第19話 夏休み
梅雨明け宣言とともに夏休みがやってきた。とは言っても進学校、質も量もボリューム満点の宿題が各教科から出されているので遊んでばかりはいられない。
また夏休み明けすぐに模試が控えており、その結果は進級には響かないが今後の大学受験を考えるとおざなりにはできない。
授業に全くついていけなかった去年までは、数学のプリント1枚を終わらせるのに朝から晩まで一日がかりだったが、授業について行けるようになった今では1~2時間で終わらせることができるようになった。
英語など他の科目も同様で、1日2~3時間勉強していれば宿題も終わりそうだ。
おかげで去年よりは、ちょっぴり夏休みを楽しむ余裕ができている。
この日はセミの鳴き声がうるさい中、学校に向かっていた。バスケ部の斎藤から試合ではないけどマネージャーをお願いされていた。
新キャプテンになって張り切っている斎藤から、夏の暑さでだれ気味な部員の士気をあげたいと懇願された。
まあ、宿題も順調にこなせるようになったし、斎藤にはいつもジュース奢ってもらっているし、夏休みの思い出にと思って応じることにした。
学校につくと更衣室に入り、制服を脱いで着替えることにした。さすがに夏の体育館に制服のままでいるのは暑すぎる。でも、体操服は色気がなさすぎる。
悩んだ末、上はTシャツを着て、下はランニングスカート略してランスカと呼ばれる女性のランニングウェアを7分丈のタイツの上に重ね履きすることにした。
更衣室から出て体育館に入ると、練習に向けて準備体操中の部員が一斉にこちらをむいた。「かわいい」「制服より色気がある」などと小声で話し合う声が聞こえてきた。おおむね好評のようだ。
「今日はありがとうね」
斎藤が準備運動の手をとめて、挨拶してくれた。
「これ、作ってきたから、練習の合間に食べてね」
マネージャーとして少しでも役に立ちたいと思い、疲労回復に役立ちそうなものを差し入れたいと思いレモンの蜂蜜漬けを昨日仕込んできた。
「みんな、秋月さんから差し入れがあるぞ」
斎藤の声に部員みんなが反応して、準備運動をやめてこちらへと走ってきた。
「うまっ!これで練習乗り切れる」
「こら、一人一枚だぞ」
練習前だというのに、我先にとみんな取り合うように早速食べ始めた。みんなが喜んで食べてくれるのを見て、作ってきて良かったなと思う。
練習が始まりボールを渡したり、シュートフォームのビデオ撮影を手伝ったりとマネージャーらしい仕事をこなしていた。
夏の体育館は蒸し風呂のように暑く、すぐに汗がでてくる。首に巻いてあるタオルで化粧が崩れないようにふき取る。
練習の合間に部員がこちらを横目で見ている。汗で透けて見える下着が気になるようだ。あえて白のTシャツに、水色のブラジャーと透ける組み合わせにしたのは、練習で頑張る部員へのちょっとしたサービスだ。
それに相手はバレないようにと横目でチラッと見ているつもりだが、こちらにはバレバレなのが見ていて面白い。
「パスコースを塞いで、簡単にパスを通さない!」
実戦形式の練習が始まり斎藤が部員に細かく指示を出している。教室ではチャラい印象のある斎藤が、キビキビと部員に指示をだしている様子を見ると、そのギャップに惹かれてしまう。
頻繁にジュースを奢ってくれるし、今日も斎藤の方からお願いされた。ひょっとして、斎藤は僕に気があるのかも?いや、でも斎藤はカッコいいし、普通にモテそうで他の学校に彼女がいそうだ。
期待すると裏切られたときのショックが大きい。でも、ちょっぴり期待もしてしまう。
「今日はありがとうね」
練習が終わり、斎藤がさわやかな笑顔でお礼を言ってくれた。
「練習見てるのも楽しかったし、また呼んでね」
「えっ、いいの?それだったら、来週も来てくれる?」
「いいよ」
また来週も斎藤に会える。そう思うと胸が弾んだ。稲葉も好きだが、夏休みに入って稲葉から連絡がない。こちらから誘っても、忙しいからと断られてしまっていた。
稲葉の事は諦めたわけではないが、斎藤がもしも僕の事好きならそうなっても良いと思えてきた。
部活を終え家に戻ると昼過ぎになっていた。お昼ご飯に素麺でも食べようと、お湯を沸かし始めたところで、部活が終わった咲良が帰ってきた。
「お姉ちゃん、素麺ゆでるなら私の分も」
「わかったよ」
素麵だけでは味気ないので豚肉も一緒に茹で冷水で冷やした後に、昨日の夕ご飯の残りのなすとみょうがの揚げびたしも一緒に添えて、麺つゆをかけた。
出来上がったタイミングで着替え終わった咲良がリビングに戻ってきた。
「咲良、ちょうどできたところだよ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
二人で素麺を食べ始めた。
「うん?お姉ちゃんの分に、素麺じゃないのが入ってるけど、それ何?」
「これ、白滝。素麺って意外とカロリー高いから」
「やっぱり体重気になるんだ。毎朝、ウォーキングも始めたでしょ。やっぱりお姉ちゃんも女の子なんだね」
咲良がからかうように言った。稲葉に会えないのなら、逆に会えない間かわいくなって、夏休み明けに驚かそうと思って、食事のカロリーにも気を配っている。
素麺を食べ終わって、片付けを始めた時にスマホにメッセージの着信音が鳴った。メッセージを開いてみると、稲葉からだった。その内容に思わず表情が緩んだ。
「何、ニヤついているの?」
「いや、なんでもないよ」
「その顔で、そんなわけないでしょ。その表情からすると、稲葉さんからデートに誘われたんでしょ?」
咲良の勘が良いのか、僕が単純なのか、咲良の前では隠し事はできない。
「そうだよ。夏祭り一緒に行こうとって誘われた」
「へえ~、よかったね。じゃ、ダイエット頑張らないとね」
夏祭りまであと2週間、もうちょっと痩せて、可愛くなって稲葉を驚かせたい。
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