第6話 部室にて

「さぁ今日も部室で受験勉強しちゃおっと」


ミカは鼻歌まじりにご機嫌で部室棟へ向かって歩いていた。先日受けた模試で第一志望がA判定だったのだ。

ニ階への階段をトントンと軽いステップで駆け上がると天文部の部室の前に立ちドアノブに手を掛けた。

「ガチャリ」と音をたててドアが開く。どうやら先客がいるようだ。


「誰?佐和ちゃん?早いわねぇ」


そう言いながら中に入ると見知らぬ男子生徒が立っていた。


「あ、お邪魔してます。富永さんなら今図書館に行ってます。もう戻ってくる頃なんですけどね。あ、すいません。俺、富永さんと同じクラスの藤村っていいます。よろしくお願いします」


よどみなくしっかりとした挨拶をする宙にミカが感心していると、ドアが開き佐和が入ってきた。


「あ、ミカさん、こんにちは」

「こんにちはじゃないわよ。もー佐和ちゃんたらいつの間にか素敵な彼氏作っちゃって!ダメよ、部室に連れ込んじゃ」


その言葉に佐和の顔が紅くなる。


「ちっ、違いますよぉ。藤村くんはただのクラスメートです。この前の球技大会でいろいろあって私の手伝いをしてくれてるんです」

「『いろいろあって』って?」

「はい、実は……」


球技大会の最後のプレーで吹っ飛ばされた佐和は右手首を捻挫し、佐和をかばおうとした宙は左足首を痛めてしまったのだった。幸いどちらも軽症で済んだが、宙は安静にするよう指示されクラブの練習は休みとなった。

そのためケガをさせた責任を感じ、佐和の準備を手伝っていたのだ。


「なるほどねぇ。それはお互いに大変だわね……」


佐和の話を聞き終えたミカは「そっかそっか」と頷いていたが突然何かを思いついたようで、


「あ、そうだ、忘れてた。ごめん!私帰るね。えーっと、藤村くんっていったっけ?佐和ちゃんをよろしくね!

じゃ、佐和ちゃん頑張ってねー」


となぜか満面の笑みで手を振りながら出ていった。


「あらら。ミカさん帰っちゃった……」

「やっぱり部外者の俺が入っちゃまずかったかな」

「そんなことはないと思いますけど……。うん、大丈夫ですよ、きっと」

「そうだな。じゃあ準備しよっか」

「はい」


このようにミカの満面の笑みの意味も考えずに狭い部室で二人きりの時間を過ごす宙と佐和であった。

もっとも、今の佐和は文化祭を成功させることしか頭に無く、宙は宙でサッカーが恋人だ。

果たしてこんな恋愛偏差値の低い二人に、スイートなロマンスが芽生える日はやって来るのだろうか……。

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