第42話 ハデルは考察し、迎え撃つ

「と言う感じで何かしらアクションは起こしてくるだろう」

「大丈夫なの? それ? 」


 サラシャがそう言い俺は「大丈夫」と答える。

 ダンジョン内の設定が終わった後、俺達はコアルームで次どのような動きをするのか考えていた。

 このコアルームにはサラシャとパシィそして三リスを含め、ダンジョン管理を代行していた三人娘が座っている。

 俺が何かしら武力行使に出る可能性があると伝えると、サラシャとカタリナから不安の声が、そしてナンシーからは呆れた声が聞こえてきた。


「……大胆だいたんすぎだにゃ」

「何をこのくらい。犯罪者を完全に捕まえるためにあおりに煽ったんだ。むしろ攻めてきてもらわないと困る」

「しかし攻めてきたところでどうするのですか? 」

「そうそう。攻めて来たくらいでは犯罪に問えないよ」

「そこは我らが魔王——リリス様に頼もうかと」


 それを聞き全員が意外そうな顔をする。

 皆が俺の事をどう思っているのかとても気になる表情だ。

 

「国営ダンジョンに攻めてくる犯罪者達だ。冒険者ギルドはそれで大丈夫だろう」

「そう言っても相手は独立した組織だよ? 」

「だがその組織に運営の許可を出しているのは国だろ? ならば国の権限内で活動を停止させることができるはず」

「確かに可能だとは思いますが、わざと攻略させる意図とは? 」


 パシィが聞いて来た。

 確かにそれだけだと攻略に向かわせる意味がない。


激高げきこうさせることだ。あのレドとかいうギルドマスターを見る限り、奴は短気だろう。証拠を消すのを忘れてすぐにでも乗り込んでくるさ」

「乗り込んでこなかった場合は? 」

「委員長がきちんとまとめていた書類があるから向こうの書類を消されても、法に訴えることはできる。だがこっちだけの書類だと弱い。奴らを物理的にも法律的にも叩きのめすには証拠はいくらあっても困らない」


 俺が好戦的な目線を周りに向ける。


「……単に暴れ足りないだけじゃないのかな? 」

「……否定はしない」

「巻き込まれる僕達の身にもなってほしいにゃ」

「(コクコク)」

「このダンジョンに引きこもっていれば安全だろう」


 とダンジョンコアの方を見る。

 すると周りから刺々しい目線を感じた。


「な、なんだ?! 」

「……いや流石だなと」

「まさかこんな改造をするとは思いませんでした」

「常識外れとはまさにこのことにゃ」


 皆がそう言い俺は慌てる。


「い、良いじゃないか。こんなにも豊富に魔力があるんだからさ。使いたくなるのは必然だろ? な? な? 」


 周りに意見を求めるが、誰一人として頷かない。

 ……解せぬ。


「ぐぬぬぬ……。まぁいい。サラシャ。魔王リリスに連絡を取れるか? 」

「大丈夫だよ」

 

 そう言いサラシャは魔導通信タブレットを手に取った。

 ポチポチと何やら押してじっと待っている。そして「母上。今大丈夫? 」と話し出した。


 何というか、提案した俺も人の事を言えないんだが……、魔王に直通で連絡がつくのってかなりヤバいよな。


 ある種の権力の乱用な気がしてきた。

 罪悪感が生まれる前に振りほどこう。


 そう考えている間にサラシャの会話が終わったようだ。

 彼女が俺の方を向き、結果を伝えてくる。


「事の概要がいようを伝えたら飛竜隊を送ってくれるだって」

「飛竜隊? 」

「まさか飛竜隊を?! 」

「パシィ。飛竜隊ってなんだ? 」


 俺が聞くとパシィが説明を始めた。


「飛竜隊は、所謂いわゆる空軍のようなものでございます」

「軍?! 」


 俺が驚くと彼女が頷く。

 周りを見るとサラシャ以外皆も驚いているようだ。

 それに構わずパシィはサラシャに聞いた。


「サラシャ様。ちなみにどの部隊が派遣はけんされるかお聞きになりましたか? 」

「第三部隊だって」

「! 」


 パシィが更に驚く。

 が取り乱したのも一瞬ですぐに取りつくろう。

 そんな中委員長カタリナがおずおずと手を上げてパシィに聞いた。


「……その、第三部隊というのは有名なのでしょうか? 」

「有名……。そうですね。ある意味有名ですね」

「というと? 」

「飛竜隊第三部隊の役割は警備隊では手が付けれない犯罪者の捕縛ほばく・輸送などでございます。陛下が第三部隊の派遣を決定したということは、サラシャ様の話を信じ……」


 と一人ぼつぼつと喋り出した。

 パシィの言葉通りならば今彼女が考えている事と俺が考えている事は同じだろう。


 恐らく魔王リリスはこの町で何かしら犯罪が行われているのを知っていた。

 だが逮捕につながる決定的な証拠がなく、どうにか対策をっている所で、これさいわいと俺が現れた。

 そこで俺から証拠を上がってくるのを待ちつつ、その犯罪者捕縛専門の飛竜隊とやらを派遣する準備をしていた、という所だろう。


 しかし俺が現れなかったらどうするつもりだったんだ?

 いやリリスは魔王。

 何かしら対策を練っていたかもしれない。


 もしかすると俺をダンジョンの管理人にし、宰相さいしょう成果せいかいそがせたのはこれがあったためかもしれない。

 長命種によくあることだが、エルフ族のような長命種はのんびりしている。気がついたら数十年経っていたなんてよくある。

 それも踏まえて「急がせた」としたら、流石と言うべきだろう。


「ま。俺がやることは変わりないな」


 そう言うと考えていたパシィが俺の方を見る。


「俺はあくまでダンジョンの管理人。管理人としてこのダンジョンを護るだけだ」

「……ふふ。確かに誰が来ようと、どのような思惑があろうとやることは変わりありませんね」

「そうだよ、パシィ。ボク達の役割は変わらない」


 サラシャが立ってパシィにそう諭す。


「よし。じゃぁこれからの事を考えよう。サラシャ! そして委員長! 」

「何? 」

「委員長ではありません! カタリナです! 」


 呼ばれたカタリナはプルンと胸を弛ませながらその場に立った。


「一時的だが、二人にダンジョンコアの制御を代行してもらいたい」

「「二人で? 」」


 ハモる二人に頷き、俺も立つ。


「管理人は一人だが、補助を二人まで登録することができる。その、所謂いわゆる代理人についてほしい」

「やるのは良いけど……、なんで? 」

「このモニターから見てピンチの時にダンジョン内転移で俺をコアルームまで運んでくれ。補助として登録しておくとその機能の一部が使えるからな」


 俺は理由を言う。


「ピンチなんて来ないとおもうけどなぁ」

「……少し薄情はくじょうじゃないか?俺の心配をしてくれてもばちは当たらないとおもうんだが」

「薄情じゃないよ。絶対に勝つという信頼だよ」

「ええ。ダンジョンをこれほどまでに魔改造したのですから、信頼しておりますよ」

「なんだかカタリナからの信頼が薄い気がする」

「そう思うのならばこれから勝ち取ってください」

「分かったよ。他の皆はこの二人の補助だ。もしコアルームに侵入されることがあれば身をていして彼女二人を護ってくれ」

「「「了解にゃ (はい)!!! 」」」

「じゃぁ行こうか。ダンジョンへ」


 こうして俺はコアルームを出る。

 そして足を踏み入れる。


 現在ダンジョン階層。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る