第23話 ハデルは魔王城を後にする

「……ううう。恥ずかしい」


 俺の隣でサラシャがトボトボ歩いている。

 下を向き歩く姿は少し透けて見えた。

 掛ける言葉が見つからないとはまさにこのことで。

 そんな彼女を隣にしながら魔王リリスとのやり取りを思い出す。

 

 のじゃ魔王様だったな。ロリじゃないけど。


 サラシャの言葉によるといつもはあんな感じではないようだ。

 俺自身の魔力量は大体わかっているつもりだが、同じランクにいる人からすれば化け物に見えるのか。

 今まで感知できる人が少なかったため気にもめなかったが、これは一回魔力を抑える訓練をしないといけないな……。


「着いたか」


 ゴン!!!


「いてっ! 」

「サラシャ?! 」

「ううう……。いてててて……。前を見てなかったよぉ」


 前を見ると行き過ぎたサラシャが頭を押さえてしゃがんでいる。

 休憩室の扉に頭をぶつけていたようだ。

 何というか……。ほんとごめん。


「大丈夫か? 」


 彼女に近寄り手を差し伸べる。

 声に気付いたのか俺を見上げる。

 涙目で手を取り立ち上がった。


「ありがとう」

「いいよ」

「では中へ」

「おう……って同志パシィ?! 」

「はい。面白い事があれば次元をも超える家事妖精ブラウニーことパシィでございます」


 いつの間にか扉を開けて、はしっているパシィを見て本気で驚いた。

 次元を超えるって……何気にすごい! 動機どうきはあれだけれどもっ!


「で……パシィは何でそんな恰好をしているの? 」

「むろんサラシャ様について行くためでございます」


 キリッとした表情でそう言うパシィ。

 彼女の背中には大きなリュックサックが一つ。


 サラシャの問いに答えたパシィは提案する。


「さ。一先ず休憩室の中へ」


 パシィに案内されて俺達は部屋の中に入っていった。


 ★


 部屋に入ると三リス達が気ままにリュックサックの外で遊んでいる。

 ロッソは駆け回りベルデはおしとやかに座り、ブルは寝ていた。

 魔王城に来ても自由だな、おい。


 そんな三体を見ながらもまないようにソファーに座る。

 ふぅと疲れたようすでサラシャも座った。


「パシィがついて来るってどういうこと? 何も聞いてないんだけど」

「何をおっしゃいますか、サラシャ様。私はサラシャ様の付き人。なのでサラシャ様が行くところが私の行くところでございます」


 同志パシィがそれっぽい事を言う。

 だが俺は、俺にはわかる。

 彼女が言っていることは建前たてまえ。本当の狙いはサラシャを使ってもてあそぶ事だろう。

 目だけを動かしパシィを見る。俺の視線に気づいたのか、ほんのわずかに口角こうかくを上げてすぐに戻した。

 やはりそうか。


「はぁ……。パシィは一度決めたら頑固なのは知ってるからボクは構わないけど、ハデルは良いの? 」

「あぁ構わない。彼女がいると何かと面白そうだ」

「? それはどういう意味? 」


 首をコテリと傾げて俺を見るサラシャ。

 その後ろで良い笑顔でこちらを見てくるパシィ。

 何というかこの主従しゅじゅうコンビ、いびつだな。


「まぁパシィも行くということで。でもパシィ。お城の仕事は大丈夫なの? 」

「シュラーゲン閣下から許可は得ていますのでご安心を」

「ならいっか。じゃぁ早速アベルの町に行こう」


 そう言いサラシャが立ち上がる。


「? 荷物は良いのか? 」

「……。どうせパシィの事だからボクの荷物はもう持ってるんでしょう? 」

かりなく」


 いや同志パシィよ。流石に主人の許可なくまとめるのはどうかと思うぞ。

 それにいつものこと過ぎて異常に思っていないサラシャもツッコめ!


「もう行くのでしょうか? 」

「! 」

「ええ。ベルデ様。これからアベルの町に向かいます」

「ならブルを起こさないとね。ロッソ。貴方がやりなさい」

「何でおれっちが……」

「貴方が一番適任だからよ。私はロッソのように暴力は振るえないもの」

「まるでおれっちが暴力リスと言いたいみたいだな! 」

「そう言っているのよ、ロッソ。その頭には何も詰まってないのかしら」

「なによぉ! 」


 いつもの事ながらロッソとベルデが喧嘩を始めてしまった。


「パシィ……。このリス達が喋ることを知っていたのか? 」

「サラシャ様とハデル様が陛下にご挨拶に向かっている時、この御三方がリュックサックから出てまいりまして。その時お話を」


 といまだに喧嘩をしているロッソとベルデの声をバックミュージックに少し話を聞く。

 出てきた三体のリスを見て少し違和感に気付いたパシィだが最初は俺が持ち込んだペットと思っていたらしい。

 少し見守っていると何やら三体が急に話し始め、驚いた。

 不覚にも声を上げてしまったパシィに気付いた三リス達だったが、そこから流れるように自己紹介を始めたようで。

 不思議に思いながら彼女達の事を聞くと精霊獣と答え、少しおかしく思うもなかば強引に理解したとのこと。


「……よくお前達捕まらなかったな」

 

 少しジト目で三リスを見る。

 喧嘩を終えたベルデとロッソはブルを起こして俺の方を見た。


「……中から見ている感じだとマスターとなかが良さそうだったからよ」

「ええ。危険がないと判断しました」

「う、うっかり喋っちゃった」


 そう言ったッ瞬間ロッソに可愛らしいボディーブローをブルに放つ。

 彼女が「うきゃっ! 」と悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。

 ……。なるほど。誰もいないと思ってうっかり喋ったのか。

 俺が冷たい目線でロッソとベルデを見下ろすと、二体とも俺の方を向き必死に言い訳を始める。


「ち、違うぜ、マスター。おれっちは外に出るのを止めたんだぜ? 」

「ロッソが窮屈きゅうくつなのは嫌だと言ったからでたのよ? 私は悪くないわ」

「紅茶があるとか言い出して外に出るのに賛成したじゃないか! 」

「……嘘をつくのはよくないわ、ロッソ。私は賛成も拒否もしていない」

「言ったじゃねぇか! 」

「私は「紅茶が見えるわ。それも極上の。でロッソ。ここ窮屈に思わない? 」とだけ言ったのよ。その後は何も答えてないわ」

「こ、このぉ! 」


 また感情的になりロッソがベルデに拳を上げる。

 主犯しゅはんはベルデか。

 彼女の言葉が本当ならば、言っていないが誘導している。紅茶につられて外に出るとかベルデらしいが、それでもせめて俺がいる時にしてくれ。


 二体の可愛らしい喧嘩から顔をらしてサラシャとパシィを見る。

 そして改めてお願いする。


「と言う訳で喋る三リスこと精霊獣、ロッソ、ベルデ、ブルだ。面倒事ばかり起こすかもしれないがこれから頼む」

「うん! 」

「それはそれで面白そうなので歓迎でございます。こちらもこれからよろしくお願いします」


 パシィがそう言うとどこか危ない気がして俺の顔が少し引きった。

 だがもうすでに知られてしまっている。諦めよう。

 リュックサックを手に取りもらった資料や職員証を中に仕舞う。

 荷物を背にして、三リス達を中に入れ、二人の方を向いた。


「じゃぁ準備は出来た? 」

「おう」

「じゃぁ行こう! 」


 俺とサラシャはパシィを仲間にして魔王城を後にした。

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