第24話 ハデルは迂回ルートを行く
魔王城を出た俺達はパシィに速度を合わせて移動中。
魔界は人界よりも魔力濃度が高い。
魔力濃度が関係しているのかわからないが、道や山に出現するモンスターも多いようで。
「その
「そこそこな」
パシィが走りながら俺に聞く。
俺もそれに答えて前を向く。
「
「確かにそうかもしれないが魔法使いにとって魔杖は必需品だからな」
「あら、魔法使いでしたか」
「……なんだと思ったんだ? 」
「ハデル様は魔法使いの振りをした武闘家かと。姿で
「どうしたらそう言う答えに行きつく! 」
「いえハデル様から魔力を感じ取れないので」
それか。だがこれに対する答えも持ち合わせている。
「俺は精霊魔法を使う精霊術師だ。だから魔力は必要ない」
「……」
「なるほど。なので魔力が感じ取れないのですね。納得です」
パシィが納得した様子で「トン」と更に加速した。
サラシャが何か言いたそうな顔で俺を見るが苦笑いで返す。
「見えないものを説明するよりもこっちの方が分かりやすいだろ? 」
「そうだけど……」
「魔力でなく精霊の力を使って魔法を行使する精霊術師。これの方が現実味があるじゃないか。それに俺は嘘を言っていない。事実俺は精霊術師だからな」
まだ
人は見えないものを信じようとしない。感知できないものを幾ら口で説明しても無駄なのはよく知っている。
だがそう言いつつも神様や運というものを信じるのだから不思議でこの上ない。
アベルの町に向かう。
走っていると隣からサラシャの声が聞こえてき。
「そう言えばなんでこのルートを通るの? 確かもっと近道があったと思うんだけど」
そう聞くサラシャに少し顔を向ける。
「理由は幾つかある。まずは……俺達がこの速度で移動したら道がボコボコになるからだ」
「……
「それもそうだが空を行く人達のペースに合わせると時間を食う」
「確かにそうだね。スピードを出し過ぎると他の人に迷惑だもんね」
そう言いながらサラシャは木々を
……本当にね。
「資料の中にあった地図を見る限り町や村がない。野営は嫌だろ? 」
「ボクは気にしないけど……」
「私は好みませんね」
聞いた俺が言うのもなんだが、おい
自由だな……パシィ。
「コホン。次にモンスターだ」
「モンスター? 」
聞き返してくるサラシャに俺は頷く。
ギ、と音を鳴らして木の
「今さっき蹴った木の様に魔界で育った素材は強力だ。もし今さっきの威力で人界の木の枝を蹴ったら折れてるだろう」
「確かにね」
「ならモンスターも、——同じ種族とは言え人界のモンスターよりも強いと考えるのが普通だろ? 」
「確かに。ボクが人界に行った時はかなり平和に感じたよ」
「ならいざという時の為に、この辺で肩慣らしをしておくのが一番ということだ」
「精霊術師に魔国の王女、そしてこのおちょくりメイドという最高のメンバーならではの安全策ですね」
俺がパシィに近付くと彼女は俺にそう言った。
……メイドを戦力に入れるのはどうかと思うが……、まぁ戦闘服を兼ねた服装を着るパシィなら大丈夫だろう。
「最後は——、とストップ。モンスターだ」
俺がそう言うと全員が止まった。
パシィはメイド服のスカートからバスターソードを取り出し、サラシャも準備に入った。
「……どうしてそんな
「メイド服のスカートの中は夢の国なので」
「理由になってねぇ」
呆れてそう言い
差し詰め異空間収納をスカートの内側のどこかに掛けているんだろうが、よく取り出す時に脚を傷つけなかったな。
「ボクも少し頑張っちゃおっと」
「サラシャが魔法を使っている所を見たことないが……
「いや流石にそれは疲れるよ。ボクの触媒は、これ」
そう言い左手を俺に見せた。
そこにあったのは中央を緑に輝かせる一つの指輪。
「指輪型の触媒か」
「そ。これで
サラシャはニコリとそう言った。
ふむ。大分自信があるようで。
指輪型の魔法発動触媒はあまり使われない。俺の様に——
指輪型を使うメリットは小さく両手を空けることができること。逆にデメリットは魔力変換効率が悪い事だ。
加えて魔杖ならばいざという時
「魔力は大丈夫か? 」
「大丈夫だよ。それにボクが使う魔法は少し特殊だからね」
「特殊? 」
「そ。まぁ種族特有のものって思ってもらってもいいよ」
自信満々なサラシャの言葉を信じよう。
モンスターが近寄って来ている。気配察知が気配感知に切り替わった。
「さぁ。資金稼ぎと行こうか」
こうして魔界初のモンスターとの戦闘が始まった。
★
「
相手を引きつけ、バックステップで後退しながら魔法を放つ。
緑の魔法陣から放たれた風刃がリーダー格のオークの首を
俺を追ってきたオークの一団に混乱が見える。
「瞬動も使えるのか」
感心しながら物理障壁を張る。
俺の身長程の
その瞬間を逃さず二体の隙間を縫い後ろに回る。
障壁を背後に展開し魔杖を構えた。
「
比較的強そうなオークの首に穴をあけ、結果を見ずに
恐らくこの集団でも強い部類だったのだろう。
相手の攻撃範囲から外れて少し観察していると一気に引き返そうと動いていた。
「ま、逃がさんけど。風矢乱舞」
オーク達の上空に多くの魔法陣が浮かび上がる。
そしてドドドと言う音を立てて俺の戦闘は終わった。
「さて。素材を
地面に着地しオーク達の
★
一方その頃サラシャはと言うと。
「ハデルが多くのオークを引き付けてくれたからこっちも頑張らないとね」
ハデルが倒したオークよりも二回りほど小さなオークの集団と
だがそれでも大きい。
最低でもサラシャの身長の一・五倍程はある。
しかし彼女は余裕の笑顔を浮かべている。
「この程度なら。
オーク達が迫りくる中、サラシャは左手を正面にかざすと白い魔法陣が浮かび上がった。
それと同時に魔法が発動し十体近いオークが一斉に倒れる。
そして再度魔法を発動させた。
「
相手が睡眠時のみ使えるサラシャの即死魔法である。
通常モンスターは魔力で動く。血液のようなものも通っているが基本的に魔力で動く。
サラシャのこれはモンスターの魔力体内循環を
外見が無傷なオークを少し見て、「これからどうすればいいんだっけ」と首を傾げた。
少し考えていると違う方向から足音が彼女に届く。
「サラシャ様」
サラシャが顔を上げるとそこには血塗れのパシィがいた。
「ど、どうしたの、それ? 」
「つい張り切ってしまいました」
可愛く言うパシィだが、サラシャはその姿に引いていた。
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