない?持とうか?」
バレー部の同級生、清水がこちらの返事も待たずに僕の鞄に手をかけた。好意は素直に受け取ることにして、鞄を渡した。
男だと知っていても、僕に親切にしてくれる仲間がいる。そう分かってからは、男とバレてもあまり気にしなくなってきた。
試合の方は一進一退の接戦が続いていた。僕はベンチにいる部員に言われるがままにスコアシートを記入したり、タイムアウトの時にタオルやドリンクを渡したりと、マネージャーっぽいことをしていた。
マッチポイントとなったところで3年生の湯川先輩のアタックが決まり、インターハイ出場が決まった。コート上ではみんなガッツポーズしたり、飛び跳ねたりと勝利の喜び表している。
そんな様子をみて、ほとんど何もしていない僕も嬉しくなってくる。先週、バスケ部のマネージャーに行ったときは負けてしまい、泣いて悔しがる3年生の姿をみて思わずこちらも泣いてしまった。
いろんな部で一喜一憂して感動を共有できるので、マネージャーも楽しい。
試合後、ロッカールームでミーティングが始まった。顧問の先生が、反省点やインターハイにむけての改善点を話している。
「今日の結果に満足せずに、これからも頑張っていくぞ」
「はい!」
「もうすぐ期末テストが始まるけど、補習になったらインターハイも行けなくなるからみんな勉強も頑張るように。とくに湯川。去年赤点6つもとって、進級ヤバかったんだったんだから気を付けるように」
一斉に笑い声があがった。そこでミーティングが終わった。湯川先輩も僕と同じように赤点ばかりだったんだと思うと、急に身近に感じる。
でも赤点5つ以上で留年って決まりじゃなかったかな?それで特別に進級させてもらえるのと引き換えに、スカート履くことになったのに。
湯川先輩の場合バレー部で活躍しているから、同じように特例だったのかな。多分、そうだろ。と一人で考えて、納得することにした。
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