第33話 ハデルは再度冒険者ギルドへいく

 暗い中も光を感じる。

 朝か。

 目を開けると窓から差し込むまぶしいが俺を襲った。

 光を腕で隠しながらも、いつもとは違う甘い香りがする中、体を起こす。

 するとどこからか声が聞こえてきた。


「おはよう。ハデル」

「おはようございます。ハデル様」

「あぁ……。おはよう」


 声の方向を見るとサラシャとパシィが机でモーニングティーを飲んでいる。

 王族の朝だと思いつつ、少しごわごわしたベットから体を降ろして背伸びをする。

 そして少し思い出す。


 昨日の晩、サラシャとパシィは「安全なところで寝たい」と言い俺の部屋に泊まった。

 俺は良いんだがある意味俺の部屋も、客観的に見て安全とは言いがたい。

 何故ならばたけ猛獣もうじゅうこと男性であるこのハデルがいるからだ。

 それを話したら「大丈夫だよ」と笑いながら返され、そのまま俺の部屋に泊まることに。


 男とみられていないような気がして若干傷ついたのは秘密だ。


「昨日は素晴らしい一時でした」

「パシィはな」

「? 」


 役得やくとくこの上ないのだが、ベットが一つしかないこの部屋。

 その状況に気が付きどうするか悩んでいると、パシィ「全員で寝れば良いじゃないですか」と言った。

 「なにを馬鹿な」と言い返そうとすると、サラシャがそれにわる乗り。

 結果的に全員同じベットに、ぎゅうぎゅう詰めで寝ることになった。


 そんな状態だ。パシィが普通でいられるわけがない。

 サラシャの隣に陣取ったパシィはドン引きするぐらいに興奮状態。そしてそれに気付かず早い眠りに入るサラシャ。

 ギランギランとした瞳と俺の瞳が合った時の事を思い出すと、少しホラーだ。


「それにしても顔が艶々つやつやしているようにみえるのは気のせいか? 」

「気のせいだよ」


 と笑顔でそう言う。

 特段色っぽい事もなく寝たのだが、寝入るまでに時間がかかった俺。


 それはそうだろう。

 すやすや眠る可愛い淫夢魔サキュバスと変態性を除けば美人に入るパシィ。この二人とベットを同じにした状態でいつもと同じように寝れる男がいるのなら、そいつは男ではない。

 だがしかし結局の所、旅の疲れもあったのかいつの間にか寝てしまっていた。

 ナイス、自制!


「準備はもうできてるみたいだな」

「もちろん」

「後はハデル様だけでございます」


 そう言われ体を動かす。

 そして二人に顔を向けた。


「……出て行ってほしんだが? 」


 ★


 服を着替え緑のローブに身を包んだ俺達は朝の町を歩いていた。

 区画整備のされていないこの町で、様々な人が行きかっている。

 門がある所からは荷馬車が何台か入ってきているのが見えた。

 店の前に止まった馬車に品物を運び入れる町人。

 それを見てまだこの町の産業が完全に死んでいない事が分かった。


「今日は何をするの? 」


 隣からサラシャの声が聞こえてきた。

 機嫌が良さそうだな。

 まぁ悪いよりかは良いが。

 そう思いながらも少し彼女の方を向き今日行く場所とやる事を伝える。


「まずは冒険者ギルドで昨日のお金の回収」

「……あれ本気だったんだ」

「もちろんだ。あっちだって本気でこっちの身包みぐるみをがそうとしたんだからな。やられても文句は言えまい」


 そう言い言葉を続ける。


「後はダンジョンに行く」

「最初の日だもんね。頑張らないと」

「ああ。頑張って——攻略しよう」

「「攻略?! 」」


 隣から驚きの声が上がった。


「ちょっ、攻略ってどういうこと?! 」

「そのままコアルームに連絡して入れてもらえばいいのでは? 」


 もっともな意見だ。

 だがそれは断る。


「曲がりなりにも俺達が来るまでダンジョンを運営していたんだ。どんなダンジョンなのか気にならないか? 」

「気になるけど……」

「ダンジョンに迫る侵入者! さて。俺達にどう対処するのかお手並み拝見はいけんと行こうじゃないか」


 そう言いながら俺達は冒険者ギルドに足を踏み入れた。


 ★


「……こちらが対象冒険者達の全財産になります」

めてんのか? 」

「決してそのようなことはっ! 」


 受付で俺は憤慨ふんがいし怒気を放った。


「これで良いんじゃない? 」

「何馬鹿なことをいう、サラシャ。俺は全財産と言ったんだ」

「しかし本当に全財産では? かなりの金額ですし」


 パシィがそう言うと受付嬢が大きく、激しく頭を振った。


「じゃぁ聞くがなんでこん中に武器類が入ってない」

「? 」

「俺は全財産と言ったよな? なら武器類も財産の内だろぉ! 」


 そう言い拳を机に叩きつけた。ひぃっと声を漏らすが俺は譲る気はない。

 何せ冒険者という武力集団の盗賊行為を許しているギルドだ。譲る必要性を感じない。


「……朝からなんだ。うるさいぞ」


 俺が怒鳴るとどこからかえらそうな人がやって来た。

 この前は見なかったな。

 しかしこの服。恐らくこの町のギルドの職員だろう。


「お前達見ない顔だな。騒ぎを起こした責任でも取ってもらおうか」


 そう言う職員に俺達はついて行った。


 ★


「ま、まことに申し訳ございません! 」

「謝罪はいらん。きちんと落とし前、つけるんだろうな? 」

「い、いえ……それが、その……」


 と男は歯切はぎれ悪く言う。

 俺の正体をしり、そしてサラシャの正体を知ったこの男、冒険者ギルドのサブマスター『ゼク』は地面と体がくっついていた。


 最初俺の話を全く信じなかったこの男。俺が手を出す前に、サラシャが生命力吸収ドレインタッチで力を奪った上に王家の紋章もんしょうとやらを出した。

 力を奪われ床に転がる状態になったが気にしない。

 そこから再度自己紹介やら状況やらをした。


「冒険者ギルドがきちんと運営されていないみたいだね。これは魔王陛下に進言する必要がありそうだ」

「そ、それだけはご勘弁かんべんを」

「それはない話だぜ? 確かに冒険者は武力行使が認められている。だがそれは冒険者ギルドがきちんと彼らを監視することが条件のはず。それをおこたったんだ。最悪この町から冒険者ギルドが無くなると思った方が良い」


 俺がそう言うと更に顔を青くするサブマス。


 ダンジョン産業が成功する前までならばそこまで問題にならなかっただろう。しかし今は踏破とうは済みダンジョンが管理されている時代。

 冒険をしなくなった冒険者が今もなお武器を持てるのはダンジョン外に出現するモンスターや盗賊を退治する必要があるためだ。

 よってその冒険者の管理はギルドが責任をもって行わないといけない。

 加えるのならば、この魔界では敗者であるあの冒険者達は勝者である俺に何を言われても文句が言えないわけで。


「私の生活はどうすればっ! 」

「仕事なんて幾らでもあるだろ? 食堂の給仕に店の店員。少し視野を広げてプライドを捨てれば身分証一つで仕事ができるんだ。良い世の中じゃないか」


 そう言い残し俺達は扉を閉めた。

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