第41話 ハデルはやり返す
「ではハデル殿。こちらの書類にサインをお願いします」
「サラシャ。確認を」
「はい」
「え? 」
ギュンターが契約継続の話し合いを始め、書類を出したところで王女サラシャに確認させる。
彼女が書類を手に取ろうとするとギュンターが驚いた表情をする。
契約前に書類を確認するのは当たり前だろ?
サラシャが書類を手に取りそれを読んでいく。
体調の悪そうな顔が更に悪くなるギュンター。
そしてサラシャが一言。
「この契約書は無効ですね」
「「……」」
「ちっ! 」
町長と商人が沈黙し、赤鬼が舌打ちを打つ。
事前に俺達が出向くとは言ってない。よって以前の契約書のまま来るだろうことは簡単に予測できた。
加えるのならばギュンターにかけた
『アベルのダンジョン』を不当に搾取している人物について俺達とダンジョン三人娘が話した時、最初に上がったのがこの三人による共謀説だ。
ダンジョンと直接契約している二つの組織——『冒険者ギルド』と『コズ商会』は違法契約をしている。よって書類上でもこの二つの組織は完全に黒。そして仲介役で土地の貸し出しをしている町長『ギュンター』も犯罪に手を貸しているのではないか、と名前に浮上した。
そして今回ギュンターから契約書が出てきたので、完全に共謀説が確信になった。
「さて町長ギュンター。これはどういうことだ? 」
「……と言いますと? 」
「ダンジョン側が一方的に不利益を
そう言うと押し黙るギュンター。
すると商人魔族『コズ』が口を開く。
「これは
「ならば新ダンジョン管理人として新しく再契約しても問題ないよな? 」
「それは構いませぬが……、書類はお持ちで? この場で契約を更新しなければ後の
「あるぜ」
「え? 」
「新しい契約書があると言ってるんだよ。サラシャ」
「こちらになります」
今回文官に成りきっているサラシャが三枚の契約書をそれぞれに差し出す。
赤鬼以外の代表がそれを見て顔を青くした。
「こ、こんなの
「何言ってるんだ。そこに書かれている利用料は法律に
「くっ! ならば一度この話を持ち帰り——」
「おいおい。それはないぜ、コズよ。ここで契約しないと後の商いに差し支えるんだろ?
そう言うと
ちらりと赤鬼の方に目をやると今にも暴れそうなのを我慢している様子だった。
「サインが出来ないか。ま、俺にとっては別にかまわない」
「? 」
「いやコズよ。別に商人はお前だけじゃないんだぜ? 」
「! ど、どういう」
「ここで契約しないならばそれでかまわない。ギュンター町長はあとで公的な罪が
コズの顔が面白いくらいに赤くなり、座っているソファーが自体が震えだしている。
俺がコズを挑発していると赤鬼こと冒険者ギルド・ギルドマスターが口を開いた。
「さっきからぐちゃぐちゃと……。クソエルフ。てめぇが何
「別にかまわないが」
「……なに? 」
「俺は召喚魔法が使える。それこそ一個
そう言うとギルマスが「ふざけるな!!! 」と怒声を上げた。
「自前で一個師団ほどの召喚魔法が使える?!
「信じられないのならば……。
左手をかざして魔法を唱える。
するとギュンターの隣に甲冑を着た三体の
そして一瞬の隙に赤鬼の首に剣を三本突き立てた。
「!!! 」
「別にお前達に利の無い契約じゃないんだ」
「くっ! 」
「さぁ。契約書にサインを」
★
「ふざけるなぁ!!! 」
ハデル退出後した後、赤鬼ことレドが怒鳴る。それをきっかけに他のメンバーが口を開く。
「何なんですか……。あの化け物は」
コズは真っ白い顔をし手を震わせながらそう言った。
しかしすぐに顔を上げぐったりしているギュンターに向いた。
「ギュンター町長。この事を事前に伝えなかった貴方の責任は重いですよ? 」
「私は全身
「それはどういうことで? 」
説明を求めるコズにギュンターは魔法反射の事を話した。
それを聞きレドが怒声を上げながらギュンターに責め寄る。
「たかが
「そう言いましても……。先程の召喚魔法。見ましたよね? 彼が異常な事はお分かりのはず」
それを聞き嫌なことを思い出したのか「ドン! 」と音を立てて震える拳を机に立てた。
それを見て溜息をつき、コズがギュンターの方を見る。
しかしその瞳には少しの余裕があった。
「……話によると産出量がこれから数十倍以上になるとのこと。これまでの契約が出来ないのは痛いですが……、まだ我々コズ商会はやりようがありますね」
「……ちっ。サインはした。ギルドに被害は出ねぇはずだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私はどうすれば! 」
二人が少し落ち着きこれからの事を口にすると、慌ててギュンターが立ち上がり助けを求める。
しかし二人から出た言葉は非情なものだった。
「これまでの書類は全て
「燃やさねぇと、貴様の首を取りに行く」
「ちょ! 皆さん。それでいいのですか?! やられっぱなしですよ?! 」
レドがピクリと眉を動かす。
「それにどれだけの利益が出て、どれだけの損害が出るか分かりません! ここはダンジョンに攻め入るべきでは? 」
自分だけ
そのことがわかっているのかコズがギュンターを見る目は冷ややかだ。
「レドさん! ダンジョンを再攻略し貴方の力を示せばだれも文句は言えないでしょう! 」
ギュンターはレドの過去を知っているがためにそれを刺激する。
レドがギュンターを見る目が少し変わっていく。
「ダンジョン攻略者。これが貴方の実績になるはず! 先ほどは不覚を取りましたが恐らくあれは魔導具でも使ったのでしょう。あのような高位精霊を三体も召喚できるはずがありません!!! 魔導具にも制限があるはず。ならばあの場はこけおどし。私の場合は実力不足ですが、貴方が立ち向かえば必ずや勝てるでしょう!!! 」
ギュンターがそう言い持ち上げる。
そしてレドは好戦的な目を彼に向けた。
「その話、乗った! 」
ギュンターは乗り気ではないコズを何とか説得して話を詰めていく。
ギュンターの頭にはこれしかなかった。
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