第35話 ハデルは新しい職場を攻略する 1

 アベルの町を出て少し歩いた所に巨大な洞窟どうくつがあった。


「これですか」

「洞窟型ダンジョンだな」

「大きいね」


 俺の身長の三倍ほどある洞窟をみてサラシャがそう言う。


「ダンジョンとしては中堅くらいってところか」

「いいの? 悪いの? 」

「少なくとも前の職場よりかはかなりめぐまれている」


 そう言い一歩前に出る。

 右目の魔力眼を発動させて洞窟の魔力をはかる。


「魔力も十分」

「良いじゃない! 」

「……これだけのダンジョンで、むしろどうやって経営に失敗するんだ? 」


 サラシャが喜ぶが、俺は首を傾げる。

 これだけ魔力が豊富なダンジョンならば幾らでもやりようはありそうだが。

 それこそロッソ達の力を借りなくても。


「ね、行こう、行こう! 」

「そうですね。ここで立ち往生おうじょうしていてもらちは開きませんし」

「……気になるが、行くか」


 サラシャにうながされるように俺は洞窟の中に入った。


 ★


 ダンジョンには幾つか種類がある。その中でも最もメジャーなものがこの洞窟型ダンジョンだろう。


「洞窟型ダンジョンの特徴はあまりない。特徴がないのが特徴と言っても良いほどだ」

「……そうなの? 」


 サラシャが少しがっかりした声を上げた。

 探索サーチをかけたまま彼女の方を向き頷く。

 気持ちは分からなくないが、踏破とうは済みダンジョンに夢を見られてもな。


「ま、気を付ける点は長物——例えば長剣ロングソードやバスターソードのたぐいは使わない方がいいことや……っと出てきたな」


 暗闇の中暗視ダークビジョンを使いながら俺達は進んでいると、早速反応があった。

 俺の言葉にパシィが武器を構えてサラシャが拳を構えた。


「……俺が先手を取ろうか? 」

「いえここは私が」


 そう言いパシィは短剣ショートソードを構えた。


「……パシィの武器はバスターソードだったような気がするが」

「私は武器となるものならば何でも使いますので」


 前を向いた状態でパシィが言う。

 さらりと言ったが何気なにげにすごい。特に重量の異なる武器を使い分けれるのは。


 アベルのダンジョン初モンスターとあって、少しドキドキしながら待っていると。

 洞窟の奥からモンスターの集団が見えた。

 それは——。


「「ゴブリン? 」」

「ギギギ」

「お任せを」


 俺とサラシャが困惑する中パシィがゴブリンをほうむっていった。

 パシィが倒し終わり俺達の方へ戻って来る。

 返り血一つびていなのは流石と思うがそれ以上に困惑した。


「……何で旨味うまみの無いモンスターを配置してるんだ? 」

「ボ、ボクに聞かれても」

「手応えが全くありませんでしたね」


 パシィがそう言い、俺達はゴブリンの死骸しがいに目をやった。


 通常、管理運営しているダンジョンにモンスターを発生させる理由は素材として活用するためだ。それ故に一階層に素材にならないモンスターを配置する理由がわからない。

 普通に通行の邪魔だ。


 もしこれが未踏破ダンジョンならばゴブリンや、それこそ初見殺しなモンスターが一階層にいるのは分かる。

 未踏破ダンジョンは情報がなく未知でいっぱいだからだ。


「意図が読めないな」


 そうぽつりと呟きながら再度探索サーチを使う。

 俺が感知できる範囲にモンスターはいないようだ。

 増々ますますわからない。


「案外障害として置いたのかもよ? 」


 隣からサラシャが俺に言う。

 しかし俺はそれを真っ向から否定した。


「それこそまさかだ。素材を出して、採ってもらい、その利益の一部をもらう。これでダンジョンの経営は成り立っているんだからそんなことはしないだろ」

「だよねぇ」


 俺の反応を予測していたのか、サラシャがそう言い、俺達は更に先に進んだ。


 ★


「しかしハデル様は少し口調が変わるのですね」

「……いつの話だ? 」

「冒険者ギルドの時の話です」


 俺は風弾ウィンドショットでスケルトンの群れを一掃いっそうしながらパシィに返す。

 パシィは危なげなくゴブリンの群れを小刻みにしながら俺に言った。

 あぁ……、あの時のことか。


「ま、久しぶりにからまれたのもあるしな」

「ふむ。暴れると人格が変わったかのように口調も変わる。……二重人格ですね」

「違うわい! 人よりも少し好戦的なエルフなだけだ」

「「少し? 」」

「おいそこに疑問を持つな。……、風弾ウィンドショット! 」


 洞窟の奥から湧き出てくるゴブリン達を更に処理する。

 探索サーチを再度かけ直して次に進む。

 奥に向かって歩いているとサラシャが思い出したかのように言った。


「すごかったよねぇ。まさに大災害カタストロフ

「ええ。まさに暴れるその姿は鬼神のごとく、ですね」

「……今気づいたが何気に俺の正体バレてね? 」


 隣のサラシャに言うと「ニシシ」と笑いながら俺に向く。

 暗いが暗視ダークビジョンのおかげでいたずら心に満ちた彼女の笑顔が良く見える。


「そりゃぁボクが調べたからね」

「……私も手伝わされた覚えがあるのですが」

「い、良いじゃない! ボクも頑張ったんだからさ」

「いや良くないぞ。部下の実績を上司が横取りするなんて。なぁ、パシィ」

「ええ。ハデル様の言う通りでございます。サラシャ様がこんなに悪い子に育ってパシィは……非常に楽しいです」

「おい! 」


 上司も上司ならば、部下も部下か。


 しかしこの二人の情報収集能力は再評価しなければ。


 一応俺はEXランク冒険者。冒険者ギルド側がかなりの情報統制とうせいをしているはずだ。

 外に出ている情報なんてランクと二つ名くらいなはず。そこから俺がいる場所まで突き詰めたんだ。


 素晴らしい、の一言に尽きるだろう。


 この前の様に俺からばらさない限りはバレることのない情報だ。

 それを踏まえて言うのならば冒険者ギルド内の情報がれているわけで。

 警戒しないわけにはいかない。


 ちらりとサラシャに目をくばすと彼女が見上げてくる。


「ハデルが気にしているようなことはしてないから安心してよ」

「ならいんだが」

「ハデルがEXランク冒険者というのは誰にも言っていない。知っているとすれば一緒に調べたパシィくらいだから」

「一気に不安になったんだが……」


 サラシャがそう言いパシィが少し不機嫌になる。

 不機嫌になられても……、今までのパシィの行動を見返してほしい。


 そう言っている間に蒼白い魔法陣が見えてきた。


「これはダンジョン内転移の魔法陣だな」

「次の階層だね」

「次もゴブリン……ということはないでしょうね」


 口々くちぐちに言いながら魔法陣の上に乗り、次の階層に飛んだ。

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