第30話 スーパードクターK?

チームの活動と並行して木島の診療所で働くようになってから、仕事終わりに木島のマッサージを受け、その後に石塚温泉に通うのが宙のルーティンになっていた。


「いててててっ!先生待って!ギブ、ギブ、ギブアップぅー!!」


足首を親指でグリグリと押されると、宙はベッドをバンバン叩き、一つにまとめた長い後ろ髪を振り乱しながら悶絶する。


「ほぉ、そう来たか。じゃあこれはどうだ?」


木島は微妙に角度を変えると、右手だけでなく左手の親指も添えてぐりゅりぐりゅりと施術を繰り返した。


「ぎゃー、やめてー!!鬼ぃー!人殺しぃー!!」


宙の物騒な言葉が小さな診療所に響き渡る。

木島はといえば、ニヤニヤと笑みを浮かべ何とも嬉しそうだ。


「やめろー!木島ーーーっ!お願い、やめてーー!!」


宙が断末魔の叫びをあげるのとほぼ同時に木島が手を離す。

宙はガクリとベッドに崩れ落ちた。


「うむ。これでもう大丈夫だろう。次の試合は思う存分やってきなさい」


木島は「ふぅ」と息を吐くと、ひと仕事やり遂げたような満足気な表情でタバコに火をつける。


「……は、はひっ。ありがとうござい……ます……」


あまりの激痛に涙目のまま答えた。


当初は何の痛みも感じなかった木島のマッサージだが、毎日繰り返して受けているうちに次第に痛みを感じるようになった。木島によると、麻痺していた感覚が徐々に治ってきたからだという。木島の腕と温泉の効能らしい。

実際それはプレーにも現れていた。

出場三十分ほどで出ていた痛みが、フルタイム九十分走っても出てこなくなった。さらにボールを蹴ったときの違和感も無くなり、イメージ通りのプレーができるようになったのだ。


宙の回復と歩調を合わすようにチームの成績も上向き、いつの間にか首位争いに加わるほどになっていた。

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