第8話 第二音楽室
天文部が会場として使用するのは、通称「におん」と呼ばれる第二音楽室。普段は主に管弦楽部が使っているが、文化祭では毎年吹奏楽部が体育館、管弦楽部が第一音楽室を使用することになっている。
荷物の搬入を終えると二人は早速設営に取り掛かった。
まずは音楽室の窓に暗幕を取り付け、外からの明かりをカットする必要がある。プラネタリウム投影はこのあと設置するドームテントの中で行うが、しっかりとした暗闇を作ることでクオリティも非日常感も高まるのだ。脚立に登り、養生テープを使ってしっかりと暗幕で窓を塞いでゆく。
「ヨッと!」
右端の窓を暗幕で塞ぐと、宙は脚立からひらりと飛び降り大きく息をついた。
「それじゃあ試しに電気消しますね」
佐和がドアの横にあるスイッチを押すと第二音楽室に暗闇が広がる。
「おぉ、真っ暗だ!
パチッという音で再び部屋に明かりが灯る。驚いたような宙とは対照的に佐和はしてやったりという顔で微笑んでいた。
「次はドームを組み立てます。この中でプラネタリウムを上映するんです」
入口近くに置かれた荷物の中から大きな収納袋を取り出すと、両手で抱えるように底を持ちひっくり返してブンブンと上下に揺する。すると中からズズッズズッとビニール素材のテントがずり落ちてきた。直径6メートルの巨大テント。これは数年前にリサイクルショップの店頭で格安で売られていたものを当時の部員が顧問の教師に相談して買ったものらしい。何箇所も破れていてテントとしては使い物にならないので格安になっていたのだろう。
床に広げると、次にアルミのポールを伸ばしてゆく。中にゴム紐が入っているのでポキポキと簡単にジョイントすることができ、あっという間に長い棒が現れた。
「それじゃあポールの端っこをそこの袋状の所に差し込んで持っててくれますか?」
「ん。こうでいい?」
「はい。じゃあそのまま持っててくださいね」
そう言うと佐和は反対側の先端を持ち「んー」と力を込めながら同じように差し込もうとするが、真っ直ぐなポールを相当にしならせなければならず非力な彼女の両手はぷるぷる震えるだけで全然差し込むことができない。すると見かねた宙が、
「ちょい待ち。俺がやるよ」
と言って、いとも簡単に差し込んだ。
「藤村くん、スゴイ!」
「いや、普通だろ。ていうか富永さん、これを全部ひとりでやるつもりだったの?」
「はい……」
「無謀というか何というか。なんか意外だなぁ」
「そうですか?」
「見かけによらず根性あるんだなって。ちょっと見直した」
「じゃあ今まではどんなふうに思ってたんですか?」
「え?うーん、いや、よくわかんね。なんか弱いというか、薄いというか、暗いというか、ちっこいというか、そんな感じ」
「……」
「でもキリリとして頑張ってる姿を見たら、なんかいいなぁってね」
宙が呟いた。
「それって褒められてるのかディスられてるのか何とも微妙ですね」
佐和が笑う。
「褒めてるんだよ。安心して」
「ありがとうございます」
宙の言葉に心から微笑んだ。
その後、作業は順調に進み設営は完了。
とその時、校内放送が流れてきた。
『校内の皆さんにお知らせします。台風が近づいて来ており明日にかけて雨風が強くなると予想されています。その為本日は一時間後の午後五時までに生徒は全員下校するようにしてください』
「五時までかぁ。藤村くんが手伝ってくれたおかげで助かりました」
「だろ?富永さんだけだったらきっとまだポールに四苦八苦してたよね」
「そ、そんなこと……ありますね。間違いないです」
「あはは」「うふふ」
二人は顔を見合わせて笑った。
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