第16話 元上司サイド よからぬことを考えるハービー
時は少し
「ふふふ……ようやくあのクソエルフがいなくなったか」
彼は『ハービー・ジャクソン』。ハデルの元上司である。
ハデルがいなくなったのが余程嬉しいのか、彼は微笑んだまま席を立つ。
「全くもって
彼はそう言い窓から離れた。
赤い
その様子を満足げに見ながら本棚へ向かう。分厚い資料を幾つか手にして机に戻った。
「……今、だな。すんなりと出て行ってくれて良かったよ」
そこに書かれているのはダンジョンの資産価値。
この男ハービーはダンジョンを売ろうとしているのであった。
基本的にダンジョンは管理運営することで利益をもたらす。しかしこの管理運営は必ずしも国や世界ダンジョン管理運営委員会、冒険者ギルドがやらないといけないというわけではない。
管理するだけの価値がないと判断すれば国や冒険者ギルドなどは管理しなくてもよく、また個人が買い取れば個人財産として認められる。
しかしこの男が行おうとしているのは国有ダンジョンの売却だ。
通常このようなことは認められない。
「すでに売却手続きは済ませた。後は、奴らに売るだけだな」
そう言いながらハービーは椅子に背を預けた。
現在スタの町にある『シルクのダンジョン』の資産価値は高い。
売却することで得られる利益は膨大になる。しかしこれは「ハデルがダンジョン管理人をしていたら」ということが前提だ。
何故ならばダンジョンから出ていた素材はハデルの
それを知らないハービーは安心したのか「ふぅ」と大きく息を吐き手を
それを見るとハービーの顔が大きく
そしてそれを隠すかのように書類を積み重ねていった。
「……早く売らなければ。借金が」
拳を作り強く握る。そんなハービーの顔に、いつの間にか汗が垂れていた。
ハービーは「シルクのダンジョンにかかる人件コスト削減」を理由に人事に手を回しハデルをクビにした。その後も裏で手を回しダンジョンを売却する手はずを
かなりの危険を
まだ優しい借金取りならここまで焦らなかっただろう。しかし今回彼が借金を借りているのは裏家業の中でも危険な部類。最初は相手を知らずに借りてしまったが、後で本当の名前を知らされると逃げることすら困難な状態になってしまっていた。
彼の
それを彼はダンジョンを売ることで
書類を直し終わった彼は立ち上がり部屋を出る。
突然現れた上司にハービーの
そんなハービーを見た三十後半の制服姿の女性が目を見開く。
「何でしょう。あのハービーが挨拶? 気持ち悪い」
彼女は体をぶるっと震わせ足を進める。
自室に着くと先ほどのやり取りを思い出した。
「……。何か良からぬことでも考えているのでしょうか? 」
と椅子に座った状態で考える。
直感が何か訴えている、と感じた彼女はすぐに魔導通信タブレットを取り出し連絡する。
少し時間が経つとノックの音が部屋に響いた。
「お呼びでしょうか? 『エマ・リッツ』ダンジョン管理局局長殿」
「ええ。実は貴方に調べて欲しい事があるのです」
そう言いエマは金色の瞳を輝かせた。
★
一方その頃スタの町のダンジョン、コアルームでは。
「わ、わからない……」
ダリが頭を抱えて
彼は時々この部屋に入りハデルの補佐をしていた。なのである程度ダンジョンコアについて知っている。
しかし実際に動かすと全くもって訳が分からなかった。
「ダンジョンコアを動かすところまではわかったんだけど」
そう言いながら彼は周りを見渡した。
今彼を困らせているのがこの——ハデル以外の人から見ると意味不明な——魔法陣や術式。
ダリは一通りダンジョンコアを使うところまでは出来たのだが、ダンジョンの力を
「全く分からない……。というよりも魔力量が足りなさすぎて動かせない。一体ハデルさんはどれだけ魔力、持ってたんだ」
ダリは独り
彼はダンジョンコア経由で魔法陣に魔力を込めようとしたが、すぐに限界に
そしてすぐに顔を上げた。
「これは無理だ。すぐに連絡しよう」
そう言いコアの隣に置いてある魔導通信タブレットを手に取る。
上司ことハービーの連作先を押そうとした瞬間手を止めた。
(ハデルさんをクビにしたのはこいつだよな……。本当にこいつに連絡していいのか? )
常識的に考えると、現在の上司であるハービーに連絡するのが普通だろう。
しかし相手は現場を見ずにハデルをクビにしたものである。
ダリは戸惑い深呼吸すると、上の
(ならば局長に連絡? いや流石に局長に連絡は……)
どちらに連絡するか迷うダリ。
結局の所彼はその日連絡が出来なかった。
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