第38話 ハデルは踏破し職員と顔合わせをする

 転移した先を少し歩くと巨大な扉が一つあった。

 それを見上げながらぽつりとつぶやく。


「……ダンジョンの機能のほとんどをボスに向けているのだろうか? 」

「どうしてそう思われるので? 」


 パシィが俺の呟きを拾う。


「いや魔力に満ちたダンジョンなのにたったの五階層だから、な」

「確かに味気あじけなかったですね」

「……パシィの場合は意味が違う気がするが……、まぁモンスターにしても素材として使えるモンスターは一部だった。ならば他からの侵攻にそなえてダンジョンボスに力をそそいでいるのかな、と」

「それはフリかな? 」


 俺が推察すいさつするとサラシャがにやけた顔で俺を見る。


「強いよ、強いよ、強いよ……からの~、残念ってね」

「いや流石にそれは無いだろ」


 サラシャの言葉を即座に否定する。

 フリじゃないぞ? フリじゃないからな?

 だがそう言われれば、なんだかそんな気がしてくるから不思議だ。


「ま、行ってみるか」


 雑念ざつねんを振り切り扉に手をやる。

 大きな扉がギギギと音を鳴らして開くと、俺達は中に入った。


 ★


「ブモォォォォォ!!! 」


 目の前にいるモンスター——キング・ミノタウロスを前に、俺とパシィは冷たい目線をサラシャに送っていた。


「ボ、ボクのせいじゃないよね?! 」


 それでも送る冷たい目線。俺達の目線に耐えかねたのか少し目がうるんでいる。


 しかしこれは前振りのせいといわれても仕方ないだろう。

 いやサラシャのせいではないことは分かっている。だがしかし、幾らこのダンジョンを運営している者がそう設定したと言われても、前振りのせいと思わざるえない。


「ブモォォォォォ!!! 」


 ドンドンドン、と足音を鳴らしてキング・ミノタウロスが近寄ってきているのがわかる。

 しかし俺達はサラシャに冷たい目線を送るのをやめない。

 そして——。


「邪魔だ」


 ズドォォォォォン!!!


 硬化の魔法で鋼鉄以上の硬度にした魔杖ステッキを一振りし、壁に吹き飛ばした。


「よぉし。どんな奴がこんなふざけたダンジョンを作ったのか、見に行こうじゃないか! 」

「『大災害』の前では『キング』も形無しですね」

「ボクのせいじゃないよぉ……」

「コアルームじゃ! コアルームに押し入ってやる! 」


 俺は魔杖を肩にし大きく叫ぶ。


「……外から見るとハデルが悪役に見えるよね」

「不思議ですね。挨拶に来ただけなのに」


 サラシャとパシィの呆れ声が聞こえてくる。

 それを気にせず出てきた魔法陣に乗りコアルームに押し入ろうとすると、そこから何かがぶつかった。


「ままま、待つニャ! 待つんだニャ! 」

「ダダダ、ダンジョンでのこれ以上の狼藉ろうぜきは許しません! 」

「お、お、お、お助けぇ! 」

「じゃ。説明してもらおうか」


 どうやら俺のおどしが効いたようだ。


 ★


 こちらが何ものか説明し、納得してもらった所で、俺達はダンジョンコアがあるコアルームに転移した。


 中に入ると真っ白い内装ないそうが目に入る。その奥にはダンジョンコアがあり、コアの隣にはモニターのような青い画面が映し出されていた。

 リーダー格の爆乳牛獣人とその仲間が俺達とダンジョンコアの間に回り込み、「コホン」と軽く咳払いをし、自己紹介を始めた。


「私は『カタリナ・ホルシュタイン』です。これからよろしくお願いします。新しい管理人殿」


 腰に手をやりばるんと胸をたゆませて彼女は言った。白黒うしさんセパレート衣装を着ている彼女はどこか几帳きちょう面な雰囲気を受ける。


「にゃはは。今日はヒヤッとしたにゃ。僕は『ナンシー』だにゃ。よろしくだにゃ」


 主語が若干サラシャと似ている猫獣人の彼女はへそ出しルックなシャツを着、下にはホットパンツとニーハイをいている。髪は短く茶色い。言葉にも張りがあり元気いっぱいな感じを受けた。

 そして——。


「わ、わ、わ、わたしは、リ、『リナ・クトゥ』……です」


 部屋のすみっこで自己紹介をする彼女は俺達を襲撃した炎魔族。まさか運営者側だったとは。

 震える彼女をみていると俺達が何か悪い事をしたような気になる。


「リナのことは諦めるにゃ。彼女はいつもこんな感じにゃ。むしろ炎を放出したおかげで今月は暴走の——」

「ナンシーちゃん! 」

「にゃっ! ごめんにゃ……」


 突然声を上げたリナに謝るナンシー。

 まぁ誰にでも秘密はあるから咎めないが……それにしてもこのメンバー。服装が自由過ぎないか?


 閑話休題かんわきゅうだい


「……ダンジョンコアを壊されるのではないかと勘違いしリナに襲撃させたのは謝ります」


 カタリナが頭を下げ立派な角を俺の方に向ける。


「しかし! この神聖なるコアルームでの不純異性交遊は認めません!!! 」

「「??? 」」」

「その異性を誘惑するような服装! とてもではないですが見過ごせません! お着替えを」


 ……、お前が言うか?


「な、なんですか。皆さん。非難するかのような目で私を見て! 」

「……カタリナは人のことは言えないにゃ」

「……(コクコク)」

「ナンシーにリナまで?! どうして?! 」

「むしろその姿でよく人の事を言えたにゃ」

「ボクの服装が駄目と言うのなら、カタリナの服装はもっと駄目だと思うね」

「ええっ! 」

「驚いてもな……。まぁ服装については何も言わんがそもそも服装が自由過ぎるだろ」

「「「ええ?! 」」」


 自由過ぎるだろ、公務員。

 いやこれも魔界ならではか。


「まぁいい。一先ず……、このダンジョン設計したのは誰だ? 」

「私です! 」

「……だと思ったよ。委員長」

「委員長とは何ですか! これからは副委員長です! 」


 顔を近づけ息荒く言う。

 意味がちげぇ。

 いやこれも含めて委員長だな。


「まず……。俺達が来るのは知っていたか? 」

「知っておりました。新しい管理人の方が来ると国から通知が来ていましたので」

「で、なんで俺達が来ることになったかは知ってるか? 」


 俺が言うと三人が首を傾げる。サラシャとパシィは少し苦笑いし俺が伝えた。


「経営が行き詰まってるからだ」

「そのようなことはありません! 」

「そうは言ってもこのダンジョン、破棄寸前すんぜんらしいぞ? まだ詳しい数字を見てないからどの程度かわからないが、少なくともリリス女王がそう判断するほどにはヤバい状態だぞ? 」


 そう言うと「ぐぬぬ」と引き下がる委員長。


「でだ。一階層の雑魚ざこモンスターの群れは何だ」

「ダンジョンと言えば障害でしょう! 」

「あほか! 」


 スパン! と彼女の頭を叩く。

 いきなりの行動に全員が驚く。

 しかし俺はやめない。


「素材になるモンスターならまだしも素材にならないモンスターを配置してどうする! 」

「しかしお約束が……」

「お約束もくそもあるか! ダンジョン経営めてんのかぁ?! ああ“? 」

 

 カタリナが涙目で見上げてくる。


「……はぁ。他の階層はまだいい。ある種の一般的な階層だからな。だが少ない階層にするならもっと質の良い鉱物や素材を出せるだろう? どうして出さない? 」


 俺が責めるようにカタリナを見る。すると隣からナンシーが聞いてきた。


「……設定を変える方法があるのかにゃ? 」


 それを聞き俺は天井をあおいだ。

 Oh……my god.


「一応の管理人代理は」

「……私です」

「そっか。管理人代行でもその権限の中で排出するモンスターや鉱山を変化させることができるのは? 」

「……知りませんでした」

「ギルティ!!! 」


 俺はそう言い、一先ず書類を見せてもらうことにした。

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