第28話 ハデルは町長に挨拶する

「失礼しました」


 アベルの町の職員が部屋を出て行った。

 それを見届け前を見る。

 そこにはソファーに座った歳を取ったねずみ獣人の男がおり少し緊張した顔で俺を見ていた。


「初めまして。私この町を任されている『ギュンター』ともうします」


 少し前かがみな町長ギュンターはそう言った。それに応じて俺とサラシャそしてパシィも自己紹介する。

 すると緊張のせいか顔色が少し悪くなっていた。

 まぁ……、俺はともかく王女様がいたらそうなるよな、と思いつつも「コホン」軽く咳払い。

 一先ず軽いジャブから。


「ギュンター町長。今日から私ハデルがダンジョンの管理運営を任されるのですが、ダンジョンと町は共存関係。失礼ながらあまり町に活気があるように思えないのですが、原因に心当たりは? 」

「……この町に活気がないのは私が赴任ふにんする前からなのです」

「というと? 」

「実は……」


 と目を右に左にちょろちょろさせて、き出る汗をきながらギュンター町長がこの町の歴史を教えてくれた。


 この町はダンジョンが攻略されることで形成された町とのこと。

 最初は職人に商人に様々な人が集まり活気があった。

 しかし他のダンジョンにシェアを奪われどんどんと人が出て行きさびれていき、現在にいたる、と。


 嘘くせぇ~。


 もう何というか目の動きに汗の量に。

 これで嘘をついてない方がびっくりだわ!


「……なるほど。町長が来る前からですか。しかし俺が来たのでご安心を。ダンジョンの経営を立て直して見せます。きっと町の状態も良くなるでしょう」


 そう言いながら席を立つ。

 サラシャ達も早く出たいような雰囲気を出している。


「か、可能なので? 」

「出来なければこの町が終わるだけですよ」


 そう言い残し俺達は扉の方へ足を向ける。

 少し行ったところである事を思い出し、村長に聞く。


「そう言えば……町長。この町の治安についてどう思います? 」

「……? 非常に良いと思いますが」

「そうですか」


 それだけ聞いて俺は扉を開けた。


 ★


 町役場の廊下を歩く。職員らしき人がすれ違う。

 そんな中サラシャが俺に聞いて来た。


「どうして町の治安の事を聞いたの? 」

「いやあんな冒険者がいたからな。どう考えても治安が悪いだろうと思ってな」

「そうとは限らないんじゃない? ギルドの建物の中だけとかさ」

「有り得なくはないが、今回はそれはないだろうな」

「それはどうしてでしょうか? 」

「あいつら「金目の物をおいていかないと町でどんな目にあうかわからない」と言ってたからだ」

「「あぁ~」」


 両隣から思い出したかのような声が聞こえてくる。


「しかし実行するとは限りませんよ? 」

「そうかもしれないが、ここは実力社会魔界の町だろ? 明らかに力のある武装集団が町人を襲わない? ないな」

「そこまでおろかではないと……」

「おいおい同志パシィ、忘れたのか? あいつらサラシャを置いていけと言ったんだぜ? 」

「今すぐギルドを真っ二つにしに行きましょう」

「や、やめてよ。無事だったんだからさ」

 

 スカートに手を突っ込みバスターソードを取り出そうとするパシィをサラシャが止める。

 少し後ろから「サラシャ様。私を止めないでください! 」「そ、それはまずいよ! 」などと聞こえてくる。

 本当にこの二人は仲がいいよな、と思いつつも更に歩く。


 彼女達から目を放して前を向くと視界が開け、少し前に階段が見えてきた。

 木で出来た手すりに近寄り、がやがやしている一階を見下ろし離れ、俺は階段を降りた。


 これがもし人界ならば違ったかもしれない。

 本当の所はわからないが、極端きょくたんなことを考えると冒険者達が町人を襲い、町の人口が減った。そこから町の雰囲気が悪くなった、と想像することもできる訳で。


「それに治安の事を聞いたのは別の理由がある」

「? 」

「ここに来る途中に警備兵のような人が見えなかった」

「あ、確かに」

「不自然ですね」

「門番はいたが……警備兵や巡回している衛兵のような人が見えない。普通はあり得ないだろう? 」

「悪い事をしている・していないかかわらず、冒険者がいるもんね。彼らが問題を起こさないか見張る人がいないなんておかしいね」

「だろ? ま、冒険者の事を置いておいても町人が犯罪を犯さないとは限らない。それを抑えるための人員が見えなかった。そして町長の「この町の治安は非常に良い」発言だ」

「怪しいね」

「今から切りに行きますか? 」

「止めとけ。こっちが犯罪者になる。俺達はあくまでダンジョン管理を任されただけ。もし不正があれば魔王リリスに直接言えばいい」

「激怒するだろうなぁ。母上」


 サラシャがそう言う。隣で苦い顔をしているのが想像つく。

 カツカツカツと螺旋らせん階段を降りながら一階へ着く。


 そのまま俺達は外に出ようと足を向けたのだが、職員の一人に止められた。


「サラシャ王女殿下、ハデル様、パシィ殿でしょうか? 」


 振り返り、俺達は頷く。

 すると「少々お待ちください」とだけ言い、彼は受付台の向こう側へ行ってしまった。

 何だろうかと思っていると、また俺達の方へ彼が来てかぎのようなものを持ってきた。


「こちらは職員りょうの鍵になります。宿舎しゅくしゃはこの建物の隣になります」

「俺達は町の職員じゃないが」

「先代のダンジョン管理人も泊まられておりました。問題はないかと」

「なら借りていくよ」


 彼から鍵を受け取り、仕舞う。

 お礼を言って俺達は外に出た。


 ★


「ここが職員寮、か」

「……本当にここに住むの? 」

「怪しい町長が治める町の職員寮。明らかに何かあると思うのですが」

「あるだろうな。だが住めるかどうかは一回住んでみてからだ」

 

 どういうこと? とサラシャが小首を傾げながら俺を見上げてくる。

 右目を光らせ建物を見上げる。


「分かりやすいな。あちこちに魔法が張られている」

「ボクそんなところに住むのは嫌だよ?! 」

「だが、そうすると今日住むところはどうするんだ? 」

「町の宿でいいよ」

「町の宿も危ないと思うがな」

「でも無理! 生理的に無理だよぉ」

「同意ですね。むしろわかって住む方がおかしいと思います」

「おいおい同志パシィよ。何を軟弱なんじゃくな」


 俺が呆れてそう言うとパシィがまゆを少し上げた。


「罠がある。ならばそれを逆に利用すればいいじゃないか」

「罠を解除するのですか? 」

「いいや。そのままの意味だ。おいたをするねずみにはおきゅうをすえないとな」


 そう言いながら俺は足を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る