第15話  セーラー服とサイダー

「セーラー服かわいい!」


 朝学校に行く前にリビングに出ると、咲良が夏服のセーラー服をみて褒めてくれた。夏服は従来から半袖シャツもあるが、今年から新しくセーラータイプも作ったということで、試作品をモニターを兼ねて昨日もらったので早速着てみた。


 夏らしく白地の生地に、襟がスカートと同じチェック柄になっているのが、可愛くて僕も気に入っている。

 今までのリボンを付けるため第一ボタンまで留める必要のあった半袖シャツと違い、首元に少し余裕ができるので涼しくて楽でいい。


「でしょ、私も可愛いと思ったけど、やっぱり可愛いよね」

「冬がブレザーで、夏がセーラーって良いところどりだね」

「勇気出して女の子になるんだから、女の子をいっぱい楽しんで欲しいから作ってみたって、先生言ってた」

「お姉ちゃんも、女の子楽しんでるね。最初あんなに恥ずかしがってたのが嘘みたい」


 もともと女の子になりたかったわけではないが、実際女の子になってみると楽しいことばかりだ。みんなは優しくしてくれるし、制服にしても味気ないネクタイよりもリボンの方が可愛いし、セーラー服はもっとかわいい。


 学校について教室に入ると僕のセーラー服をみて、教室のクラスメイトがざわつき始めた。


「この学校に来て、セーラー服が拝めるとは思わなかった」

「やっぱり、青春はセーラー服だよな」


 クラスメイトが口々に僕のセーラー服について話している声が聞こえてくる。おおむね好評価のようだ。

 僕の後ろの席に座っている稲葉は、いつも通り詰将棋の本を読んでいて、僕のセーラー服をまだ見ていない。


「稲葉、おはよ」

「お、おはよ」


 稲葉は他のクラスメイト違い、素っ気ない感じの挨拶を返した。でも、挨拶を返すまでの一瞬の間があることから、セーラー服に驚いたようだ。

 その後も詰将棋の本を見ながらもチラチラこちらを見ているので、稲葉もセーラー服は気になっているようだ。

 稲葉に「可愛い」って褒められることを期待していたのでちょっと残念であるが、気になってくれているならOKということにしておこう。


「皆さん、おはようございます」


 村中先生が教室に入ってきた。長身でスリムな体形に、涼し気な水色のブラウスに、黒のロングタイトスカートが似合っている。


「秋月さん、早速セーラー服着てくれたのね。似合ってるよ」


 綺麗な先生に褒められると、ちょっと嬉しい。


 昼休み、僕がお弁当を食べ終わるのを待っていたかのように斎藤がジュースを飲みに行かないかと誘ってきた。

 誘いに応じて、ジュースを買いに行くために廊下を斎藤と並んで歩く。僕のセーラー服が周囲から注目を集めるが、みんなに見てもらえるのが嬉しく感じる。


 みんなから嫉妬の視線を向けられる斎藤はちょっと誇らしげだ。会談に差し掛かったところで、斎藤が手を伸ばして僕の手を握ってきた。

 一瞬驚いたが、あまり抵抗なく受け入れることができた。二人並んであるくならむしろ手を握っていた方が自然とすら思える。


「いつも奢ってもらって悪いね」

「いいいから、気にするな」

「ありがとう」


 いつものように斎藤が混雑する売店に突入して、買ってきたくれた瓶入りのサイダーを受け取った。身長の高い斎藤を見上げ、視線を合わせてお礼をいうと斎藤が照れていた。

 普段クールでカッコいい斎藤が照れる姿はちょっとかわいい。


 中庭のベンチに腰掛けて、サイダーを飲み始めた。梅雨時期の蒸し暑い日に飲む、キンキンに冷えたサイダーはたまらなく美味しい。

 横に座っている斎藤は、三年生が引退したバスケ部の新チームのキャプテンになったことを嬉しそうに話している。


「もうすぐ期末テストだから、頑張らないとな。新キャプテンが補習で部活に出られないってなったら恥ずかしい」

「そういえば、うちの学校って、赤点5つで留年だったよね」

「そうだよ、赤点3つで部活停止で補習、赤点5つで留年ってことにはなっている。一応はな」

「一応!?」

「赤点5つで即留年が決まるんじゃないらしい。ちゃんと授業に出ていて、課題も提出していれば、お情けで進級させてもらえるらしい。バスケ部の先輩も一年生の時に赤点6つだったけど、補習と課題提出で進級させてもらって言ってた」

「そうなんだ」


 赤点6つ。僕と同じだ。特例で進級させてもらえる代わりにスカート履くことになったのに、本当は必要なかったってこと?


「まあ考えてみれば、当たり前だよな。授業真面目に受けて宿題まできちんとやってるのに、赤点ってことは留年してもう一年やったところで無理だよな。だったら、とっとと卒業させてしまった方が学校としてはいいよな」

「まあ、そうだね……」

「でも、秋月さん、この前赤点なかったんだろ?」

「うん、おかげさまで」

「じゃ、心配しなくていいじゃん。今度の期末もうちらに任せておけって」


 飲み終えたサイダーの瓶を売店に戻してくると去って行った斎藤の後ろ姿を見ながら、スカート履く必要はなかったかもしれないが、スカートを履くことで得られたものも多い、むしろスカート履けるようになって良かったのかもと思った。




 

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