第27話 ハデルは移動する
「反省はしている! だが後悔はしていない!!! 」
「よくそんなこと言えたね」
「流石の私もドン引きでございます」
「パシィにだけは引かれたくないな」
「それはどういう意味かな? かな? 」
「ちょっ! 急に顔を近づけるな! 歩き
冒険者ギルドを出て俺達は町役場へ向かっていた。
俺を非難するように二人が見てくる。それが気まずく少し足を早める。
ペースを上げていると左隣から声が聞こえて来た。
「しかしハデル様があそこまで好戦的だとは思いませんでした」
「まぁ久々に冒険者ギルドで
「だけど良いの? あそこまでボコボコにして。一応冒険者ギルドも収入源の一つなんだよね? 」
痛い
「そうだな……。だが特に困りはしない」
「というと? 」
「今の冒険者ギルドはダンジョンに素材を取りに行く人材を
「うん」
「でダンジョンがある町に店を構える商人達は素材を採りに行ける人材を囲っているだろ? 」
「そうらしいね」
「それらを統合したら、「冒険者ギルドっていらないよな」とならないか? 」
「確かに」
俺がそう言うと隣から納得の声が聞こえてくる。
加えるのならば最悪自分で採り、商人に売ればいい。
俺の場合『精霊召喚:
「ん~」
隣を見るとサラシャが指を
「どうした? 」
「わ、笑わないでね? 」
「? 笑いを取るための話じゃなければ」
俺がそう聞くと腕を後ろにやり少し顔を赤らめ見上げてきた。
「ダンジョンの事で、さ。ちょっと聞きたいんだけど」
「おう。バッチこい! 」
「う、うん。ボクは王城で育ったからよくわからないんだけど、そもそもなんで冒険者や商人達がダンジョンで採取できるの? 」
そうきたかぁ……。中々に着眼点が鋭い。
俺は笑顔で彼女を見て答える。
「そうだな。幾つか理由はあるが一つはダンジョン管理者や国側の人員不足だ」
「人員不足? 」
「あぁ。恐らくサラシャと考えていることは同じだと思うが、国やダンジョン管理者側に人手が足りていれば軍なり国が持つ組織なりを使って採取した方が安定していると思う。実際それで回るのなら失業者の雇用対策にもなるし、何もわざわざ冒険者ギルドが代行する程の事でもない。何せ管理者によってダンジョン内の安全性は確保できているんだから」
「だけどそうじゃないよね? 」
「今も
「が? 」
「これらの利点を吹き飛ばすような、その国その町を害する存在になるようであれば
ニヤリと笑みを浮かべるとサラシャが「なるほどね」と言う。
「商人の目を気にしないのならば魔王リリスに許可をもらい、「国の方針」という建前を作って自分で素材を作り、自分で採り、自分で商人に売りつけることだってできる。完全にマッチポンプだが、盗賊まがいの冒険者ギルドに経営を依存するよりかはマシだ」
「……かなり強引な手だと思いますが」
「そうだな。ま、これは最終手段だ。こんな
パシィの呟きに答えて前を見る。
役場みたいな建物が目に入って来たがまだ距離があるな。
しかしここの町長はどんな人物だろうか。
賊の
町を任されている者として、これらのことを国に報告したのかどうか非常に気になる。もしかしたらこの町ぐるみで犯罪が行われている可能性があることを頭に入れておかないといけなくなった。
町長の事を考えながらも、サラシャに続けて説明した。
「国によって契約は違うが大体が、国営ダンジョンと商人、冒険者ギルドはそれぞれ契約をしている。国営ダンジョンの管理者は国から採掘権を代理人として使用し、入場料や売り上げの一部を回収し、国に納税する仕組みとなっている」
「管理者は町には支払わなくていいの? 税金」
「国によるが……。さてこの国の事は資料を見ないとわからないな」
一通り説明を終えた俺は見えてきた町役場を軽く観察する。
普通の
俺が気合いを入れ直していると、思い出したかのようにパシィが言う。
「しかし冒険者ギルドであそこまでしなくてもと思うのですが」
「中には顔の原型をとどめていない人もいたもんね」
「いやいやお二人共。それは考えが甘い」
「? 」
「通常あの手の
俺がそう言うと隣でサラシャが「そうかなぁ」と小首を傾げている。
「そんなもんだ。それにサラシャに危険が迫るのは俺としても許容できん! 」
「! そ、そっか……。そうかぁ」
「私のことは心配してくれないのでしょうか? 」
「バスターソードでオークをみじん切りにするメイドは心配しなくても大丈夫だろう」
「これでも一応
「ぬかせ」
隣で「嬉しそうにしているサラシャ様。はぁはぁ」と息を荒げながら乙女を主張されてもな。
「ま。後はきちんと支払いをして
「「え? 」」
そう呟いて役場の門番に声をかける。
俺が職員証を出し
門が開き「どうぞ」と誘導される中、俺は足を早めて中へ向かうのであった。
★
「おい! 大丈夫か!!! 」
「誰かポーションもってこい! 」
ハデル達が去った後、冒険者ギルドは混乱する職員と運ばれる冒険者で騒がしかった。
彼らの上司、冒険者ギルドアベル支部のサブマスターがこの状況を知ったのは町の
一先ずサブマスターの『ゼク』は状況を知るために手を打った。右に左に処理に追われる職員を数人引き留め自分の部屋へ呼ぶ。
呼ばれた職員の中、一人が道連れと言わんばかりに審判役だった魔族職員を引き
直接怒気に当てられた審判役の職員は髪が抜け放心状態で何も出来ないが、この状況を説明する良い材料になるということで。
呼ばれた職員達はノックをし部屋に入る。
冒険者ギルドの中とは思えない豪華な部屋の中を歩き、如何にもイライラしているゼクの前で足を止める。
「……
ゆっくりとした、しかし重い口調でゼクが言う。内心それどころじゃないと考えている職員達だったが、最初に黒かった髪を真っ白にした職員を突き出した。
「この者を含め、訓練場にいた冒険者達が
「冗談はほどほどにしろっ! 」
「本当です!!! 」
「三界に三人しかいないEXランク冒険者がこんな
ドン! と大きな音を立てて拳で机を
赤く染まったその顔を見ながら職員達は「また自己完結が始まった」と呆れて引き下がる。
職員達は破壊された訓練場に再起不能になった審判役を理由に
ゼクが怒声を放ちながらストレスを職員達にぶつけたおかげか、ひと休憩するとゼクの顔に余裕が出ていた。
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