第7話 ハデルのセクハラは許される

「な、な、な、なんで物理障壁をすり抜けてんのさ! 」


 驚き叫ぶサラシャ。

 俺の物理耐性を上回るひざ蹴りとは……やるな。


 痛む胸をさすりながら顔を上げる。

 そこには体を護るように両腕を回しているサラシャがいた。

 顔を真っ赤にしている彼女を見つつ、ぶつかった壁に手を掛けて立ち上がる。

 そして「ふっ」とだけ息を吐いてキリッと彼女に告げた。


「俺に物理障壁など効かん! 」

「……それを先にいってよぉ」


 と少しへれて座り込んでしまった。

 少し可哀かわいそうだが挑発ちょうはつしてきたのはサラシャだ。

 最初は胸をんでやろうかと思ったが、流石にやり過ぎかと思ってスカートめくりにした。


 うん。

 淫夢魔サキュバス相手に我慢するとは俺えらい!


 しかしサラシャの落ち込み具合が半端はんぱない。

 まさかとは思うがエロくない淫夢魔サキュバスか?!


「な、なんか悪かったな」


 俺が謝ると苦笑いを浮かべて椅子をつえにし立ち上がった。

 サラシャは俺の方を向いて「ははは」と苦く笑う。


「……挑発したボクも悪いし。良いよ」

「そっか。許してもらえて良かったよ」

「じゃぁ詳しい内容を話し合おう」


 そう言いながら彼女は席に着いた。

 俺も足を進めて席に着く。

 今度は彼女の瞳を見ながら話を進める。


「まず給料とかの細かい賃金だけど、これは魔国の国家公務員の規定きていのっとり支払う、と聞いているよ」

「なるほど」


 この聞きなれた定型ていけい文。みょうに前世を思い出すから気が進まない。

 しかし、まぁ続けよう。

 頷きサラシャに了承りょうしょうを伝えた。


「ボクの役目はハデルを連れてくること。そしてアベルのダンジョンで君の補佐ほさをすることだ」

「今まではサラシャが運営していたのか? 」

「い、いきなり呼び捨てなんて……」

「いやだったか? 」

「い、嫌そんなことないよ。うん。呼び捨てで良い」


 俺が呼び捨て声をかけると慌て赤くなる。

 だが呼び捨てで大丈夫なようだ。


「でさっきの質問だけど答えは「ノー」だ」

「? なら何故? 」

「そ、そこは何だっていいじゃないか。つまりボクも今公務員と言うこと! 」

「なるほど……」


 それを聞き、ある答えに行きついた。


 左遷 させん、か。


 つぶれかけのダンジョンを立て直すためという名目で魔界ではなく人界での人材発掘はっくつ

 それに加えてダンジョンでの補佐。

 これがアベルのダンジョンというダンジョンの運営者ならば左遷ではなく彼女自身の生き残り戦略だったかもしれない。

 だが運営者ではない、と。


 若く美人な淫夢魔サキュバス

 左遷理由は上司のひがみと言った所だろうか。


「なんでそんなあわれみの目線でボクを見るのかな? 」

「……時には泣いていいんだぞ」

「今泣きたいよ」


 しょんぼりするサラシャ。

 しかしすぐに顔を上げて話を元に戻した。


「働く場所はさっきも言った通りアベルのダンジョン。アベルの町っていうのが隣にあるダンジョンだね」

「普通だな」

「ダンジョンがあるからね。町を作ったのさ」

「ならば町の主産業はダンジョンに依存しているってことか」


 話していく間に町やダンジョンの情報をまとめて行く。

 攻略済みのダンジョンの周りに町ができるのは自然なことだ。

 川の隣に都市ができるように資源が隣にあるようなものだからな。


 町を作りダンジョンを運営する。

 ダンジョンから出た資源を輸出しお金を稼ぐ町もあれば、職人を呼んで生産業を盛り上げる町もあれば。

 とダンジョンがあるだけで色々なことができるようになる。


 だから余程の事がない限りダンジョンとの共存きょうぞん関係は崩れない。

 そして共存関係が崩れない限り経営破綻はたんのようなことは起こらない。

 よって今回がどれだけ異常なのかが良くわかる。


 運営がまずいのか、それとも他の理由か。


「で住む場所だけど町に公務員専用の宿舎しゅくしゃがあるからそこに住むようになるとおもうよ」

「便利だな……」

「まぁね。と、こんなところかな。質問は? 」

「……現地に行ってみないとわからない事ばかりだから何とも」


 そう言うとサラシャが「確かに」とほほ笑んだ。


「でいつ出るんだ? 」

「出来るだけ早いと良いね」

「なら明日で良いか? 流石に今日は休みたい」

「大丈夫だよ。元より数週間かけて口説き落とすつもりだったから」


 少しいたずらっぽく微笑んで彼女は席を立つ。


「じゃ、明日この宿の前で」

「あぁ。明日からよろしく」

「こちらこそ」


 そう言い手を振り扉に向かう。

 席を立ち彼女を見送り扉を閉めた。

 扉から離れると声が聞こえてくる。


「ま、魔界ですか! 」

「ブル。起きていたのか」


 魔界に行ってみたいと言っていたブルがこちらを見て少し興奮していた。

 いつもは弱々しく強気に出れない彼女がこうして興奮しているのは珍しい。

 驚いていると隣のベルデが彼女に注意。


「全く落ち着きなさい、ブル」

「う、うん」

「しかし何でブルは魔界に行ってみたいんだ? 」

「ぼ、僕は……僕達は姿をとるまで精霊界のマザーダンジョンをしていました」


 そうだな。しかしそれがどうしたのだろうか?


「そしてご主人様に出会い人界にもきました。なら、行ったことのない魔界に興味が出たのです。魔界はどんなところだろうって」

「そう言われると興味が出ますね。しかし私としてはまだ未発見な人界のマザーダンジョンも気になりますが」

「ぼ、僕も気になるけど。けど、違う雰囲気を楽しむのもいいなって」

「確かにそれは良いな。未知への興味。ある意味この世界で一番冒険者をしているのはブルなのかもしれないな」


 安定することにより冒険者が失った本来の主題テーマ、『未知の探索』。

 心躍る冒険夢見て旅に出る、か。

 こんなブルみたいな冒険者がいたら俺が世界中をけ回ってマザーダンジョンを攻略しなくてもいいのにと、目を輝かせるブルを見て思う。


 俺達が話していると、どこからともなくロッソの声が聞こえてきた。

 しかし場所がわからない。

 どこだろうか、と探っていると風呂があった部屋からリスが出てきた。


「ふぅ……。いいお湯だった」

「……ロッソ。てめぇ!!! 」


 一番風呂を、サラシャと取引している間に取られた俺は体をタオルでくロッソに向かい、怒る。


「全く主様も大人げないですね」


 後ろからあきれた声が聞こえてくるが譲れないものは譲れない。

 彼女をしかり、服を脱ぐ。

 くやし涙を流しながらも肩までお湯につかり疲れをいやす。


 夕食を食べ、ワインを飲み、ふかふかなベットで睡眠をとって、そしてついに出発の時間となるのであった。

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