第9話 男の子となんてまともに話もできないし
「それじゃあテスト上映してみますから中に入ってください」
「お、待ってました。ワクワクするなぁ」
佐和が懐中電灯で照らしながら直径六メートルほどのドームの中へと案内する。
中央に置かれたプラネタリウムを挟むように向かい合って座った。
「まずライトを消しますね」
懐中電灯のスイッチを押すと完全な暗闇が訪れた。
「うわっ!真っ暗!何にも見えない!」
次の瞬間、パッと星たちが映し出された。
「おっ、おおーっ!すごいなー!」
宙が感嘆の声を上げる。
その声に佐和は自然と笑顔になった。
宙は暫くの間見とれていたが、「あ!」と何かに気がついたように叫ぶと床に大の字に寝転がった。
「富永さん、座って見るより寝転がった方がよく見えるよ」
「え、そ、そうなんですか?」
ゴロンと横になり、投影された星を見上げる。
「ふわぁー、キレイ。スゴい。これだと身体も楽だし、星もたくさん見えるし。藤村くん天才です!」
興奮気味にまくしたてる。
「やっぱり私、星が好きなんだなぁ」
「あぁ、いいもんだな。俺は毎日サッカーボールばかり見てたけど、たまには空を見上げるようにするよ。俺の名前は宙《そら》だしね」
「あ、そっか。宇宙の宙ですもんね。私ね、中学のクラス替えで名簿を見たときに藤村くんの『宙』って文字を発見して密かにテンション上がってたんです。『あ!宇宙の宙だ!』って」
嬉しそうに懐かしそうに話す佐和とは対照的に宙は少し気まずそうな表情を浮かべた。
「あのさ、それなんだけど……」
「え?どうかしました?」
暗闇の中で宙が上半身を起こす。
「俺さ、先週まで富永さんのことよく知らなかったんだ。同じクラスにいたことも、中学の時に同じクラスだったことも。だからゴメン」
ペコリと頭を下げた。
「えっ?あっ!そうなの?そっかぁ……。いや、ほら、私、存在感ないしなるべく目立たないように目立たないようにって生きてきたし、地味だし、人と話すの苦手だし、この歳になっても男の子となんてまともに話もできないし……。私のこと知らない人なんて他にもきっといると思うし、だから藤村くんが謝る必要なんてないですからね!」
それを聞いた宙の肩が小刻みに震えだした。
「くっくっくっ」
「どうかしました?何かおかしいですか?」
「だってさー『男の子とまともに話出来ない』って言いながらこんなにベラベラ話してるんだぜ。じゃあ俺は男じゃないんだなって」
「あれっ?本当だ。なんでだろう?」
「ま、なんでもいいけどね」
「……うん、そうですね」
ふたりは再びゴロンと床に寝転がった。
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