第48話 魔王として

 魔国で衝撃的な事件が起こった。

 それはアベルの町の冒険者ギルドとコズ商会がダンジョンに対して不当な契約をむすんでいたということだった。

 それに加え更に衝撃を与えたのはこの二つの組織が違法奴隷売買の当事者であったということだ。

 情報伝達が速いこの世界に置いてその衝撃はすぐに国中に伝播でんぱする。

 断罪だんざいの声が上がる中魔王リリスは一言国民に告げた。


『首を落とすだけでは優しすぎる』


 と。


 魔王リリスの容赦ようしゃのなさは国の誰しもが知っていることだ。

 それこそ騒いでいる子供がいると「悪い事をすればリリス様に怒られるわよ」とさとされすぐに収まるほど。


 魔王リリスは慈愛の魔王であると共に恐怖の代名詞。


 その彼女が殺す程度では生ぬるいと言ったのだ。国民が黙らない

 彼らは日常に戻って行く。

 せめてより痛みを伴う処刑法で殺されることを望んで。


 ★


 魔国というのは特殊だ。

 魔界では実力主義が一般的なのだが魔国は率先そっせんして弱者を護る。


「これで少しは落ち着いてくれるといいのじゃが」

牽制けんせい程度にはなったでしょう」

「弱気を護る。共感し、その意思をいでこの座にいたのじゃが……難しいのぉ」

「国民による犯罪率は低いですが、その分犯罪組織の横入りが多いので……。こればかりは時間をかけないと不可能かと」


 リリスとシュラーゲンが魔王城を歩いている。

 すれ違う者達が頭を下げ、リリスが手を上げ挨拶する。


「ま、ハデルに逮捕権を与えた。これでいくらかはわらわの負担が減ると思うが」

「よろしかったので? 」


 シュラーゲンが不安そうにリリスに聞く。

 そして更に続ける。


「彼の者は長命種。その者に独立した逮捕権を与えるということは長い目で見ると不安材料にしかなりません」

「確かに一理いちりある。しかし犯罪組織に取り込まれるよりかはマシじゃろ? 」

「あれほどの戦力が敵に回るよりかは、確かに良いですが……」


 宰相さいしょうとして様々な考えがシュラーゲンを襲う。

 メリットとデメリット。双方を考え、溜息をついた。


「すでに与えてしまいましたし後戻りはできない、ですな」

「そう言うことじゃ」


 二人は一階に降りる。

 敬礼をする兵士に手を振って城の外に出た。

 その足で事務室のようなところへ向かう。

 中に入りそこのおさらしき人物と少し話す。


「情報は吐いたのかの? 」

「申し訳ありません。どうやら下っのようで」

「これだけの事件を起こしておいて下っ端か。まだまだ深いようじゃの」

「その通りでございます」


 と頭を下げる。

 この国には幾つもの犯罪組織が入っている事をリリスはつかんでいた。

 それを追っているのだがいまだに全容ぜんようが見えてこない。

 がゆく思うも一瞬。

 すぐにその男に指示を出し、リリスとシュラーゲンは牢獄ろうごくへ向かった。


 多くの囚人しゅうじんが入るこの魔王城の牢獄。

 各町にも犯罪者を入れるための牢屋はある。しかし魔王城にあるこの牢獄はとりわけ悪性の強い犯罪者達を収容していた。


 魔王リリスが中を歩く。

 それまで騒いでいたのが急に静かになる。この牢獄においてもリリスが恐怖の代名詞だ。何か下手なことをすれば地獄のかまなまぬるいと感じるような苦痛を与えられることを知っているのだ。

 カツンカツンとヒールの音を鳴らしながら先に進む。

 そして目的の場所に着くのであった。


「お主達。よくもやってくれたのぉ」


 リリスの前にいるのはアベルの町の冒険者達にレド、ゼク、コズとその部下達、そして町長のギュンターであった。

 リリスの言葉に顔を上げる。

 しかし全員ハデルと顔を合わせた時のような溌剌はつらつさはなく、亡霊ぼうれいのような顔をしていた。


「妾の国でこれだけの悪徳あくとく。処刑など生ぬるい。一先ず地獄を味わってもらおう」


 そう言い彼女は手をかざす。


上位悪魔召喚サモン・グレーターデーモン: 拷問官トーチャーズ


 ろうの向こうに幾十の魔法陣が現れる。

 そこから人数分の悪魔が現れ、リリスに頭を垂れた。


「そこのおろか共達を死なない程度に好きにするが良い」


 そう言い残しリリスは去る。

 彼女達がいなくなると拷問官トーチャーズめいじられたとおりに働き出す。

 囚人達も耳をふさぎたくなるような悲鳴が上がるが、これはまだ地獄の入り口。


 この牢獄に囚われた者達は皆思う。

 

 犯罪をするくらいなら組織に向かった方がマシだったと。


——

後書き


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 ラスト1話はあの人に締めていただきましょう!!!


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