第2話 ハデルは今後を考える

「ちょっ! どういうことですか!!! 」


 通信機に怒鳴りつけた。


『どうもこうもない。クビだというのだ』

「だから何でクビなんかと聞いてるんだ! 」

『……なんだねその不遜ふそんな態度は。上司に向ける言葉じゃない』

「俺がクビになるんなら貴様は上司じゃないだろうがっ! で、理由を教えろクソガキ!! 」

『わ、私に向かってクソガキとは……』

「こちとら三百年以上生きてんだ! 百にも満たないてめぇはクソガキだぁ! 」

『聞いていれば……。これだから長命種は』

「……てめぇ。差別で訴えてやろうか。国家公務員さんよぉ。全ての長命種を敵に回す覚悟、あんだろうな? ああ“? 」


 俺がそういうと通信機が静かになった。

 今時いまどき差別なんて流行はやらない。今訴えられたら奴は俺と一緒に失職だろう。

 いや、むしろ訴えて道ずれにしてやろうか。

 俺が何か不穏なことを考えているのを察知さっちしたのか「コホン」と咳払いをして「さっきの発言は失言だった。謝罪しよう」と聞こえてきた。

 謝罪している風には聞こえないが。


『でクビの理由だったか。そうシルクのダンジョンだ』

「……ふぅ。このダンジョンは順調ですが? 」

『どこが順調なのだね? 魔界産の素材に押し負けているじゃないか』


 そう言われ俺は顔をしかくちびるむ。


 魔界産素材。


 安値で高品質な素材が出るということで市場を席巻せっけんしている忌々いまいましい存在だ。


 俺が転生したこの地は精霊界・人界・魔界の三界からなっている。それぞれ特徴があるのだが、魔界は魔力濃度が非常に高い。そしてダンジョンから排出されるモンスターや素材は魔力濃度によって質が変わってくる。よって魔界に存在するダンジョンから排出される素材というのはかなり質が高い。


 だからそもそも比べる方がおかしい。

 そして善戦ぜんせんしている俺をめろ!


『理由は分かったようだね。では早急そうきゅうにそこから出るように』

「ちょっとま——」


 引きめる前に通信機を切られてしまった。

 唖然あぜんとしながらもそれを置く。

 コアを置いている机に背を預けてちゅうを見た。


「あほかぁぁぁぁぁ!!! 」

「思った以上に阿保あほだったな。あの男」

「ロッソと同意見なのが気に食わないですが、その通りですね」

「あわわわわ……」


 いやいやいや、無いだろ! なに考えてるんだ?!

 確かに一般市場では負けている。それは仕方のない事だ。そもそも人界のダンジョンが勝てる見込みなんて殆どない。

 だがどうして運営しているのか。それはその地にいる人に、手ごろに素材を供給するためじゃないか!

 国規模で考えてどうする!!!


 怒りでおかしくなりそうだが、「ふぅ」と大きく溜息をつき椅子に座る。

 ダンジョンコアを見てぽつりと呟く。


「……管理者権限を削除せずに出て行ってやろうか」

「ははっ。流石おれっちのマスターだぜ。やる事がえげつねぇ! 」

「ロッソ。まだ優しい方だと思いますわよ。もし私が主様ならばダンジョンコアを破壊して出て行きます」

「……本当にえげつねぇな。ベルデ」

「褒め言葉として受け取っておきましょう、ロッソ」


 俺の言葉よりも更に過激な言葉がでたが流石にそこまでは出来ない。

 完全に法律に触ってしまう。


 さてどうしたものかとそのまま白い天井を見上げる。

 あの意地悪で用意周到しゅうとうなクソ上司の事だ。クビと言われたので恐らくハービーの方で手続きはしているのだろう。

 ならば出て行かないといけないのは分かり切っている。出て行かないとこちらが犯罪者側になってしまうからだ。

 しかしかなりの時間と手間暇かけて持ち上げたこのダンジョン。手放すのはくやしい。


「主様。主様には私達がいるじゃないですか」

「そうだぜマスター。そもそもマスターはこんなちんけなダンジョンに収まる人物じゃねぇ」

「そ、そうです! 僕もそう思います! 」


 声の方に顔を向けると机の上から三リスが俺を励ましてくれた。

 可愛らしく俺を見上げている。

 それに励まされて、気合いを入れ直した。


「じゃ、出て行くか! 」

「その意気いきだ、マスター」

「これはむしろ仕事から離れる良い機会ですよ、主様」

「流石に仕事をしないのは、い、いけないんじゃないか、な? 」

「ははっ。ありがと」


 三リスの頭をそれぞれでてお礼を言う。

 気持ちよさげに目をとろんとさせる三リス。

 もはや精霊獣なのか、リスなのか、ダンジョンコアなのかわからないその様子に苦笑しながらも「どうしようか」と考える。


「精霊界に戻るのはどうでしょうか? 」


 そう言うのはベルデだった。

 良い案である。

 精霊界にさと帰りすれば仕事に追われるようなことはない。しかしあの過保護な母を思い出し、少し口をへの字に曲げる。

 ダメだ。戻ったら次精霊界から出られるのが何百年後になるかわからない。


「ならよ。人界のダンジョンを攻略していくのはどうだ? まだ人界のマザーダンジョンは攻略されてないっぽいしよ」


 ロッソがそう言う。


 これも良案だ。

 百年程人界で活動した為か俺の冒険者ランクはEXとおかしなランクになっている。上級ダンジョンをボコスコと攻略したおかげだ。

 これさえあればどこのダンジョンだろうが入れるだろう。

 マザーダンジョン探しと攻略。案として、置いておくか。


「ぼ、僕は魔界に興味があります」


 ふんす! と自己主張をするのはブルだった。

 確かに俺も興味がある。

 何せ良質なダンジョンがいっぱいある世界だ。ダンジョンを攻略してきた者としては心揺さぶられるものがある。


「ダンジョン攻略を進めないとだめだしな」

「そ、そうです! 」


 日本から転生し超過保護で偉大な女王に育てられたおかげで精霊界で二百年過ごさなければならなかった。

 よってまだ神様からのお題『三界に存在するすべてのマザーダンジョンを攻略せよ』を三分の一くらいしかこなせていない。

 人界に来て約百年になるがまだこの世界のマザーダンジョンを見つけられないでいる。人界で手間取っているせいか魔界はいまだに行ったことがない。


 一旦人界での活動を一休みして魔界で息抜きをするのもありだ。


 まぁ、精霊族ハイエルフという超長命種に転生させたことから長期的な目線で見ているのは明白めいはくだが、俺はされた課題は早くこなしたいタイプ。

 早めにこなして余った時間でゆっくりと過ごしたい。


「何にせよ引継ぎをしてゆっくりと考えるか」


 そう言いながら部屋の荷物をリュックサックに吸い込んだ。

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