第37話 ハデルは新しい職場を攻略する 3

 いきなり現れた紅い髪の女性に帰ってくれと言われた。

 俺達は顔を見合わせ首を傾げる。

 そして再度彼女を見ると「ひぃ」と悲鳴を上げて少し震えている。


 身長は高く俺くらいの身長で、胸がデカい。

 震えながらも金色の瞳を俺に向けてくるが、片方は長く赤い前髪に隠されている。赤と黒のドレスが特徴的だが、震えるその姿に似つかない。


 何というか……色々とバランスが悪い子だ。


「魔族? いや炎魔族かな? 」

「……聞いたことない種族だ」

「元素魔族は希少だからね。人界で知られていないのも無理はないよ」


 そう言いながらサラシャが俺に説明する。


「炎魔族は火力に特化した火魔族よりも更に高い力を持つ魔族だよ」

「……なら彼女は冒険者か? 」

「炎魔族の冒険者というのは聞いたことがないね」


 そう言いサラシャは彼女の方を向く。


「ボク達この先に行きたいんだけど」

「こ、こ、この先は……と、通しません! 」

「なんでさ。もしかして冒険者? 」

「ち、違いますが……。で、でもダメなんです! 」


 弱々しいが、どこか強い意思を持って俺達に言う炎魔族の女の子。

 困ったな……。

 通さないと言われても。


「理由を聞かせてくれ」

「ち、近づかないでくださいぃぃぃ!!! 」


 俺が一歩前に踏み出し話し合おうとすると、彼女が——発火した。


「わっ! 」

「マジか! 」


 火がいきなり俺達を襲う。火は周りに飛びり山火事を起こしながら、俺達に迫って来た。

 まさかの不意打ちに驚くがすぐに対処。


水壁ウォーターウォール


 巨大な水壁を作ると、火とぶつかった。

 きりが出来る中、俺達は距離を取った。


「あっつ! どんな温度をしてるんだよ! 」

「肌が焼ける! 」

「これなら氷にしておくべきだった。冷却クールダウン


 熱せられた蒸気をすぐに冷ますと水壁が消えた。

 その向こうには元凶げんきょうがあわあわとしている。


「こんにゃろう」

「どうする? 冒険者じゃないみたいだけど」

「ボコる」

「……女性だよ? 」

「確かに俺は女性に優しいと自負じふしているが、無抵抗でやられるほどではない」


 俺がそう言うと「意外」とサラシャが言う。

 彼女を護るように立っているパシィが俺に聞いた。


「相手は一般人のような気がしますが」

「賊の可能性もあるだろう? 今攻略中とか」

「ふむ。それならばこの前ボコボコにした冒険者の一味、と言う可能性もありますね。やけを起こしてらしに来たとか」

「引きるなぁ。そのネタ」


 パシィの言葉に肩を落とした後、気を引きめる。


「二人共。下がっていてくれ」

「え? ボクも戦うよ? 」

「近接戦闘がメインのサラシャは近づけないだろ? それにパシィはサラシャの護衛が必要だ」

「ではよろしくお願いします」


 パシィの返事を聞いて俺は飛行フライで、上空へ飛んだ。


 ★


 上空から炎魔族の女性を見下ろす。

 未だにオロオロしながら炎を放っている。どうやら自分の炎に熱を感じないようだ。

 そして俺に気付いたのか上を向く。

 目が合うと更に炎を燃えさからせていた。


「これだけ見ると単なる災害だな。ダンジョン内で死んでも外に出されるだけだからうらむなよ? 」


 そう言いながら俺は空中で停止し、魔杖を下に向けた。


氷塊降雨アイシクルレイン


 小さく青い魔法陣が無数に現れる。

 そこから氷が出現し、「ドドドドドド」と言う音を立てて、広範囲に降り注ぐ。


「マジか! 」


 しかし俺の攻撃むなしく彼女の周りの氷は全て溶けてしまった。


「や……、やめてくださぃぃぃ!!! 」


 そう言い彼女は炎を俺に放ってきた。


「止めてくれ言うなら、攻撃するな! 」


 そう言いつつ高速で空中を移動し、迫ってくる炎を氷塊で迎撃する。

 氷は溶けるものの、高密度の魔力が込められた氷のおかげあってか、動きが少し止まる。

 その間に連続で氷塊ひょうかいを打ち込み押し込んでいく。


『おれっちの力が必要か、マスター』


 頭の中にロッソの声が響いて来る。

 氷塊で炎を押し込めながらも「頼む」とだけ伝る。

 すると背中のリュックサックからロッソが出てくる気配がした。


「母なるダンジョンよ! 我が願いに答えヨ!!! 」

「オーケー! マスター! 」


 ロッソが変形する。

 そして俺は精霊魔杖『ロッソ』を手にして攻勢こうせいに出た。


 ★


「その体の火ごと鎮火ちんかさせてやる! 水創生」


 空中にゼロ度に近い水を大量発生させる。

 魔杖ステッキを下に向けて——「数多ノ蛟あまたのみずち」——放つ。

 標的を押しつぶそうと水蛇が火に食らいつく。


 ジュワァァァァァァという音を立てながら火はどんどんと食い破られて行く。

 残った水蛇は地面に向かう。

 炎を出してどうにかしようとするが水蛇は止まらない。

 彼女を水蛇がおおい、戦いは終わった。


「終わったぞ」


 終わったことを確認するため降りた。

 他二人を呼びながらあの炎魔族とやらがいた場所に向かう。


「脱出した? 」

「みたいだな」


 俺に追いついたサラシャがそう言う。

 俺は水溜まりを見て一人思った。

 炎魔族か。物凄い火力だ。下手なダンジョンボスよりも強かったな。


「これが噂に聞くダンジョンの安全装置なのですね」


 パシィが追い着きそう聞いて来た。

 彼女は隣で誰もいない水溜まりを見て言う。それに俺が頷く。


 踏破済みダンジョンはコアルームで安全装置なるものを設定することができる。

 これはダンジョン内での死亡・怪我・異常状態などを無効化するというもので、管理者が安全な素材採取のために設定する。

 怪我とかはダンジョンの外に出れば治るようになっており、死亡時は外に強制脱出させるようになっている。しかも全てが無効化された状態で。


 踏破済みダンジョンが何故そんなことをできるのか現在明らかになっていない。

 しかし多少わからない事があっても有効活用するものは有効活用するというのはどこの世界でも同じようで。

 もしかしたら世界ダンジョン管理運営委員会で何か掴んでいるかもしれないが、俺は仕組みは知らない。


「それにしてもなんだあの力。歩く災害だぞ? 」

「……それハデルが言う? 」

「ハデル様におきましては鏡を見てご自身の二つ名を良くみしめた方が良いかと」


 辛辣しんらつぅ!

 だが言い返せない。


「ま、まぁ行こう」

「誤魔化したね」

「誤魔化しましたね」


 そう言いつつも二人は俺について来た。

 探索サーチを行い、残りのモンスターを討伐しながら、次の階層へと進んだ。

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