第10話 北極星の探し方
「あ、あれ知ってる!カシオペア座だよね」
Wの形の星の並びを見つけて宙が指をさす。
「そう、あれがカシオペア。他にもペガサスやアンドロメダといった秋の星座が見えてるんです。そうだ、カシオペアから北極星が探せるって知ってます?」
「いや、知らないなぁ」
「カシオペア座のWの両端ふたつずつの星の線をそれぞれ伸ばして、その交じわった点とWの真ん中にある星を結んでそれを5倍に延長すると……」
楽しそうに指を伸ばして説明する。
「ほらね。北極星が見つかるというわけ」
「おぉーっ!!」
宙が素直に感動する。
そのリアクションが佐和には可笑しかった。
「カシオペア座が空に出ていないときには北斗七星からも探せるんですよ。北斗七星のひしゃくの先にあるふたつの星の間隔を、ひしゃくの先端から5倍に延ばした距離にあるのが……」
「あるのが……?」
「北極星です!」
「おぉー、ちょっと感動した」
「昔の船乗りの人たちはこうやって北極星を見つけて目指すべき行き先を調べていたそうです」
「ふーん、そうなんだ。確かにこれを知っておけば行き先を間違えなくて済むもんな」
「あ、そうだ。いいものをお見せしますね」
そう言って手元のコントローラーを佐和が操作するとグィーンと音を立ててプラネタリウムが回転し、それに合わせて投影された星たちも動いてゆく。すると明るく光る星たちが現れた。
「あ!オリオン座」
宙が叫んだ。
「はい。そしておおいぬ座こいぬ座におうし座、ぎょしゃ座、双子座の冬のオールスターの登場です。有名なのはシリウスとプロキオンとベテルギウスの冬の大三角。そしてシリウスからプロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルとぐるりと回ってこれが冬のダイヤモンドです。一等星がたくさんあって夜空の中でも一番豪華な時期なんですよ」
佐和はいつになく饒舌になっていた。人前で話をするのが苦手な佐和だが星のことになるとまるで別人のようだ。
「富永さん、すごく楽しそう。ホントに星が好きなんだね」
感心したように宙が言う。
「ところでプラネタリウムって解説とかあるよね?あれはどうすんの?」
「ん?カイセツ?あ!解説ーっ!」
佐和が素っ頓狂な声を上げた。
「忘れてたー!」
「?」
「誰かにお願いして録音しようと思ってたんです。あぁ、どうしよう……」
「は?どうしようって、富永さんがやればいいじゃん」
「ムリムリムリっ!私、そんな人前で喋るなんて緊張して、どどどど、どもっちゃいます。それに変な声だし」
「そんなことないよ」
「そんなことあります!小さい頃から鼻炎で、今は治ったけどすきっ歯で話すときも息が漏れて変な声ってよくからかわれて。それに小学三年生のときに田舎から引っ越してきたので訛りをクラスの男の子たちに面白おかしく言われてたから話すのが嫌であまり喋らないようにしてたんです!」
怒涛の勢いで全力で否定する佐和。
宙は少しばかり気圧されながらも、敢えてゆっくりと話し始めた。
「ふーん、そんなことがあったんだ。でもさ、もう全然訛ってないし、それに富永さんの声って柔らかくて優しくてなんかこう潤いがあって、星空の下で聞くのにピッタリだと思うよ」
「そ、そんなことない……です……よ」
ちょっと弱気になる。
そこへ追い打ちをかけるように宙が攻勢をかける。
「そんなこと・あ・る・の!俺、さっきの星座の話とか聞いててとっても気持ちよかったもん。包み込まれるようで落ち着くんだよね。だから富永さんが……あっ!」
突然、宙が大きな声を上げる。何かを思い出したようだ。
「どうしたんですか?」
「思い出したっ!もしかして出席番号って二十八番?」
「はい、そうですけど。それが何か?」
「うわぁー、まさかこんな形で思い出すとはなぁ。うん、俺、大好きだよ富永さんの声」
「え?え!えーっ?!」
噛みしめるように発した宙の言葉にただただ驚愕する佐和であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます