第18話 夢と希望と現実と
日曜午後の公園。
遊ぶ子どもたちのキャッキャッという歓声が響き渡る。
この街で一番大きなこの公園は、子ども向けの遊具が充実しているのと綺麗に手入れされた植物園があることで週末ともなると老若男女で賑わっていた。
酒井は妻と年長になった息子と三人で遊びに来ていた。
柔らかな陽射しのもとで芝生広場にシートを広げ、三人であれこれ話しながら作ったおにぎりを頬張る。
――幸せってこういうことなんだろうな。
しみじみとそんなことを考えながら酒井は笑顔の二人を見ていた。
「パパー、サッカーやろう!」
息子の翔太がバッグからサッカーボールを取り出した。翔太は仲良しの友達と一緒に地元のサッカークラブが運営するスクールに入っていた。
「こないだ大介コーチに『翔太うまくなったな』って言われたんだよ。だからパパよりボクの方がつよいんだからね」
「そうか。スゴイじゃないか。よぉーし、じゃあパパと勝負だ!」
得意気にドリブルをする翔太に酒井がボールを奪おうと近づく。すると
両足を巧みに使いワンツーの要領で翔太が抜き去っていった。
「わー、やられたー」
「ね。ボクの方がつよいでしょ。ママー、ボクねパパに勝ったよ」
「翔ちゃんすごーい。上手!Jリーグの選手みたいだったよ」
妻の瞳がパチパチと拍手しながらニッコリ笑った。
「翔太の奴、いつの間にか上達したな」
「スクールのクラスの中じゃ一番上手いと思うよ。大介コーチも『上の学年のクラスでも通用する』って言ってたし」
「へぇー。まぁ俺も瞳も運動神経はいい方だったからな。案外いいとこまで行くかもな……」
翔太は公園に来ていた見ず知らずの子どもたちとサッカーに興じていた。酒井と瞳はそんな翔太の姿を見て、我が子の成長に目を細めた。
「なぁ瞳」
「なぁに?」
「もし……、もしもだよ、翔太が中学生や高校生になった頃にJリーガーになりたいって言ったらどうする?」
「……」
酒井の問いかけに瞳は少し間を置いて空を見上げた。秋の澄んだ青空がどこまでも高く続いている。
普段は愛らしい瞳の表情がキュッと引き締まり端正な母の顔に変わった。
「あの子が本当にやりたいのならやらせてあげたい。私は、私たちはあの子のためにレールを敷くのではなく、選択肢をたくさん用意して選ばせてあげたいと思うの」
子どもたちの歓声が上がる。翔太がゴールを決めたようだ。一回りも大きい他の子どもたちに祝福され笑顔が弾けていた。
「瞳は強いな。俺は翔太の将来とか世間体とか考えて大学は卒業してほしいって思っちゃうよ。サッカーで飯を食っていくのがどれだけ大変なことか少しはわかってるつもりだからさ」
「藤村くんのこと?」
「あぁ。アイツは凄かったよ。向こうに行って三年後にチームを優勝させちまうんだから。ちょうどそのシーズンにバイト代貯めて俺もベルギーに行ったんだけど、俺が日本人てわかるとその街の人が集まってきて『フジムーラ』の大合唱だよ。試合も見たけどスタジアムの熱狂のど真ん中にアイツがいたんだ。鳥肌が立ったよ。ゾクゾクした。魔法使いのように試合を支配していた。マジで光って見えた」
話しながらその時の光景を思い出し、酒井は鳥肌が立っていた。
「その時は思ったよ。『コイツならどこまででも行けるんじゃないか』ってね。俺の知ってる宙じゃなくて『コイツ』ね。それくらい凄かったんだ。でも翌シーズンの開幕戦で……」
「……」
二人の表情が曇った。
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