第14話 学校辞める?
体育祭と文化祭が終わると教室内は次第に落ち着きを取り戻し、それまでと同じ日常が帰ってきた。
宙はいつものように授業が終わるとそそくさとクラブチームの練習へと向かい、佐和は部室にこもって天文関係の書籍を読み漁っていた。
唯一の違いといえば、
「富永さん、おはよう」
「あ、藤村くん、おはようございます」
と普通に挨拶を交わすようになったことぐらいだろうか。
そして十二月のある日。
酒井の大きな声が教室中を激震させた。
「えっ!学校を辞める?!」
「バカ!声デカいって」
宙は酒井に注意したがそれはまったく無意味であった。
「え?辞めるってマジかよ?」
「藤村くん中退しちゃうの?」
「何でだよ?」
「どうして?」
クラス中の視線が宙に浴びせられる。宙は「参ったなぁ」という風に頭をポリポリ掻きながら立ち上がった。
「俺、プロサッカー選手になりたいんだ。ウチのクラブのスタッフさんが運営とか勉強するために今ベルギーのクラブチームで働いてるんだけどさ、その人がこの前のフロントール戦の動画を見てたらたまたま一緒に見てた監督さんが俺のこと気に入ってくれて。で、『ベルギーに来ないか?』と声を掛けてくれたというわけ」
「マジ?」
「すっごーい!」
教室内は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
「親には高校くらいちゃんと卒業しときなさいって言われたんだけどさ、小さい頃からの俺の夢だから全てをかけてチャレンジしたいんだよね」
覚悟を決めた宙の表情はとても晴れ晴れとしていた。
「それでいつベルギーに行くんだ?」
「うん。準備とかいろいろしなきゃいけないことがあるんだけど来月下旬には行くつもり」
「そっか。寂しくなるなぁ」
「まぁな。でも俺も頑張るから。頑張って頑張ってプロになってレギュラーになって試合に出るようになるから、その時はみんなでベルギーまで試合見にきてくれよな」
「行く行く!絶対行く!」
「今から飛行機代貯めなきゃ」
「試合は無料招待してくれるんだよな?」
宙の話題で盛り上がるクラスの中で、一人だけ違うことを考えている生徒がいた。佐和である。
「ベルギー……ベルギーは?っと……わっ!北緯50度!!てことは北極星の高度も50度。高っ!?
どんな星空なんだろう。一度見てみたいなぁ。でもやっぱり寒いのかなぁ、うーん……」
スマホをいじりながら、周りの誰にも聞こえないくらいの小さな声でブツブツと呟いているといきなり名前を呼ばれた。
「富永さんも見に来てね」
「あ、はいっ!50度の北極星見てみたいです!」
「……ん?」
「……は?」
不思議顔になる宙を見てこちらも不思議顔になる佐和であった。
☝️天文プチ知識☝️
北極星を見る時、北極星の高度とその場所の緯度(北緯)はイコールなのです。
北緯35度の場所では35度の高さに、北緯90度の場所(北極点)では90度の高さ、つまり真上に見えるというわけですね。
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