第49話 元上司サイド 堕ちていくハービー 2

 ハデルの元上司『ハービー・ジャクソン』はスタの町へ馬車で移動した。転移屋を雇うという選択肢もあったが雇う金がなかったのだ。


 慣れない馬車にられたせいかハービーは馬車にっていた。


「これだから馬車は」


 そう愚痴ぐちりながら相乗り馬車を降りる彼。

 痛む尻をさすりながら外に出ると、風が肺の空気を入れ替えた。

 幾らか気分が良くなったところで先に進む。

 少し歩いたところで呼び止められた。


「ハービー……さん」

「? 誰だね。私を呼ぶ君は」


 目の前にいるどこかやつれた顔をした男性に聞き返す。

 その瞬間空気がピリっとするが、彼の溜息ためいきと共にやわらいだ。


「そうだ。貴方はそう言う人だ」

「だから誰だね」

「俺ですよ。貴方がシルクのダンジョンの管理人に指名した『ダリ』ですよ」

「! 」

「というか声でわからないとか……阿保あほ過ぎでしょう」

「貴様がっ! 貴様のせいで!!! 」


 とダリの胸倉むなぐらをつかみ押し倒そうとするハービー。

 しかしそれは実行できなかった。


「何だ! 貴様は! 」

「ダンジョン管理局のハービー・ジャクソンだな。話は聞いている。これ以上やるのならば町の平穏へいおんみだしたとして詰め所まで来てもらうことになるが」


 そう言われすぐに掴んだ胸倉を離すハービー。

 そして掴まれた肩の方を向き、驚く。


 人人人人……そして人。


 知らない間に彼は町人に囲まれていた。


「わ、私なんかよりも、あいつらを捕まえないか! 」

「彼らは何もしていません。しかしきさ……貴方は今この青年に暴力を振るおうとしていた。どちらが捕まるか、その足りない頭でも分かりますよね? 」

「くっ! 」


 衛兵えいへいに言われて苦虫にがむしつぶしたような顔をするハービー。

 そしてその様子を見ていたダリが言う。


「……分かりましたか? 今貴方はとても危険な状態なのです」

「な、何故?! 私はダンジョンの様子を見に来ただけなのにっ! 」

「良いからついて来てください。ダンジョンの様子を見るんでしょう? 」

「い、いや。今日の所は一旦帰って——」

「今日ここから王都へ向かう馬車の便びんはもうありません。行きますよ」


 これから逃げ出そうとするハービーを無理やりつかみ、一礼して離れて行くダリ。

 町を歩く時、まるで極悪な犯罪者を見るかのような目線を浴びながら、ハービーはダンジョンへ連行されていった。


 ★


 ハービーはダンジョンの中に入ると一息ついた。

 そしてダリ以外に誰もいない空間で叫ぶ。


「何なんだね! あの俺に対する目線はっ! 全くこれだから無知な奴らはっ! 」

「無知なのはどっちですかね」

「なんだと! 」

「良いですか? 一つ教えておきましょう。今日この町から王都に行く馬車はありません。そしてあんたを止める宿もありません。そして今日貴方はこの町で野宿しないといけません」

「何故この俺が野宿を?! 」

「当たり前でしょう。今起こっている町の物流の混乱の元凶げんきょうなのですから」

「な……」


 それを聞き、唖然あぜんとする。


 (私が物流混乱の元凶?! 一体どういうことだ! )


「殺されないと良いですがね。まぁ行きましょう」

「どこにだね?! 」

「ダンジョンの中を、見に行くのですよ。ダンジョン内転移」


 その言葉をきっかけに二人はボス部屋に転移した。


 蒼白い光が収まった先にハービーが見たのは巨大なミノタウロスだった。

 筋骨隆々で「ふしゅぅ」と息を吐いている。

 それを見て「ひぃ」と声を上げダリの服のすそを握るハービー。

 単なる文官な彼はミノタウロスを見るのが初めてだった。


「ミノちゃん。連れてきよ」


 ダリが声をかけると「ブモ」と返事をする。

 ミノちゃんことこのダンジョンのボスであるキング・ミノタウロスは玉座から腰を上げてゆっくりとハービーに近寄った。


「だだだ、大丈夫なのかね? 」

「大丈夫ですよ。ミノちゃんは敵以外に攻撃をしません」


 体を震わせながら近寄るミノタウロスを見て「そうかね」と返事をする。

 ダリの服から手を放してネクタイを整える。

 が次の瞬間――。


「へぶしっ! 」


 一瞬で距離を詰めたミノちゃんの拳で吹き飛んだ。


「ブモォォォォォ!!! 」


 怒っている、ともとれる声を上げて吹き飛んだ先に行く。


「な、なに……が」


 ミノちゃんの絶妙な力加減により即死をまぬがれたハービーは鼻血を出しながら部屋に響く足音を聞く。

 体を起こそうとした瞬間次の拳が襲ってきた。


「ブモ、ブモ、ブモ、ブモォォォォォォ!!! 」


 ゴゴゴゴゴ、という音を立てながら何発もパンチを顔面に食らう。

 何が起こっているのかわからないままボコボコにされたハービーは安全装置によってダンジョンの外に強制転移させられた。


「いえ~い! 」


 手を上げたダリに手を「パシン! 」と合わせるミノちゃん。

 相当鬱憤うっぷんたまっていたようだ。


 ★


「……生きている」


 ダンジョンの外に出されたハービーは生きていることに驚いた。

 少しぼーっとし我に返る。

 肩に腕に体を動かし異常が無いか調べた。


「あいつ……。よくもっ!!! 」


 ハービーはミノタウロスを仕掛けられたのを思い出して怒りがき出てきた。

 地面から立ち、顔を赤くし、再度ダンジョンへ向かおうとする。

 が先ほどの恐怖がよみがえる。

 体が震えダンジョンに入るのを拒む。

 そして「ふぅ」と息を吐き反転した。


「帰ったら王都に帰ったら即座に懲罰ちょうばつを——「いた」」


 聞き覚えの無い声がハービーにかかる。

 冷たい声に体をビクンとさせて声を止めた。


「スタの町に来てるって本当だったんだ」

「よかったぜぇ。そのまま逃げるかと思ったからよ」

「探す手間がはぶけた」


 いつの間にかハービーは囲まれていた。

 しかし相手の顔が見えない。


「だ、誰だ」

「俺達だよ」

「君の取引先」


 それを聞き恐怖で顔がゆがむハービー。

 しかしそれを気にする様子もなく黒いローブを着た集団は話をつづけた。


「よくもまぁ僕達をだましてくれたよね」

「こりゃぁいけねぇ。嘘つきは泥棒の始まりだ」

「まぁ俺達も泥棒の一部だから人の事は言えないんだけどね」

「こりゃぁ一本取られた」


 ははは、と場違いな軽快けいかいな笑い声が上がる。


「でよ。使いもんにならなくなったこのダンジョンだが」

「ボスはもういいってさ」

「価値のないダンジョンにこだわる必要はないんだって」

「え……」


 そう聞き呆けた声が出るハービー。

 だが次の言葉で一気に落とされる。


「だからよ。支払ってもらうぜ。貴様の体でなぁ!!! 」


 その言葉を機にハービーの意識はり取られる。

 その後のハービーを知る者はいない。


 そしていつの間にかハービーは自主退職したことになっていた。


 <完>


———


 最後までお読みいただきありがとうございました。


「~町一つを救うまで~」とある通り、これにて一先ず終幕となりますが如何でしたでしょうか。

 少しでも楽しんでいただけたのならば書いた者として嬉しく思います。


 これからも作品共々よろしくお願いします。


 最後になりましたが【★】をポチッと押していただければと思います。


 ではまた機会があれば異なる作品でお会いしましょう。


 蒼田

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チートなハイエルフに転生した俺は職場を解雇されてスカウトされる ~ダンジョン管理人の俺が町一つを救うまで~ 蒼田 @souda0011

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