第4話 天文部は存続の危機

校舎を出てグラウンド沿いに三十メートルほど歩いたところに東高の部室棟がある。鉄筋コンクリート造二階建てのその建物は一階が運動部、二階が文化部の部室となっている。

中央に廊下があり、その両側に各部室が並んでいる。


「あわわわわっと」


両手で抱え込んだ本や資料をあごで押さえながら、佐和が部室のドアを開けた。


「あら、佐和ちゃんご苦労さま」


部屋の中央に置かれた円卓に参考書や過去問を広げていた長い黒髪の女子生徒が顔を上げて微笑んだ。

彼女の名前は樋口ミカ。天文部の三年生、つまりバリバリの受験生だ。頼れる先輩で、人見知りの佐和も彼女にはとても懐いている。


「あ、ミカさーん!今日も来てたんですね」

「うん。だってここが一番落ち着くんだもん。何ていうのかなぁ、ここには私が過ごしてきた大切な思い出がつまってるのよね。卒業してからもお茶しに来たいくらい」

「ぜひ来てください。私、ミカさんが来るの待ってますから。あ、でも、その前に部員を確保しないと……」

「部員かー……」


佐和の言葉にミカは頭を抱え込んでしまった。


現在、東高天文部の部員は全部で五名。そのうち佐和を除く四名が三年生で、来年の春には卒業してしまうのだ。部として存続するためには最低五名が必要で、それに満たない場合には六ヶ月の猶予を経た後、資格を失ってしまう。このままだと天文部は消滅し、当然ながらそうなったらこの部室ともオサラバとなるのだ。


「だっ、大丈夫です。文化祭を絶対に成功させて、先輩たちが卒業してからも天文部は存続させますから」


そう言う佐和には多少なりとも勝算があった。

この二年間コロナの影響で文化祭は開催中止に追い込まれていたのだ。


――文化祭で集客力のあるプラネタリウムをやれば興味を持って入部する生徒もいるはず


そう考えていた。

何を隠そう佐和自身、中学二年のときに訪れた東高文化祭でプラネタリウムを見て、この高校に入学したら天文部に入ると心に決めたのだった。


「で、準備は順調に進んでるの? 私たちは受験勉強の追い込みで手伝ってあげられないけど、佐和ちゃん一人じゃ大変でしょ?」


心配そうにミカが尋ねる。


「はい。でも歴代の先輩たちが作り上げたプラネタリウムの機材はそのまま残ってますから。星空の解説はネットで探せばすぐ見つかるのでそれを原稿にしようと思ってます。ミカさたちも見に来てくださいね」

「もちろん!日曜日は模試と説明会があって来れないけど土曜は顔を出すからさ」


文化祭は来週末。

着々と準備を進める佐和。

この後予期せぬアクシデントが起こることになるのだが……。

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