第25話 ハデルは冒険者ギルドへ行く

「ここがアベルの町か」

「少し活気かっきがない? 」

「流石にバルやアスモデウスと比べると可哀かわいそうかと」

「いやボクが行った人界の町と比べても少し活気がないと思うよ? 」

「そうなのですか? ハデル様」

「ん~、活気がある……とは言えないな」


 俺達は簡単な造りの門を潜り立ち止まる。

 軽く周囲を観察しているとサラシャとパシィが口々に感想を言った。


 町に対して失礼な事を言うサラシャだが、彼女の言う通り活気がない。精々村か、集落くらいの活気度合いだ。

 しかしこの状況の原因に心当たりがある。


 それはダンジョンだ。


 ダンジョンを中心に町づくりをしている所は多い。水源ある場所から町を作る時代は俺が生まれるよりもはるか昔に終わっている。

 今はダンジョン。ダンジョンが人を引きつけ、町を形成する。

 よってダンジョンの活動状況に応じてその町の活気度が変わる。

 アベルの町に活気がないのはダンジョンの運営状況が悪いためだろう。


「これは早々に手を打たないとな」

「何か原因を知ってるの? 」


 顔を上げて金色の瞳を覗かせるサラシャに俺の考えを伝えた。


「そっか……。なら早くしないとね」

「流石の慧眼けいがんですね。私は仕事とサラシャ様以外の事はさっぱりなので、尊敬します」


 パシィが褒めて俺は少し笑う。

 隣から少し黒いものを感じ気まずく足を進めると周りからかなりの目線を感じた。

 淫夢魔サキュバスの刺激的な衣装にメイド服の女性。注目ちゅうもくを浴びない方がおかしいとり切り、目線の方向に目をやらずそのまま進む。


「これからどうするの? 」

「まずは冒険者ギルドに行って資金調達だ」

「ボク達は冒険者ギルドに入ってないけど……」

「俺が売るから大丈夫だ」


 隣でサラシャが「なら大丈夫だね」と言う。

 そして逆方向からパシィの声が聞こえてきた。


「その後は如何いかがいたしましょうか? 」

「次は町長の所へ挨拶に行こうかと考えている」

「町長の所に? 何で? 」

「ダンジョンが国営とはいえ町との関係は切り離せない。ダンジョンから出る素材を売って得た利益の一部はダンジョン運営者に入るからな」


 もらった資料の内容を思い出しながら言う。


「そのくらいなら別に町長の所に行かなくても……」


 そう言うサラシャに苦笑いで返して言う。


「町とダンジョンの関係を良好なものにするのならば、取引先である町のおさに挨拶は必要だろ? 」

「……分かった」


 いまいちわかっていないような感じを受けるが、最初は良いだろう。

 実力主義の魔界では、俺の価値観とは少し違うかもしれないし。

 それに町長の所に行くと、「これから腕試しだ! 」とか言われるかもしれない。ほまれとする魔界ならば十分にあり得ることだ。気を引きめないとな。


 少し考えながら歩いていると、通りかかる人の種類がガラッと変わったのを感じた。

 足を止め顔を上げると、周りには武器を持つ人達が移動していた。

 彼らが入っていく方向に顔を向けるとそこには巨大な建物が一つ。


「着いたな」


 煉瓦レンガ状の建物を見上げると、木で出来た看板がかざられていた。全世界全国共通の盾と剣の絵を見て「魔界でもこれなのか」と少し顔がゆるんでしまう。

 識字しきじ率が高いのに何故このシンボルなのかと考えていると、生前のロゴマークを思い出し一人で納得。

 あれと同じなんだ。

 少しぼーっとしていたのか隣から「行くよ」と声をかけられる。そして俺は手を引っ張られながら中に入った。


 ★


 中に入った瞬間、「むわっ」とした空気が鼻につく。

 俺達はそれに構わず先に進む。

 中には剣、盾、杖等をもった如何いかにもな冒険者が多くみられる。

 魔界も一緒か、と思いながらも受付を探していると、俺達に気付いたのか視線を浴びた。


「なんだあの緑のローブ」

「……エルフ? 」

「おい、淫夢魔サキュバスもいんぞ」


 何やら不快ふかいな目線を感じる。

 しかし俺達の用事はあくまで素材の売却。


「あれじゃない? 」

「お、あった」


 サラシャが受付を見つけて、俺達は向かう。なにやら嘲笑ちょうしょうのようなものが聞こえるが気にせず行く。隣から殺気がれ出ているのを感じるのは、きっと気のせいだろう。


「アベルの町の冒険者ギルドにようこそ。本日のご用件をおうかがいしてもよろしいでしょうか? 」

「素材の売却だ」


 と言いながらローブのポケットに手を突っ込みギルドカードを出す。

 それを受け取り受付が確認。

 ランクのらんを見て目をギョッとさせて、ギギギと擬音ぎおんがなりそうな動きで顔を上げた。


「し、し、し、し、し、失礼ではございますがこのカードに魔力を流していただいても? 」


 まぁ疑われるのは仕方ないよな、と思いながらも魔力を流す。

 なにも変化がない事を確認すると受付嬢の羊魔族の女性が真っ青な顔で「失礼しました! 」といきなり頭を下げてきた。

 そして口早くちばやに素材について聞いて来る。


「あ~、ここに来る途中に遭遇そうぐうしたオーク類になるんだが」

「では解体所にご案内します」


 顔中に汗をかきながら受付嬢は俺達をこのギルドの解体所へ誘導した。

 一旦外に出て併設された解体所に入る。

 そこには数名の冒険者と解体している職人がいた。


「こちらに素材を出してください」


 そう言われ素材専用の小袋アイテムバックリュックサックアイテムバックから取り出し素材を出す。

 肉が三十体分、魔石が五十以上と言ったところか。

 それを見ているとどこからか職人らしき人が声をかけてきた。


「おいエルフのにぃちゃん。そりゃぁ……、オークか? 」

「あぁ。そうだ」


 俺がそっけなく返すと少し考える素振りをする職人。

 そして顔色を青から白色にかえる受付嬢。

 なまじ俺のランクを知っている不幸な受付嬢は今にも倒れそうだった。


「肉は綺麗にさばかれてるが、魔石と数が合わない気がするんだが」

「それはこの二人のせいですね」


 とサラシャとパシィに顔を向けると「さっ」と顔をらした。

 そして俺は思い出す。


 あの時俺がオーク集団を倒し素材をぎ取った後、俺はサラシャの元へ向かった。

 だがそこにいたのは戦闘をしているサラシャではなく、無傷で倒れたオーク達にバスターソードを持った血塗れメイドとドン引きしているパシィだった。


 どんな状況? と思いながらも話を聞くとパシィは俺が来る直前にサラシャの元に来たとのこと。

 その後解体が出来ない二人に代わって俺が解体を行った。だがそこで問題が。


 オークは魔石と肉が基本的な素材となる。肉は食べれて、魔石は魔導具の部品になる。

 がサラシャが倒したオークは内臓がぐちゃぐちゃで血抜きが出来ない状態に。よって魔石だけを取り出した。

 パシィなんかもってのほかで魔石ごと切り刻んでどうしようもない状態だった。倒すことを優先しましたと言われればそれまでなのだが、今回の討伐の目的は資金調達と言っているので、切り裂くのはせめて首だけにして欲しかったのだがやってしまったのはしかたない。


「なんか災難さいなんだったな」


 職人が同情の目で俺を見たので苦笑いで返す。


「じゃ、鑑定しておくから受付で待ってな」


 そう言い職人は鑑定に入った。

 俺は白から青に顔色を戻した受付嬢に連れられて、再度受付へ戻った。

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